聖女は雄っぱいを希う
ユリア・メイアは常人より高い法力ゆえ12で聖女に任命され、教会で暮らして6年が経った。
「はぁ……辛い。何が悲しくて6年も女の園に引きこもってなければならないのかしら。雄っぱい…。雄っぱいが見たい…。ぱふぱふしたい。」
というのは建前で、ユリア・メイアはその実幽閉されているのだった。
それというのも12歳の時におつきの護衛騎士へとセクハラをかまし、騎士団長はじめ城内の騎士たち全般にセクハラをしまくったために激怒した王に幽閉されたのだ。
「貴様は王族の恥だ!!国の宝である騎士たちにセクハラなんぞしおって!幸い家系的に法力が高いからそのまま教会で聖女として祈っておれ。適齢期までに性根が治らんかったら一生聖女でいるんだぞ!」
王家の始祖は聖女と言われ、その後も高い法力で度々聖女を輩出してきた王家。ユリア・メイアも実力で言えば文句なしに聖女を張れるのだが、中身が腐っていた…。
歴代の聖女も百合厨、腐女子、なかなかアクの強い性癖を持っていたようだが、ユリア・メイアは実在の人物にセクハラという害悪をかますので、祈りの巡業などは聖女業からカットされ、ただただ6年間教会の中で祈りを捧げる日々を送っていた。ぶっちゃけ本当に幽閉である。
「神様仏様初代聖女様、どうかすてきな雄っぱいの旦那様をお遣わしください。色んな雄っぱいに手を出すのはやめます。今後は素敵な雄っぱいの旦那様に尽くすと約束します…。生涯愛し尽くすと誓います…。だからどうか一等素敵な雄っぱいの旦那様をお遣わしくださいませ……!!!ばいんばいんが……いいです……」
ユリア・メイアは神像の前で必死に祈った。
祈ってる内容はアレだが、外見は絶世の美少女なので大変聖女らしい。
(そなたの願い…聞き届けましょう その代わりセクハラはもうやめるのですよ…… )
「!!!?」
6年間、祈り続けたユリア・メイアだが、天の声が聞こえたのは初めてだった。
神様もちょっとうんざりしたのかもしれない…。
祭壇からふわりと西瓜ほどの大きさの光が浮かぶ。だんだんと光は大きく眩くなり視界を白く塗りつぶした。
どすん。
「ぐおっ」
大変大きい、熊のようなものが目の前に転がっている。
「な、…………ここは、神殿か……?」
人語を解す、熊のようである。いや、熊のように大きな人間であった。
背が高く、体は柔軟そうな、健やかな筋肉に覆われている。
見た目のために鍛えたのではなく、鍛錬や労働の結果身に付いた程よく弾力のある筋肉。
そしてすばらしい厚みだ。
「お、おお………」
(雄っぱい!!!!!!!!!!)
「なんて理想通りの方なのかしら!!!!神様、感謝いたします!!!ああ、神が与えもうた方!あなたのお名前を教えてくださいっっ!」
「ヒエッ!う、美しいお嬢さんヨダレがすごいですよ!!?圧が!!怖い!!」
がっしと両手を掴んで、まさに掴みかからんばかりの勢いの美女がギラギラした目でよだれを垂らしながら迫ってきたので、筋肉美の男は怯えた。
実は筋肉美の男はこの国の将軍の息子で辺境で魔物討伐にあけくれていたので、王女であるユリア・メイアと面識はなかった。
「ジェイソン・ガーランド様と仰るのですね??ガーランドといえばガーランド卿のご子息かしら?」
「ヒイッ!!名乗ってないのになぜわかるんです!?何このお嬢さん怖い誰」
何百もの魔物を倒してきたジェイソンだが目の前の美女に圧倒的な恐怖を覚えていた。
名乗ってないのに素性を知っているし、息を荒げて目も血走っていて話す言葉も意味がわからなくて怖い。
ユリア・メイアは心を読んだのだ。無駄に高い法力のなせる技である。
「私はユリア・メイア・ラングスティンと申します。この国の第三王女ですが王位継承権は返上して聖女をしております。先程神からお告げがあり私の夫として貴方を遣わすと。まぁ困ったわ。誰か!教皇(叔父上)を呼んできて!!今すぐ式を挙げなくては!!神がお認めくださった夫ですからね!!」
「え???何なの急すぎて全然意味わからない???聖女?狂女の間違いでは?」
怯える男に構いもせず、叔父である教皇を呼び出すとそのまま結婚してしまった聖女は、後世で救世の聖女と呼ばれた。
稀代の癒し手であった彼女は死んでなければどんな負傷もたちまちに治してしまった。
後の帝国軍の襲撃においては、彼女と夫が率いた王国軍は「不死身の軍団」と呼ばれ、王国と「神から授かりし夫」を守りきったという。