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憑神  作者: 右下
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第五話:憑神

ざわざわと、木々が静かに揺れている音がする。とても静かでいて、緩やかで穏やかな時間。


噂に聞く天国とはこれのことだろうか? 今僕はとても幸せな気分だった。


倒れている体の上半身だけを起こし、周りを見てみるとそこは森の中だった。


「あ、あれ?」


今度は全身で立ち上がり、二本足で周りをうかがってみる。そこは今までいたあの森の中だった。


周りを確認していると、ふと目についた者がいた。二メートル程離れた場所に倒れている女の子。


「マナ!」


僕は思わず叫んで、彼女の傍へ駆け寄る。外見から判断すると怪我らしきものは一つも見当たらない。顔色も良く、スースーと可愛く寝息を立てている。


マナの身の安全を確認して、僕は安心したからなのか、やっと僕の脳は完全に覚醒し始めた。今まで起きたことが走馬灯のように頭をよぎっていく。


あぁ、そうか僕は脇腹から血を流して倒れたんだった。それで・・・それで?


恐る恐る斬られたはずの脇腹を見ると、斬られた傷やあの恐ろしい痛みは全くなく、ただ服だけが横一線に破れていた。


「あれ? まさかの夢オチじゃないよね? あ、でも服に血が付いてるから、夢じゃないか…」


脇腹を軽く手でさすってみる。手で触っている感触はあるが、痛みなどはまったくない。つまり幻覚でも、神経が麻痺しているってわけではなさそうだ。


怪我が勝手に治った? いや、そんなことあるわけない。今までこんな事一回もなかった、とりあえず脳を整理しなきゃな。


落ち着くため僕はマナの隣に腰かけて、目を閉じ今日起きた出来事を思い返す。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


まず僕は祭司からの命令で神木を引き取りにデルの村へ来た。そこで幼馴染のマナに再会したが、マナの言動に微かな不信感を感じていた。


マナに森への護衛を頼まれ、同行し森へやってきた。そこで僕はマナの正体をあばき(厳密に言うとマナの中に誰かいたんだが)そこで出会ったのが自分を神様と名乗る異形の者。


その者の言動、素振りや、マナにとり憑いているとゆう異能力。それらを総合するとマナの中にいる者が神様とゆう可能性がかなり高く、僕はそれを信じた。


ここまで思いだせた。さて、問題はここからだ。


あの神様は僕に一つ要望を出した、それは僕の体をさしだすこと。だけど僕はそれを拒否した。大まかに言うと、そのせいで僕を殺すと言いだし、いきなり戦闘が始まった。戦闘と言っても一方的に僕はやられてただけだけど。


結局僕は彼女の一撃で即ノックアウト、命にかかわる致命傷を与えられたはずだ。でも現在僕は生きてる、いったいどうなってるんだろう?


ここでいったん思考をやめ、僕はズボンに入っている小さな懐中時計を取り出し、現在の時間を確認する。この時計が狂っていないなら、森へ入ってからまだ4時間ほどしかたっていない。


あの物凄い出来事が、つい数十分前に起きたなんてまったく実感がわかない。それに、あの神様はどこに行ったのだろうか。それともまだマナの中にいるのか。


だが、今はそれを確かめる術はない。だからとる行動はすぐ決まった。


この森でいつまでも考えこんでるわけにもいかない。早く村へ戻らないと、またおかしな者にトラブルに巻き込まれるかもしれない。そんなのまっぴらごめんだ。


僕は腰を浮かし、全身についた木の葉や木の枝を払い、マナを背中おぶる。


正規の帰り道が分からないが、僕は生れて一度も迷子になったことは無い記録を持つ。きっと今回も大丈夫大丈夫。


そんなまったく根拠のない自信を胸にし、僕は森を抜けるために歩きだした。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



空は少し茜色がかってきて、そろそろ暗闇が支配する夜になるだろう。


奇跡的なのか、それとも僕の実力なのか、見事に夜になる前に森をぬけれた。


あとは村へ行き、マナを家に帰し、マナの家に泊まろうかと思う。とりあえず神木は後回しだ、まだ明日がある。明日の夜までに届ければ問題は無いから、明日の朝にでも取りに行ければいいだろう。


