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憑神  作者: 右下
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第六話:平和な一時

薄暗い部屋、少し高い天井に備わっている大きな照明器具が見える。


この部屋が薄暗いのは決まっている、僕は寝ていたからだ。誰でも寝るときは明かりを消すだろう。


「ん・・・・今何時だろ」


まずは僕の腹時計で確かめてみる。


7時30分、このあたりだろう。枕の隣に置いてあった懐中時計に手をのばし、現在の時間を確認する。


「7時26分、か。起きよっかな」


だが起きる前に少し頭を整理し、昨日の事を少し思い出す。


あの後予想以上の速さで村へ着き、すぐにマナの家に行った。そこで一日泊めてくれるよう頼み、一部屋借りて就寝したのだ。


マナはあのまま起きることなく寝っぱなしで、少し心配になった。だがシロさんが明日になれば元気になってると言っていたので、仕方なくそれを信じて寝る事にした。


ちなみに晩御飯は、マナのお母さんが手料理をふるってくれた。いつもいつも僕の好きな味のツボを見事に刺激していて、どうも食の手が止まらなかった。


ちょっと図々しいかったかな。


朝ごはんの時は自粛しよう。と、少しだけ決意した。


晩御飯の時も勿論シロさんは僕と同行していたが、僕以外の周りの人は見えていないようだった。当然マナの親にも見えていなく、最初はこっちが困惑してしまった。


マナの家に着くまで、シロさんの事をマナの親にどう説明しようか必死に考えていたが、その努力はまったく無駄になった。


マナのお父さんは本当に病気でいて、僕を森へ誘い出すためのあの理由も筋は通っていたようだ。シロさんがどうにかしたんだろうか?


マナが寝てしまっている理由は、マナのお母さんには適当に言い繕えたが、お父さんが寝込んでいたのは不幸中の幸いだ。きっともっとややこしい事になっていたに違いない。


「大体このくらいかな」


僕は体を起こし、隣に寝ている彼女に目をやる。


「ぷぎゃる」


それが、今日僕が初めて聞いたシロさんの言葉だった。


意味のわからない言語をブツブツ呟きながら、フワフワと空中に漂いながら気持ち良さそうに寝ている。


神様も人間と同じように睡眠をとるようだ。しかもこの顔はそうそうだせる顔じゃない、物凄い熟睡している顔だ。


そんなに疲れたのか。


どうやら食の欲求もあるようで、僕が晩御飯をいただいてる時に隣ですごい形相で僕の事を睨んでいて、かなり居心地が悪かった。


あの顔はあからさまに『うまそうに食いやがって』って顔だった。


そんな顔されても僕はシロさんに食事をあげれないし、体がないんだから食べる事も出来ないだろう。


そう、シロさんは幽霊なので、自分の肉体はないのだ。僕は悪くないのに、一つシロさんに恨みを買われたようだ。


晩御飯の後、シロさんに『僕の体に入れば食べれたんじゃないんですか?』って社交辞令で訊いてみたが、不機嫌な顔で『食べる事は出来るが、体は主の物じゃから味も満腹感も得られんのじゃ』と渋々説明してくれた。なのに食欲があるなんて、結構可愛そうなのかも?



とりあえず、僕に残った時間は夜までなので早く行動をとることにした。


まずはシロさんを起こそうと思ったが、触る事が出来ないので起こすのは一苦労だ。


起こす手段としては声をかけるしか手段がないが、あんまり大きな声も出せない。マナの親に聞かれてしまったら、後で『ただの毎朝恒例の発声練習です』と僕の無茶な習慣を言わなければならない。


「シロさ~ん・・・シロさ~ん・・・・」


「ぬ・・・・・ぬひひひ」


静かに不気味に笑っている。友達でも一瞬でどん引いてしまうよな笑い方だ。これではまったく起きそうな気配がしない。


どうしたものか・・・・・と考えた結果、一つ重大なことに気づいた。


「起こさなくていいじゃんか・・・・誰にも見えてないんだし、僕が移動すれば勝手についてくるし・・・」


外にでも行けば、太陽の明るさで目が覚めるだろう。


そんな事を適当に考えつつ、いい加減行動する。


「とりあえずリビングへ行こう」


体を右左に軽く捻り、ポキポキッと軽快な音を合図に部屋を出た。


隣の部屋にはマナの部屋らしい。少し覗いて行こうと思ったが、流石にダメな気がして大人しく階段を下り一階へ向かった。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


