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憑神  作者: 右下
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第七話:出発

「あったあった~!私の大事なカトレアちゃんっ!」


と、謎の名前を呼びながら昨日から森に放置してあった斧に駆け寄るマナ。


「マナ~。えっと、カトレアって誰?」


「この子だよこの子~。私のだ~いじなカトレアちゃん!昨日から一人で寂しかったよね、うんうん、大丈夫すぐお家に帰れるからね~」


やっぱりだったが謎の名前の主は、マナの斧の名称だった。親しい友達のように話しかけて『お~よしよし』と撫でまわしている。


そんなマナの姿を見てシロさんは姿を消して、僕にしか見えない状態になりお腹を抱えながら大笑いしている。マナの目の前で大笑いせず、ちゃんと姿を消してから笑ったのは親切な配慮だろうか、それとも好き放題笑える自分への配慮なのか。いずれにせよ、狂ったかのようにずっと大笑っている。


「僕、今までマナの斧に名前があるなんて知らなかったけど、前からあったっけ?」


「ん~ん。名前をつけたのは一カ月くらい前かな? 久しぶりに旅人さんが村に立ち寄って、色んな地方の話をきかしてくれたんだ~」


旅人には目的地がある者と、ただ色んな所を放流している者がいる。マナの村に来たのはきっと後者の方だろう。デルの村みたいな田舎は村のみんなが知り合いであり家族同然だ。家に鍵など掛けなくても泥棒など絶対にない。だから犯罪などほぼ皆無に等しく、いつも平和である。


言い方を悪くすると、いつもみんなは暇なのである。


だから時折村を訪れる旅人は最高の暇つぶしであり、ほぼ村の全ての住民は旅人に会いたがる。旅人は各地を転々としているので、色んな町の民話や伝承、近頃起きた事や流行りなど沢山の情報を持っているので、みんなそれを聞くのが大好きなのだ。


「その旅人さんがね、こんな話をしてくれたんだよ」


『最北にあるミケドと言う町にはこんな言い伝えがあった。「人には物をいつまでもいつまでも大事に扱うと、やがてその物に魂を宿らせ力がある、そしていつかはしゃべり、動くようになり、今まで大事に使ってくれた者に最高の幸福を与える」と言ったものだ』


「だからだから、私がず~っと大事に扱ってるこの斧に名前をつけてあげたの!そうした方がもっと愛着が沸くし!何か前よりも可愛くなった気がするんだよ!」


「そ、そうなんだ」


話を聞いてみて判断した結果、それはきっと作り話だろな・・・・。


今の言い伝えなど、ちょっと中身を変えた話ならゴロゴロあるものだ。多分子供は物を粗末扱うからすぐ壊してしまう、だからそうならないように作った作り話なんだと思うなぁ。


だが、ここで変にマナの夢を壊すわけにもいかないし、教えなのが得策だろう。知らぬが仏である。


一方シロさんは、今の話がさらに拍車をかけたようで、収まりかけた笑いがまたこみ上げて来て、また大笑い始めていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



時刻は現在お昼時を少し過ぎた2時ごろ。あの後、早速を神木を伐る作業を開始し、30分足らずで作業は終わった。マナもいつもより張り切って作業してくれたのですぐに終了したが、やはりマナの木を伐る作業はいつ見ても職人の極みであった。


あの僕の身の丈はあるだろう戦斧を華麗に持ち上げ、リズムよく木に叩きこみ10発程度で切り倒してしまった。まるで音楽を奏でるような、そんな感覚だった。シロさんもその光景を見て『やるのぉ』と素直に感心していた。


だが現在はまだ森の中にいる。森を出る前に先にご飯を食べたい、とマナが提案したきたのだ。時間も予想以上に早く神木を手に入れられたのでマナの頑張りに感謝を込めて、マナの提案を快く受け入れた。


とりあえず近くに倒れていた木の幹に寄りかかりながら座り、家を出る前にマナのお母さんから渡されたお弁当を開け、昼食を取ることにした。


ちなみにシロさんは食べれないので『見ていても腹はふくれんし、腹が立つからその辺を散歩しに行く』と言ってフラフラと行ってしまった。僕からそんなに離れられるのか不思議に思ったが、どうやら僕からエネルギー、つまり体力を貰った分比例して遠くに行っても大丈夫と言っていた。


だからなのか、今までに感じたことのない不思議な疲労感を感じている。まぁ今は休んでいるしすぐ回復するだろう。


お弁当の中身はサンドウィッチで、お肉と野菜が入っているシンプルなやつだがとても美味しかった。


僕達の昼食が終わったのを見計らったのか、丁度よくシロさんも帰って来た。


「さて、そろそろ出発しようか。マナ、僕も神木を運ぶの手伝おうか?」


「え、いいよいいよ~。神木って他の木より重量があるからクロちゃんの腕じゃ無理だよっ」


むぅ、女の子にそこまで言われると何か男として立つ瀬がない。


「いやいや、マナ。僕をあんまりみくびっちゃダメだよ、やる時にはやる男ってのを見せてあげるよ」


そう言って僕は、神木にくくり付けてあるロープを手に持ち、おもいっきり引っ張ってみた。


ゴキッ!


