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憑神  作者: 右下
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第八話:嘘

『ダンバートン』みんなからは『ダンバ』と呼ばれ親しまれている。


毎日色んな街から物資が届き、ダンバはつねに物で溢れて賑わっている。


ダンバの自慢は、沢山の上級裁縫職人が住んでおり、一級品の衣服を仕立てる仕立て屋が沢山あることだ。


ダンバは言わば衣食住の衣が盛んな街だ。


ちなみに衣食住の住が盛んな所、とゆうより住宅が沢山あるのは街ではなくずっと北にある王国、ミッシェルハイド王国だ。


僕達が現在いる場所はダンバートンの中央広場。流石に街となると人通りが多く、夜の現在でも人が沢山行きかっている。


デルの村を出て数時間ほど歩き、ダンバに着いたのは日が落ち始めるおうまが時の夕方だった。早速街の中央に建っている大聖堂に向かい、現在、依頼の神木を届けてようやく僕の仕事が終了したわけだ。



その後、僕達は街の東区にある宿屋にチェックインをして、現在は三人で街の中央広場に来ている。


「わぁ~。すっごい沢山の人だ~、お祭りってやっぱり賑やかだねっ!」


物珍しそうに、マナは周りをあたふたと窺っている。マナが人が多いとこに来るのはめったに無いらしいから、この光景に驚いてるのも無理ないだろう。


「うむ、わしもこんなに人を見かけるのは何百年ぶりじゃ。いったい何が始まるのかの?」


こちらの神も何百年ぶりという、人が一生使わない言葉を言っている。そういえばシロさんの過去についてはまだまったく聞いてなかった気がする。


「えっとですね、今日はまだ下準備でして。明日行われるのが、この街の伝統行事『復活祭』です」


「ふぅむ。して、その復活祭とやらはつまり何じゃ?」


可愛らしく小首をかしげて聞くシロさん、思わずドキッとしてしまう自分がいた。


「えっと。この街には古くから『ダンクネス』と言う美しい女神が住んでいると言われていまして、その女神はこの街に幸福と平和をもたらしたと伝えられています。だからこの街に住んでいる人々の半分以上はダンクネス教っていう宗教の信者なんです」


「へぇ~そうなんだ。半分以上ってすっごいねっ!」


「美しい女神、か。まぁ、わしより美しい神など存在せぬがな」


ふふりと笑みを浮かべ、シロさんは一人勝利の余韻に浸っていた。


今の発言で、ある意味勝敗は決してると思うが決して口には出さないでおこう。


「それでですね。明日がその女神が死んでしまった日なんです。だから明日行う復活の儀式でダンクネスを復活させ、毎年ダンクネスに今年も平和で幸福が続く一年にしてもらえるようお願いする行事なんです。あ、別に本当に復活させてるわけじゃありませんからね?」


「死んでしまったって、女神様死んじゃったの?」


「うん、そう伝えられてるよ。昔は一時期平和を保っていたダンバだったんだけど、それも長くは続かず、過去最悪の災厄がダンバを襲おうとしていた。しかしそれをすぐに察知したダンクネスは、我が身を犠牲にして街を守りぬいた。だからこの街の人たちは今でもダンクネスに感謝していているんだよ」


「そうなんだ、でも女神様が死んじゃったって、ちょっと悲しいね・・・」


とても悲愴な顔で顔でマナは言った。見ているこちらも悲しくなってきてしまう程の顔で、僕は顔をそらした。


「ふん。いつまでも死んだ神にすがりつき、街の平和を願うなどいかにも人間らしいの」


一方シロさんは少しイラついてるのか、急にちょっと怒り気味のようだ。


「ダンクネス・・・・・・」


蚊の泣くような小さな声で呟いたシロさんの言葉は、僕達には聞こえなかった。



「さて、それじゃとりあえず腹ごしらえしようか。近くに美味しい店があったから、そこへ食べに行こっか」


「うんうん、だ~い賛成~!四季折々~」


ご飯の提案をしたら、マナの先ほどの悲しい顔などまったくの嘘かのように表情が一変した。本当食い意地が張っているやつだなと、ある意味感心してしまう。


しかしマナとは対照的に、何故か表情がさらに険悪になったのはシロさんだった。だが勿論理由は分かりきっている、僕としても出来る限りシロさんに食事をさせてあげたいよ? でも僕の力じゃどうしようもないのだ。牧師だからって、神に何でもするとは限らないんだよ?


「シ、シロさん」


恐る恐る話しかけてみる。


「・・・なんじゃ」


ブスッと答えるシロさん。この様子じゃ今はご機嫌斜めを通り越して、ご機嫌下り坂だった。


「えっと、やっぱり何か方法はないんですかね? シロさんが食事をとれる方法、とかは」


「・・・・ない、こともない。じゃがよいのじゃ、心づかいは感謝するとしよう」


「ダメだよそんなこと!!」


いきなりの横やり。当然、声の主はマナだった。いきなり大声を出したので、周りの人達も何だ何だとこちらをチラチラと窺ってくる。


「シロナちゃんっ!? 食事が出来ないって事は死ぬのと同じなんだよっ!!」


あまりにもマナが迫力たっぷりで言うから、シロさんも思わず目をパチパチしている。とゆうより、シロさんはすでに死んでいるのだけど。


「し、しかしの、この方法はそう簡単に出来んのじゃ。じゃから別によいのじゃ、じゃから」


「ダメっ!!」


シロさんの言葉を遮り、一歩も譲らないマナ。まさかマナがこんなに異議を唱えるとは思いもしなかった。マナにとって食事は、もしかしたら命より大事なのかもしれないと言っても過言ではなさそうだ。