「あら、おはようクロドちゃん。よく眠れたかしら?」


「はい、ぐっすり眠れました」


「それはよかったわ。丁度朝ごはんも出来ましたし、料理を運びますからテーブルで待っててくださる?」


「あぁ、とてもいい匂いがしますね。僕も料理をテーブルに運ぶの手伝います」


「あらあら、マナなら絶対に言わない言葉ね。助かりますわ」


「いえいえ」


二階から降りてくればすぐにリビングがあり、マナのお母さんが早くも朝食を作り終えていた。


しかしマナは料理の配膳すら手伝わないのか。確かにマナは食べる専門かもしれないけど、もう少しは親孝行をするよう後で言っとくか。


「あ、おばさん。マナを起こしてきましょうか?」


僕は料理をテーブルに運びながら、マナのお母さんに尋ねた。


「それは大丈夫よ。そろそろ匂いが二階にも届く頃だから、起きるのも時間の問題ね」


「はぁ、そうなんですか」


チェッ。


あ、違うよ? 決してマナを起こしに行くとゆう大義名分で、マナの部屋を覗こうなど一片も思っちゃいないよ?


「よし、これで最後ね。助かったわ」


マナのお母さんはにっこりと笑って、自分の席についた。


僕もマナのお母さんに向かい合う形で席に着いた。マナのお母さんの隣には椅子が置いてないので、僕の隣にマナが座る形になる。


席に着いて一息ついたその時。


ドタドタドタドタッ。


階段が壊れてしまうのではないかとゆうくらい大きな音で、寝ぐせだらけの髪でマナが降りてきた。


「マナー。朝からあんまり大きな音出さないよう言ったでしょ~」


「あ、ごめんなさ~い。なんかすっごくお腹空いてて、ついカッパの川流れだよ~」


と、あのマナ特有の言語が出て、マナの目と僕の目が合った。


その瞬間目の見開く限界じゃないかと思うくらい大きく開き、僕を指さしながら口をだらしなく開け、目を高速にパチパチと瞬きをしている。


そしてしばしの静寂。


この静けさは嵐の前の静けさだろう。少し身構えとく。


「あぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


近所への配慮などまったく気にしていない、今日一番の巨大な声(もはや超音波に近い)を出し、僕の元へ駆け寄ってきた。


「ど、どうしてクロちゃんいるのっ!!!? 夢っ!!? ドッキリッ!!? それとも運命な・の・か・な~!!!?」


と、僕の肩をがっちり掴みガクガクと揺さぶってきた。


グワングワンと無抵抗に揺さぶられながら、僕は考える。このマナの反応からして、マナには昨日の記憶が無いのかもしれない。


「マ、マナ落ち着いて。夢でもドッキリでも運命でもない。マナは昨日のこと覚えてないの?」


「え? 昨日のこと? う~ん。こぅ頭に靄がかかっててどうもうまく思いだせない。う~んう~ん」


やはりマナには昨日の記憶は無かった。もしかしたらこれもシロさんが何かしたのかもしれない。


しかし困ったなぁ、昨日のことを説明しようにも色々と大変だ。どうしたものか・・・?