森へ入った時と同じ入口に着き、マナを地面に横たえる。僕はマナの隣に腰を下ろし少し休息する。いくらマナが軽くても、流石に疲れてしまった。


勿論、マナが持っていたあの戦斧は置いてきてある。あんな物をマナと一緒に持ち帰るなんて、僕はそれ程自信家ではない。マナには悪いが、明日回収すればいいと思う。


ふとマナの顔を見ると、まだマナは可愛い寝息を立てて寝ている。


この顔を見ていると、あの神様はまだマナの中にいるんではないかと心配になる。


「ふむ。その疑問に答えてやろうかの」


「!!」


僕はものすごい速さで声のした方へ顔を向けた、だがそこには森の入口が不気味にあるだけだ。


「・・・・・・」


疲れているのか・・・・僕は。とうとう幻聴が聞こえるようにまで疲れが溜まったようだ。と心の中で思ったその時


「わしはもうその小娘の中にはおらんよ。わしは今、お主のすぐ傍におる」


「!?」


またあの声が聞こえた。


今度は立ち上がり、あたりをキョロキョロと見回す。だがいくら警戒しようがマナと僕以外誰もいない。


「ふむ、神からの優しいアドバイスをくれてやろう。お主、周りを警戒するなら、時には上を見ることも試した方がよいぞ? 意外と盲点じゃからな」


バッ!


と言われた通り、勢いよく顔を上空へ向ける。


そこには一人の美しい女性が空中にフワフワと浮かんでいた。


「『誰だ?』みたいな顔してるの。あぁ、わしの本来の姿でお主の前に現れるのは初めてじゃったな。なら改めて自己紹介でもしようかの」


「戦乙女、安全と混沌を守護する者、戦の破壊神、断罪と裁断の剣。とまぁ色々と長ったらしい名前があるが、わしの本名はネリアス=シロナと申す。お主が天に召すまで、今後ともよろしく頼むの」


そう言って、彼女はシニカルに笑った。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


村と森をつなぐ平坦な道。僕とマナ、そして彼女がいる。


僕はマナをおぶりながら歩き、彼女、ネリアスさんは僕の隣でフワフワと浮きながらついて来る。


彼女を一言で表すなら、(ハク)。だろうか。


何にも染められていない、全てを無に帰すような潔白の白さ。それが、僕が彼女を見た時に最初に思ったことだ。


見た目は20歳位、肌は透き通りそうなほどの真っ白い肌。


手足も長細くて綺麗である。だが、あの体に欠点を言うとならば一つ、それは胸が皆無に等しいくらい無い事だ。


今歩いてる道のように平坦だ。あ、別に僕は大きい方がいいとか思ってないよ?


と僕は誰かに弁解した。


顔も非常に整っており、十人中十人が振り返るような美しい顔だ。美貌も神様級とゆうわけなのだろうか?


髪の毛は雪のように真っ白で、腰まで伸びているロングヘアー。


瞳の色は僕と同じで真っ赤な深紅の色。その瞳をずっと見つめるていると、まるで吸い込まれてしまいそうな魅惑がある。


服装は、胸のあたりに大きなリボンが付いているだけで、フリルなど一切付いていないとても簡素なドレスである。だが彼女の美貌がその簡素感を完全に打ち消していて、丁度いいくらいだ。


「なんじゃ? 神の体をジロジロ見よって。わしの体に穴があいたらどうする」


あくわけないだろ!と心の中で突っ込む。穴があくほど見るって言葉を鵜呑みにしているのだろうか?


「いえ、決してあなたに見とれていたわけじゃありませんよ。ええ、違いますとも」


どうやら無意識のうちに、僕はネリアスさんのことを見入ってしまっていたようだ。煩悩退散っと。


「ふむ、正直な事を言う。その言葉に免じて許してやろう」


「それはどうもです」


ネリアスさんは自分の美貌にかなり自信があるようだ。まぁ、それに値するほど綺麗なんだけどね。


「それで、ネリアスさんはいつまでついてくるんですか?」


「いつまで憑いてくる? そんなものずっとにきまっておろう。あと、わしの事はネリアスと呼ぶでない。ネリアスと呼ぶのは、わしが気に入ってない奴だけじゃ」


僕はいつの間にか、ネリアスさんに気に入られてるようだった。何かちょっとうれしかった。



「だったら、なんて呼ぶのがいいですか?」


「ふん。そんなの好きにするがよい。シロナでも、シロちゃんでも、シロ様でもよい」


「はぁ・・・・じゃあ僕はシロさんと呼びます」


「分かった。じゃがお主ならきっとシロ様と呼んでくれると思ったのにのぉ・・・・・残念じゃ~」


「呼ぶかっ!」


それが、シロさんに対する僕の初ツッコミだった。


「えっと、話を戻しますが。ずっとついてくるとは、一体どういう意味で?」


「そんなもの決まっておろう、先ほども言ったとおりお主が死ぬまでじゃ」


「その、なんで僕が死ぬまで?」


「お主は先ほど死にかけた。それは覚えておろう?」


「はい、おもいっきりシロさんに斬られましたね」


アレは痛かったなぁ。


「お主を斬り付けたあと、わしはお主の事を救ってやったんじゃ」


「えっとぉ・・・・・え?」


どうゆう意味だ? 救った? 僕のこと本気で斬り付けたくせに救った?


