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憑神  作者: 右下
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第十五話:後篇:さようなら

「終わらせる・・・はは・・・・・・終わらせるねぇ・・はははは」


突然シュカさんからあの鋭い敵意が消え、不気味に笑いだした。


「もぅとっくに終わってんのよぉ・・・・・あの時からさぁ・・・あんたも私もねぇ」


「いいえ、まだ終わってないわ。少なくともあなたはまだ終わってない、今ここで終わらせて、新しく始まるのよ」


「そっかぁ・・・あんたもまだ終わってなかったわねぇ・・・・・まだそこにいるもの・・・早く終わらせなきゃね・・・はは」


狂ったように笑い出したシュカさんは突然、ぶんっと腕をふったと思うと、時が止まった街に吹く事のない風が、嵐のように吹き荒れ、鋭い突風と共に僕たちの所へ猛烈に吹き込んできた。


何とか立ち上がった所なのに、僕はまた尻餅をついて倒れてしまった。シロさんは何とか吹き飛ばされないよう、しゃがみ込んで石畳の地面に指をかけて耐えている。


一方のダンクネスさんは、まるで先読みしてたのかのように、空中へと逃げ、難を逃れていた。しかし、そこで僕は異変に気付いた。


よくダンクネスさんの足を見て見ると、つま先から足首までが薄く透けているように見える。


もしかして今の攻撃のせい?


「ちっ、やっぱり他人の心を読むのが上手ねダンクネス、今も昔も相手の心を身勝手に読んでいるのね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ダンクネスさんは喋らない。


「なら・・・これならどーお!?」


次は手を天高く掲げると、先ほど僕たちに目がけて撃った一本の漆黒の槍が出現し、また轟音を響きかせながらダンクネスさんに向かって放たれた。


しかし、またもや先読みをしたのか、今度はくるりと身を翻し、まるでダンスをしているかのように華麗に槍を避けてしまった。



そんな姿に、僕はただただ見入っていた。


まさに神業とゆうべき動きだった。


「はんっ、無駄だよぉ!!」


「………!」


ダンクネスさんに避けられ、無残にも後ろへ飛んで行ってしまった槍がいきなりピタリと止まったかと思うと、今度はくるりと反回転し、またもやダンクネスさんに向かって飛んできたのだ。


コンマ一秒の速度で異変に気付き身を翻したが、わずかに遅くれてしまい漆黒の豪槍はほぼ避けれない位置にまで向かってきていた。


ザシュッ!と柔らかい物を貫いたような音が耳に響きわたり、漆黒の槍に腹部を貫かれたダンクネスさんは重力に従い地面へと墜落した。


「ダンクネスさん!!」 「ダンクネス!!」


ほぼ同時にシロさんと僕は叫び、ダンクネスさんの元へ駆け寄る。


「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」


うつ伏せになったダンクネスさんを抱え上げ、何度も呼びかける。しかしいくら呼びかけても、ダンクネスさんはまったく返事をしない。


「あっははは、あっけないわね~。もぅ終わりかしら?」


シュカさんの勝利の高笑いが僕の耳に木霊した、その時。


「いいえ、まだ終わってはいないわ」


ダンクネスさんの声が聞えたかと思うと、目の前で抱えていたはずのダンクネスさんがスーッと消え、シュカさんの目の前に忽然と現れていた。


「ッ!?」


だが負けじとシュカさんも刹那の速度で現状を把握し、距離をあけようと後ろへ下がろうとしたが、ダンクネスさんのが一歩速く、高速で何かを呟いたかと思うと、突然シュカさんの両方の手首と足首に光を放つ鎖のような物が付いていた。


そのままシュカさんは空中に四肢を縛られ、完全に身動きがとれなくなってしまった。


「拘束の呪文か!? でもあなたの今の力じゃ私を縛りつけようなんて、たかが知れてるわ!」


「ええ、そうね。でもこれでやっと落ち着いて話ができるわ」


相手に攻撃させ、まるで読み間違えたかのようにダンクネスさんは攻撃を受けた。そして相手が油断したその一瞬を狙いダンクネスさんは、見事シュカさんを拘束した。どうやらダンクネスさんは最初からこれを狙っていたようだ。