「とりあえず一緒に朝食取ろうよ、話は後にしよ? ね?」


「あぅ。うん、わかったぁ」


何とか問題を先延ばしに成功し、とりあえずは朝食を終えたらマナと家を出てゆっくり話そう。


「それじゃ。マナ、クロドちゃんの隣に座ってちょうだい」


言われるままマナは僕の隣に座った。


「偉大なる自然と命に感謝いたします。いただきます」


「神よ感謝します、いただきます」 


「いただきま~す」


さて、どれから攻めていこうか。目の前には麦粥によく味が染みてそうな漬物に、この村で採れる甘い芋の蒸し物によく熟れてそうな林檎と梨が置いてある。


これは美味しそうだ、だが昨日の事を思え返し思わず箸を持つ手が止まる。


ふと隣を見るとそこには必至の形相で食べ物を摂取していくマナの姿が。右手で芋をほおばり、左手で林檎にかじりついている。


何もそこまで必死に食べる事なかろうに・・・・前々から見てきた光景だが、やはり今でも顔が引きつってしまう。


ホント、これから冬眠に入るための準備でもしてるんじゃないかと錯覚してしまうくらいの勢いだ。


しばし呆然と眺めていたら一つの過ちに気づいた。バッと顔を自分の麦粥があるとこに目をやると、やはりそこには何もなかった。


しまったっ!!


僕の麦粥の行方は何処へ!と考えるまでもなく犯人はマナだ。マナの目の前には自分の麦粥が入ってた茶碗がカラッポの状態で置いてあり、その隣にカラッポの僕の茶碗が置いてあった。


マナの食事は狩りの時間。目の前にある食物とゆう獲物を片っ端から食らい尽し、自分の強靭な胃へと送る。久しぶりのマナと一緒の食事ですっかり気が抜けていた。


マナと一緒に食事をとる時の注意事項


その一 一時も隙を見せるな。

その二「いただきます」が始まりの合図、「ごちそうさま」までは決して気を抜くな。

その三 一度取られたら奪取することは不可能である。(マナの握力で握られたら対応のしようがないから)次の食べ物を死守することが先決である。


この重大三カ条を作ったのはマナのお母さんである。


半ば涙目でマナのお母さんを見つめると、ふるふると首を横に振り残念そうな目で僕の目を見つめ返す。


そんなわけで個人的に一番楽しみだった麦粥が消え、しょうがなく芋と漬物と梨を食べて僕の朝食はすぐ終わった。


「うぅ・・・ごちそうさまでした」


「ま・・・・また今度来てね、いつでも作ってあげるますから」


マナのお母さんが慰めの言葉をかけてくれたが、より虚しくなった。


数分後マナも狩りを終え、天真爛漫の笑顔を浮かべながら椅子にもたれかかってる。


ちなみにマナは狩りの最中は、マナーや他人の物を食べてはいけないとゆう掟など無意味である。


「マナ。食べ終わってすぐに悪いけど、ちょっと外にいかない?」


「ふぃ~ん、いいよぉ。着替えてくるからちょっと待っててね~」


そう言って今度は静かに階段を上り、着替えに行った。


「ぬひひひ」


隣ではまだ寝ているシロさんが、気のせいか僕の不幸に対して笑っているように見えた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