と、何とも鈍い音が森にこだまして、僕はヘナヘナと倒れてしまった。どうやら腰をやってしまった様だ。いくらなんでも情けない・・・・・・・立つ瀬どころか、立ってすらない。


「わぁーーー!クロちゃん大丈夫っ!!?」


「うぅ・・・・・何故だ、何故世の中はこんなに不平等なんだっ!神よ!?」


目の前にいる、薄ら笑みを浮かべた白い神に僕は吠えた。


だがしかし、こうなったら意地でも神木をこの手で運びたい。


だからそんな訳で。


『お願いします』


心の中の会話で、シロさんに思いっきり頭を下げて感を出して協力を要請した。男としてかなり無様だった。


『はぁ・・・・・これで貸しは三つじゃからな』


もう半ば呆れた様子で、僕の体の中にスーッと入って来た。その瞬間爆発的に力が湧いてきて、何とか自分の手で神木を運ぶことが出来た。


マナにはこの能力の事を説明してないので、いきなり僕が重い神木を運べるようになって、かなり驚いていた。


ふ、どうだマナ? 僕だって本気になれば、何だって出来るんだよ??


見たいな顔をしながら、僕はズルズルと神木を運び出した。


このおかげで教訓が一つ出来た。



くだらないプライドなど最初っから持つな。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


村に到着したのは、空がまだまだ澄みきった青空の内だった。


本当ならまだ少し休んでから村を出る予定だったが、今回はシロさんによる肉体強化もあったので、マナのお母さんに挨拶してからすぐに街へ向かう事にした。


「さて。挨拶も済んだことだし、早速街へ行ってくるよ」


「ねぇ、クロちゃん」


妙に改まって、マナは僕に訊いた。


「ん、何?」


「よく分からないけど、今のクロちゃんなら一人で街まで神木を持っていけるでしょ? だったら私はどうしたらいい? ここでお別れなのかな?」


「どうしたらって、ついてくるんでしょ? マナも街に行きたいって自分で・・・・・・あ、そっか。あの時のマナはシロさんの発言だから、マナに記憶はないのか」


すっかり忘れていた。


しかしなら何故シロさんは僕と一緒に街へ行くなど言ったのだろうか?


「そ・・・・それじゃクロちゃん、さ。私もついて行って・・・・・いいってことなのかな? かな?」


「ん? そりゃ勿論だよ。たまには街の祭りを見るのも悪くないなって思ってたし、マナが来たいなら一緒に行こうよ」


異論などない、むしろこちらから誘おうかと迷っていたから、好都合である。


「本当っ!? やったやったー!!じゃ私すぐ荷物まとめてくるから、ほんの少し待っててねっ!!」


そう言って、今日一番の速さでスタタタッと家にダッシュで行ってしまった。


『まったく、騒がしいやつじゃの』


『はは、確かに少し騒がしいとこもあるけど、一緒にいると楽しいですよ』


『確かにの、先ほどは大いに笑わせてもらった』


『あ、そう言えば。さっきの会話で不思議に思ったんですが、どうしてシロさんは僕と一緒に街に行きたいって言ったんです?』


『んぁ? あれはマナの中に入ってすぐに、マナの心の中を覗いたんじゃ。そうしたらの、一つ大きな想いがあったんじゃ』


『なんです?』


『ふん。こんな事言うのはがらじゃないが、お主に対する想いじゃ』


『なっ、僕ですか?』


『うむ。マナはの、お主が来るのをいつも楽しみにしておって、来るとそれはもううれしくてたまらんのじゃ。じゃが、お主が帰ってしまいうと数日は元気がなくなっておったんじゃぞ?』


『・・・・初耳ですね。まさかそんな事があったなんて』


『マナのやつは顔に出さんだけで、本当は結構寂しがり屋なんじゃ。胸の内を通してよく分かった。だからじゃろうか、わしも思わずあんなことを口走ってしまったわけじゃ』


『だったら、言ってくれればいいのに。一緒に見たい、一緒に行きたいって』


『分からんかの。マナも結構奥深くで色んな事を考えとる。表面上はあれでもの。お主と一緒にいてうるさくないか、迷惑かけてないか、色んな事を』


『なっ、そんな!マナを迷惑やうるさいなんて思った事なんてありませんよ!』


『だったら今からでも遅くなかろう? マナに対する感情を表ちゃんと出して、しっかり見てやればよい』


マナはいつも明るくて元気で笑顔の絶えないやつと思っていた、が、それは僕が勝手に想像していた一部のマナに過ぎなかった。僕は今日まで勝手にマナの事を何でも分かっていると自負していたが、まったく見ていなかった事に酷く心が痛んだ。


そこへ、スタタタタッと先ほどよりも早い足音が近づいてきた。


「お、おまたせー!いきなりだったから何持っていこう少し考えちゃったっ。だけどこれでバッチしですっ!!」


「了解。なら、出発しようか」


「らじゃー!!」 


「うむ」


「あ、マナ」


「うん?」


「一緒に色んな物沢山見て、一緒に美味しい物沢山食べて、目一杯楽しもうね」


僕は出来る限りの、最大の笑顔で言った。


「うんっ!!」


マナの顔は僕の笑顔よりもはるかに大きい笑顔であった。この何気ない笑顔を見れるのは幸せな事なんだと、改めて思った。


「よし、それじゃダンバに向けて出発!」



僕は静かに幸福を感じながら、デルの村を後にした。



一人、白い戦いの神は二人の光景を見て呟いた。


「世話のかかる人間じゃ」



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