第二話:森へ
さて、自分から準備は大丈夫かと訊いておいて、僕は何の準備もせずに出発しちゃったけどよかったかな?
自分でも少し即決すぎたかなと、今更ながら後悔している。後悔先に立たずって最初に誰が言ったのかな? うまい事言うよな~。
僕の今の服装は真白なTシャツに、これまた真白で地面につくかつかないかってくらい大きなコート羽織っている。
このコートはいわば聖職者を表す物の一つだ。主に牧師たちに供給され、僕はこのコートを安易な理由で脱いではいけない。すなわち、その日がどれほど炎天下だろうと脱いではいけない決まりだ。唯一の救いが白いコートだったってことくらいである。
ズボンは安い皮で作られた簡単な物だ、だが僕はこのズボンを気に入っている。中々このズボンも耐久性があり、履き心地も悪くはない。まぁ一番の決め手は値段だけどさ。
首には十字架の首飾りを付けている、これも聖職者の必須アイテムだ。別にこのアクセサリーに幽霊や化物を退散させるとか、血の巡りがよくなる、幸運が訪れる、みたいなオプションはついていない。
牧師やシスターなど、神にお仕えする者たちは他人を傷つけたりしていけない。これはまず最初に教えてもらう絶対の掟なのだ。時々破ってしまうの人も秘密裏にいるが。おもに僕とか。
さて、現在は春の陽気にしては熱く、僕の額いには薄らと汗がにじむ。
そういえば先程からマナとの会話が無い事に気付き、話しかける。
「どうしたのマナ? さっきから黙っちゃって。気分でも優れないの?」
「ん。いや別に気分は悪くないよ? まさに断崖絶壁だけど」
「そう、なら別にいいけど・・・・なら森まであと少しあるんだし、久し振りに会ったんだからちょっと話さない?」
「え、えっと、あ! そうだこの仕事終わったら一緒に『復活祭』見に行こうよ!」
マナはいきなり話の矛先を変えた。あまりにも不自然なだけあって、不審には思ったものの、僕は話を合わせた。
「復活祭に? 別に構わないけど、マナが村以外の場所に出かけたいなんて珍しいね」
「えっと、その。あたしだって自分で切った木が、どんな風に使われるか興味があるんだよ!」
「ふ~ん」
うーん、今日のマナはいささか様子がおかしい。別にいつも平常であるわけじゃないけど、なんとゆうか、ある程度マナのことを知っている他人と話てる気分だ。
「あ、クロちゃん!森に着いたよ!」
そう聞いて目の前を見ると、いつの間にか森へと到着していた。
大きさは都市ってほどではないけど、小さな町ならすっぽり入りそうなほど大きな森林だった。みるからには特に変わったとこはないが、決して油断しないよう気をつける。
「へー、近くから見ると中々神々しいね。これなら何が出てもおかしくない気がするよ」
「うん、そうだね。神様が出てもおかしくないと思う、まさに千載一遇だねっ」
「あはは、本当にいるなら是非会ってみたいよ」
牧師として・・・・ね。
「えっと、荷物荷物~・・・・・あったっ」
マナは茂みに置いてあった荷物の所へ行き、5分ほどかけて戻ってきた。
マナの服装は、あの村では一番高そうな真赤なワンピースを着ている。これから森に入るのに、その格好はいささか大変なじゃないのかと思うが、きっと余裕の表れ何だろう。そしてそこに新たな装備が加わった、それは僕の身の丈分はありそうな大きな斧だった。いや、むしろ戦斧に近い。
しかもマナは、そのいかにも重そうな戦斧を片手で何回か振り回していてかなり危険だ。あの行動は準備運動のつもりなのか? 二、三分あの危険行動を何回か繰り返している。
見る限り貧弱そうな少女が、片手で大戦を振り回す、それは随分といかれた光景だ。
ここで分かるように、マナはその体つきとは大きく反比例したかなりの力持ちなのだ。別に鍛えてるわけではない、純粋百パーセントのずば抜けた才能だ。
「よ~し、準備運動完了っ」
やはりあの行動は準備運動だったようだ。しかしマナの着ている赤いワンピースに、背中にしょった戦斧、その不釣り合いさが僕の視点からは一種の可愛らしさを感じている。
もしかしたら僕は、人より着眼点がどこかおかしいのかもしれない。
いいや、おかしくない!と思う。
「さて、準備も整ったし森へ入ろうか」
「うん、じゃあたし案内するからお先にね」
そう言って、あれほど危険視していた森へそそくさと入って行ってしまった。
さて、僕も少し覚悟しなきゃな。自分の一つ下の女の子は怖がらず入ったんだ、僕だって堂々と入ってやる。
少しやけくそ気味に、僕はマナを後を追い森へ入った。
しかし。
この後起きる出来事に対して、僕が決めた覚悟なんか雀の涙もいいとこだと、僕はすぐ思い知らされることになる。