終わりのない本
この本は、終りがありません。
最後のページを開くと、ぺージがどんどん追加されてしまうのです。
終りを目指して読み進める人がたくさんいます。
しかし誰一人として、最後のページにたどり着くことができません。
本を読もうとする人は、どんどん数を減らしました。
最後にたどり着けない、長ったらしさにうんざりしたからです。
とてもいい物語も、長々と結末を伸ばされてしまっては台無しだ。
終りのない本を見限る人たちはみなそういいました。
誰もが物語を見限る中、ずっと本を手放さない人がいました。
私は終りを目指しているのではないのよ、そういって、ぎゅっと本を抱きしめました。
本は、終りのない本を愛した人のものになりました。
本は、毎日終りのない本を愛した人と共にいました。
毎日読まれる、終りのない本は、終りのない本を愛した人に、毎日本を読むという日課を与えました。
孤独な人生を歩んでいた終りのない本を愛していた人の日常が、潤いました。
日々、終りのない本が、次の日を生きたいと願わせる物語の続きを読ませてくれたからです。
終わりのない本を愛した人は言っていたそうです。
「私は、この本の終りを知るために、また、生まれてこようって思えるのよ。」
そういって、本を開いて、読み進めた次の日に、終りのない本を抱きしめたまま、終りのない本を愛した人は、生涯を終えました。
終りのない本に、終りがあったのかどうか、結局誰も知らないまま、本は終りのない本を愛した人と共に天に上りました。
終りのない本は、この世界から消えてしまいました。
最近おかしなことに。
終りの見えない物語がたくさん発表されているのです。
まだ続きますと書いてあるのに、なかなか続いていかない物語があふれているそうです。
終りのない本は、この世にたった一冊しか存在しませんでした。
その一冊は、すでに失われています。
ですから。
貴方の物語は、必ず完結、させないといけないんですよ。
完結を待ち続けて、いるんですよ。