「マナ、とりあえず落ちついて、ね? シロさん、もうこうなったらその方法を教えて下さい。今の状態のマナを押さえつけるのは、僕には不可能ですよ」


「ぬぅー・・・・わかったわかった。じゃが、きっとその方法を聞いたらお主達も諦めるざるおえないじゃろう」


諦めざるおえない、そこまで断言するってことは一体どんな方法なんだろう。こちらから聞いといて悪いが少し怖くなってきた。


「主、わしがお主にとり憑いてまでやり遂げたい理由を覚えているかの?」


「え? あ、はい。確か自分を殺したやつに復讐? でしたっけ?」


「ふむ、大体そんな感じじゃ。じゃがわしはどうやってそ奴に復讐する? 体もなければ力もほとんど残っていない、今のわしに」


「えっと、嫌ですけど、例えば僕の体に入って戦う・・・・・・ですかね?」


「それは無理じゃ。奴はとても強い、フルパワーのわしでも太刀打ちできんかった程にの。闘ってもお主の体じゃすぐに壊されてしまう」


さらっと恐ろしい事を言うなぁ・・・・・。


「そ、それじゃどうすれば?」


「わしは今、お主にとり憑いていることによって、少しずつ本当に少しずつじゃが力を蓄えて昔のわしに戻ろうとしている。じゃがわしの力が完全に戻ってもお主の体じゃ満足に戦えん、じゃからわしには生身の体、つまり肉体が必要じゃ」


「え、今のシロさんの状態は実体じゃないんですか? てっきり他の人に姿を見せる時にあるあれは実体かと思ってました」


そう、今はシロさんも姿を現しており、他の人の目にも映っている。だからシロさんの美貌と、その珍しい服装に周りにいる男性達は、先程からシロさんをガン見してる人がちらほらといる。


「うむ。確かにわしの今の状態はお主以外の者に見える、じゃがなお主。今の状態のわしに触れた事はあったかの?」


「・・・・・いや、ないですね。あ、もしかしてシロさん」


「その通り、わしには人も物も触ることは出来んし、誰もわしに触れない、見えるだけのただの幽霊じゃ。じゃからわしには肉体がいる、実体があれば触れるし食べる事も出来る」


「じゃあ簡潔に言うと、いったいどうすればシロさんは実体を手にする事が出来るんですか?」


「その方法を今言う。きっとこれを聞けばお主達の気も変わるじゃろうな」


ごくっと無意識に唾を飲み込む僕、マナも少し不安そうな顔でシロさんの言葉を待っている。


「ずばり」


「ず、ずばり」 


「ずばりっ!?」


一番目にシロさん、二番目に僕、三番目にマナが声を揃えてシロさんの言葉を復唱した。


「特にな~んもないわい」


・・・・・・・・・・・・??


一時停止、思考が完全ストップ。


世界が止まったんじゃないかと錯覚してしまうくらい時が止まった。


「わっははははは、ひっかっかたの~!や~いや~い。あぁ~腹がいたいわっ!」


「へ?・・・・・・えっとぉ、え?」


「じゃ~か~ら、全部ウソっぱちじゃ!そんな深刻になるような方法など無いし、それに本当はわしに食欲などいっさいないわっ」

 

「つ、つまり今までのは素振りは、全部・・・・・・演技?」


「うむ、その通りじゃ。よく考えてみぃ、死んだ者に食欲などあるわけなかろーにっ!実体も時間がたてばその内力が溜まり勝手に手に入る筈じゃ。すっかり騙されおって、本当面白いやつじゃなお主達は」


わっはっはっは、といつもの狂ったような笑い声を上げ、周りの人々はビクリと一歩後ずさっていた。


ピキピキピキ。


「さっ。マナ、そろそろお店行こうか」


「うん、そうだねっ。お腹ペコペコだよ~」


満面の笑みで僕とマナは店に向かって歩きだした。目だけは完全に笑ってなかったが。


「ぬ、お主達どうした?」


「あそこはね、鳥料理がとっても美味しいんだよ」


「本当!? やった!たっのしみ~♪」


「お~い、無視かの?」


「今日は勿論僕がおごるから、好きなだけ食べていいからね」


「うわ~!クロちゃん太っ腹!!よっ!質実剛健!」


「ぬぬぬぬ」


僕とマナはシロさんの存在を、頭の中ら完全に除外して、歩みをさらに速めた。


後ろから「すまん~!」「孤独じゃ~!孤独は嫌じゃ~!」「ほんの可愛い悪戯じゃよ!? おべっかが過ぎたかも知れんが、それがわしじゃろ!?」と蜃気楼のような声が色々と聞こえたが、きっと僕達には関係ないので気にせず店へ向かった。


お店で食事をしている最中も、ずっと謝罪のような言葉が聞こえていたが、きっと僕達には一切関わりがないので、美味しく食事を頂いて宿屋へ帰った。



牧師を務めている事がバカバカしくなるほどの、久々の憤りだった。



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