チュンチュンと、可愛らしく小鳥の鳴き声が青空にこだましている。


僕とマナは今村と森をつなぐあの道を歩いている。ちなみにシロさんはまだまだ睡眠中だ。


もしかして永眠したんじゃ? と思ってしまうくらいずっと寝ている。


「あぁ、クロちゃん神木を取りに来たんだね。今年も『復活祭』やる季節になったねぇ~」


「うん。期限は今日の夜までだから悪いけど早急に頼むよ、マナ」


「りょ~かいっ!マナちゃん張り切って仕事やっちゃいます」


「ありがとう、助かるよ」


「えへへ」と可愛らしく笑い返してきて、思わず恥ずかしくなり顔をそらしてしまった。


時折見せる、僕に向けられる無邪気なマナの顔にはどうも慣れない。


「あ、そうだ。クロちゃんクロちゃん」


「ん?」


「どうして斧持っていかなくていいの? あたし力には自慢あるけど、流石に素手じゃ切れないよ? って言うより折れないよ?」


「あぁ、それは・・・・・えっとぉ・・・」


言葉を濁してなんて返そうか考える。


う~ん。昨日のことを説明しようにも肝心のシロさんがマナに見えなきゃハッキリ言って僕が必死に説明しようと、ただのうわごとにしか聞こえない。


これはかなり困ってしまった・・・・。


だが、必死に打開策を考えるがまったく思いつかない。


マナは顔こっちに向け「?」の表情でずっと見つめてくる。


ぬ、ぬぅ・・・・・どうしたもんかな。


『主』


思わず体がピンと硬直してしまった。


いきなり硬直した僕を見て、さらにマナの表情は「??」になった。


右隣を見てみると、先ほどまでぐっすり寝ていたシロさんが寝起きの表情でこちらを見ていた。


マナの顔からして、シロさんの声は聞こえていないようだ。どうやら僕の心の中に直接語りかけてきてるようだ。


『おはようございます。とても早起きなんですね』


『たわけっ。お主があまりにも困っているのでわざわざ起きてやったんじゃぞ。感謝より先に敬わってほしいくらいじゃ』


『え。そ、それはありがとうございます。とても困ってます』


『ふむ。まったくのぉ、これで貸しは二つじゃぞ』


昨日の晩御飯での出来事は貸しになったのか。いつかその貸しを出されるか心配である。


『それで? お主はどうしたいんじゃ?』


『えっと、単刀直入に言うと、シロさんの姿をマナに見せたいんですが、できませんかね?』


『ふむ。その理由は大方昨日の事を小娘に説明できんからかの。まったく伝達力の乏しい主様じゃな』


返す言葉が無いが、流石に昨日の出来事は説明のしようがない。


『結論から言うと出来る。あまりにも簡単で拍子ぬけしてしもうたわ』


『え。出来るんですか? なんか実体化するには副作用がある的なことを言うと思ったんですが』


『そんなことはない。わしが見えないのはただ姿を消しているからじゃ』


『それなら昨日言ってくださいよ。マナのお母さんになんて説明しようか必死に考えたんですよ』


『うむ。昨日のお主の悩む姿、とても滑稽で面白かったぞ』


なっ!この神様は性格はひねくれているとゆうより、90度にねじ曲がっているって事を再確認した。


『・・・・・・えっと、じゃお願いできますか?』


『ん。よいじゃろ』


そう言って、シロさんのフワフワと浮いていた体が徐々に地面へと降りて行き、足がゆっくりと地面についた。


隣に歩いていたマナに目をやると、そこには驚きの表情でピタっと固まっていた。


つまり、シロさんの姿が見えるようになった事を表情が表していた。


「お初にお目にかかるの、小娘」


にやっと笑いながら、スタスタとマナの目の前に来た。


「き・・・・・き」


やはりかなり混乱している。まぁしょうがないだろう、何もないとこからいきなり綺麗な女性が出てきたら誰でも混乱するだろう。


「きれーーーーーーーい!!!!!」


あらっ。思わず何もないとこでこけそうになった。


流石のシロさんもそんな返しが来るとは思っていなかったらしく、今度はシロさんが面くらって固まってしまった。


「すごいすご~い!!すっごく綺麗!肌とか髪とか服装とかお姫様みた~い!!」


『な、なんじゃこやつは』


心の中に、シロさんの言葉が漏れる。


すでに神としての威厳はなくなっていた。


あんなシロさん、そうそう見れないだろう。昨日の仕返しができた感じがして、もう少し見ていることにした。


「マナ、ちょっと落ち着こう? シロさんも困ってるでしょ」


いい加減助け舟を出してあげて、シロさんを助けてあげた。


「あ、ごめんごめ~ん」


謝ったものの、今度はじっくりとシロさんの事を舐めるように上から下まで見ている。


シロさんも居心地悪そうで、キリキリと頭を動かし苦笑いの表情で僕を見つめてくる。


「とりあえずマナ。昨日の事を説明するからちゃんと聞いていてね。途中の口出しはなし、質問は話が終わってからだよ」


そう言って、僕は昨日の出来事を分かりやすく最初から細かく説明することにした。


どこまで伝わるかは、マナの感受性にゆだねて。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


説明が終わる頃には、すでに森へ到着していた。



時刻はお昼前。天気は晴天。しばしの安息は、昨日の出来事など嘘なんだと錯覚させてしまうほど、平和で穏やかな一時だった。




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