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#12.5 私をヒロインと呼ぶ、頭のおかしな後輩



 子供の頃から私は浮いていた。


 他人を笑う

 ズルをする

 ウソをつく

 友達だった人をいじめる


 そんな周囲の人たちに馴染むことが出来ず、そして自分だけはと厳しく律していたら、”真面目過ぎてツマラナイ子”と呼ばれるようになっていた。


 だから、小学生、中学、そして高校と、ずっと一人だった。




 高校では、担任の先生から頼まれて風紀委員になった。


 風紀委員は、私の性に合っていた。


 私の通う高校は、中学まで以上に浮かれた生徒たちばかりだった。


 高校受験を乗り越えた解放感からだろうか。


 みなオシャレを競い色恋に夢中になり、そして自分を良く見せる為だったら校則は平気で無視するし、嘘を付いてまで他人と張り合い承認欲求を満たそうとする。虚栄心の塊ばかりだ。



 私はそれが許せなかった。


 学校へ何しに来ているんだ、と。


 だから他人に厳しく、そして自分にも厳しく学生生活を送っていた。



 そんな学生生活を送る中で、一人の後輩が私の前に現れた。


 その後輩は、一言で言えば”問題児”

 兎に角、ルールを守らない。


 一番多かったのは、マスクを外して登校してきたり校内を歩いていたり。


 このご時世、そんな勝手な振舞いを許してしまっては、何か起きてからでは手遅れになりかねない。


 この様な生徒は他にも沢山いたし、そういった生徒を見つける度に注意した。

 この後輩もそう。私はこの後輩を見つける度に捕まえては、厳しく注意した。



 しかし、この後輩は他の生徒と違っていた。

 注意すれば素直にマスクを身に着けるのだけど、私に向かって毎回ふざけたことを言い返してくるのだ。


「そんなに俺に構うだなんて、よっぼど俺のことが好きなんですね」

「もっと素直になって良いんですよ? ホントは俺とお喋りしたいんですよね? 可愛い子猫ちゃんだぜ、まったく」

「サクラ先輩は、主人公の俺に構って貰らえないと寂しいんですよね? 手の焼けるヒロインだぜ、やれやれ」



 今まで、こんなにも頭のイカレた人間は私の周りには居なかった。

 イカレているというか、圧倒的で不屈なポジティブ思考?


 毎回毎回どんなに私が怒鳴って怒っても、全く堪えることもなく良い様に勝手に解釈して、一々甘い口説き文句で私を翻弄してきた。


 その度にイライラしてストレスが溜まる。


 だからなのか、この後輩を見過ごすことが出来なかった。 顔を見れば一言二言言ってやらないと気が済まなかった。

 きっと私も意地になっていたんだと思う。


 だけど結局は、私はこの後輩を更生させることが出来なかった。

 どこまでもフリーダムでポジティブで、そして自分を主人公だと言い張っていた。




 3年になり風紀委員を引退すると、もうその後輩と絡むことは無いだろうと思っていた。


 相変わらず周囲の生徒からは距離を置かれていた私は、ふと気が付く。


 風紀委員としてあの後輩と絡むことが無くなると、私は一人ぼっちだ。

 逆に、あの後輩は私にとって唯一交流がある生徒だった。


 そう考え始めると、なぜか寂しくなった。


 あんなにもいつもいつもイライラさせられていたと言うのに、後輩の顔が見たくなってしまったのだ。


 だからと言って、既に風紀委員では無い自分から後輩に会いに行くというのも理由が無いし、結局一人寂しく教室で過ごすしか無かった。



 しかし、そんな私を後輩は見逃してくれなかった。

 残りの高校生活を、寂しく過ごすことに半ば諦めていた私の前に彼の方から現れた。


「今日はサクラ先輩が会いに来ないから、顔を見に来ましたよ」

「主人公ですからね、俺。 ヒロインに寂しい思いをさせないのも主人公の役目ですよ」 


 風紀委員を引退してたった1日で、後輩はこう言って私に会いに来てくれた。


 相変わらずの口説き文句が妙にくすぐったくて、でも心地よかった。


 そして、つい思ってしまった。



 この後輩は、本当に主人公なのかもしれない。

 私は、この後輩にとって、ヒロインになれるのだろうか?




 全く、いつから私はこんなにもチョロくなってしまったのだろう。


 この後輩に出会ってからだろうな、きっと。



 私をこんな女にしてしまうなんて、()()()()()だ、水元ノリオ。




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