「わしはお主の答えを聞いてから、お主に殺すと言った。じゃが、決してわしが怒ってあんな事を言ったわけではない。そこをはき違えないようにの」


「え、そうだったんですか? 僕、シロさんの沸点が低いだけかと思ってましたよ」


「お主・・・・まぁよい。わしはな、別にお主の事を殺す気などなかった」


「うん?」


「あれは最終手段じゃ。お主がわしの要望を拒んだら、わしはあーするしかなかったんじゃ」


「僕を斬り付ける事・・・ですか?」


「別にお主の事を斬りつけたくて斬ったわけではない。お主の精神を弱くするための強硬手段じゃ」


僕の精神を弱くする? そう訊こうとした瞬間、シロさんが答える。


「わしはあの時お主に言った。お主の体に入れてくれと。わしは生身の体がどうしても必要であった、だが誰でもいいとは限らないがの。じゃが、お主はわしの想像を超えるほど、要望通りの体と精神じゃった」


「そんな・・・・この僕がですか?」


「うむ。じゃからわしはこのチャンスを逃すわけにもいかなかった。強引にでもお主にとり憑きたい、もとい入りたい。じゃが強引にとり憑くには少し手間がかかった」


「それが僕を傷つけた理由、ですか?」


「お主の精神が少し強すぎた、じゃからこの小娘みたいに一方的にとり憑くとゆう手段が出来んかった。そこで仕方なく最終手段の出番じゃ」


ニヤっと薄く笑う。


「精神が強いなら弱くすればよい」


あぁ、成程。単純明快で、かなりぶっ飛んだ思考だが、少しだが分かってきた。


「察しのいいお主なら理解してきた所じゃろ。精神を弱くする有効な方法は二つ、内面に負荷を与え精神を弱める。もう一つは」


「体に危害を与え、痛みなどの感情を強くし、精神を(もろ)くする。こっちの方が手っ取り早くて有効ですね」


そうシロさんの言葉を遮って、僕は言った。


「うむ、その通り」


「それで僕が気絶している間にとり憑いたと・・・。じゃあなんであの傷は治ったんです?」


「わしは体を手に入れた、じゃがお主にも手に入ったものがある」


「え?」


「体の基礎運動力。お主の体は先よりも、何倍ものパワーアップをしておろう。傷の治癒力もしかりじゃ。戦の神の守護を受けた者は、そういった加護を受ける事が出来る」


つまり僕のパロメーターが何倍にも強化された、ってことか。それなら傷の件は納得できた。けど、また一つ疑問が浮上した。


「成程。けど一つ辻褄が合わないことがありますよ」


「ぬ?」


「僕はマナをおぶって森を歩きましたが、今現在とても疲れています。僕の体力も数倍になっているなら、この程度で休憩したいほど疲れないと思うんですが?」


「確かにお主の元の体力ならそうかもしれんの。じゃがそれは、お主にわしが入っている時の話じゃ」


「どう言う意味ですか?」


「わしが今お主の目に映っているのは、お主の中にいないからじゃ。じゃから今のお主は今まで通りの体じゃ。わしがお主の中に入って、同調すればお主の身体能力は向上する」


「じゃ、じゃあ僕が起きた時からシロさんは僕の周りに・・・・?」


「うむ、お主の真上からずっと見ていた」


そんな・・・・確かに真上までは周りを伺わなかったけど。じゃあシロさんは僕の苦労しているとこを上から高みの見物ってしてたってことか、思った以上に性格悪そうだ・・・。


「なんじゃ~仏頂面しおって。わしがお主の事手伝わず上から見てた事に怒っているのかの?」


「・・・・・・」


僕は無言で肯定をした。


シロさんもそれを肯定ととらえたらしく『はぁ~、仕方ないやつじゃ』と言って僕の前から突然消えた。


「案ずるな、わしは今お主の中にいる。ほれ、疲れは残っているかの?」


そう、胸の内から声がした。なんとも不思議な感じだ。


僕は腰を上げて立ち上がり、少し体を動かしてみる。


これは思った以上に凄かった。軽くジャンプするだけで、マナくらいの身長を軽く跨げるくらい飛べた。疲れも微塵として残っておらず、体中にエネルギーが疾走して逆走しそうな勢いだ。


「ほれほれ、村までは手伝っておるから機嫌直せ」


「あ、ありがとうございます!さぁ、早く村へ行きましょう!」


さっきの言葉は撤回、シロさんは面倒見がいいようだ。


「まったく、以外に現金な奴じゃな」


と、シロさんは少し苦笑まじりに言った。


僕はマナを背中に乗せ、かなり軽くなった体を試すように村に向けて走り出した。


「あとさっきの話の続きじゃが、わしはお主から出て行くなんて微塵にも思ってないから、そこの所よろしくの」



僕は早速こけてしまった。




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