「ふぅ・・・・一時はどうなるかと思ったけど、よ、よかったぁ」


安堵と驚嘆の声を上げ、僕はため息をついた。


「何よ!今さらあなたと話す事なんてないわよ!!」


「だったら私の話を聞いてるだけでいいわ」


「・・・あぁ?」


ダンクネスさんは再び悲しい表情になり、シュカさんに優しく語りかける。


「神様ってね、なるにはとても難しいのよ。なぜだか分かる? 答えは簡単、そう単純になれたら神様という存在と概念の価値がおかしくなってしまう、世の中の調和と秩序が乱れてしまうから。だから神にりたいなら、最初で最後の『最後の試練』に合格しなきゃいけないの」


「最後の・・・・試練?」


シュカさんはおずおずと口を開き、ダンクネスさんの言葉を復唱する。


「そう『最後の審判』私たちはそう呼んでいる。天使の上、大天使の者だけが受ける事が出来る最終試験。だけどね、『最後の審判』は突然やってきて、本人はいつ行われたかすら気付かないわ。気付いたころにはすでに試練は終了し、成功していたら神へ、失敗したらそのまま一生天使のまま」


「あ、あたしにも……き…来てたの…か?」


「ええ、すでに行われたわ。そして、あなたはそれに失敗した」


「い…いつ……いつやったのよ!!?」


声が裏返り、ほぼ悲鳴のようにシュカさんは叫んだ。


「私が死ぬ直前よ」


「!?」


ダンクネスさんが死ぬ直前? 確か・・・この街に『運命の神様』が訪れて、それでシュカさんは神をも殺せる力を貰った、理由は勘違いのダンクネスさんの裏切りによるもの。それで己の私怨と感情にまかさられるままに、シュカさんはダンクネスさんを殺した。


この一連の出来事はよく考えたらおかしくはないか? つまりはこの出来ごと自体が『最後の審判』だったら? 次々と頭に散らばったピースが当てはまる。


「『最後の審判』の内容は、その試練を受ける対象者によって内容が変わる。あなたには昔の出来事があるから、相手を思いやる気持ち、相手を信頼する気持ちが欠落していたわ。だけどあなたは頑張って頑張って仕事をして、少しずつ努力して心を開き、私に好意を持ってくれたし信頼もしてくれた、すっごく嬉しかったわ……」


「………………………………」


昔のシュカさんの事を思い出しているのか、ダンクネスさんの顔には温かい幸せの表情が見えた。しかし、それも付かぬ間の事だった。


「だから『最後の審判』は、そこに目をつけた。あなたが本当に、他人を思いやり、心から信頼出来るようになったかどうか。私は信じていたわ、最後の最後までね・・・・」


最後の最後、その言葉の意味に僕はすぐ気付いた。


「でもあなたは失敗した、あなたは神にはなれなかった」


そしてシュカさんはそのまま堕天使になり、残ったのは一枚の片翼と憎悪だけ。そんな真実も知らぬまま、時は残酷なまでに過ぎていった。


そして現在。


ついに真実をダンクネスさんが本人から口から全てが伝わった今、あの日の出来事、殺してしまったあの瞬間の事、何故自分に力を与えたのか、全てが完全に繋がった事を理解したシュカさんの顔には言葉では表現しがたい歪んだ形になっていた。


「・・・・そんなの・・・・そんなの・・・そんなの・・・・・そんなの・・・」


つらつらとシュカさんから嗚咽の混じった言葉が吐きだされる。まるで何百年分の思いを吐き出すかのような勢いで。


時間が来たのか、シュカさんの四肢を拘束していた光の鎖が消え、ペタリと力なく座り込んだシュカさんを、僕たちはただただ見ている事しか出来なかった。


僅かな沈黙が流れ、そして。


「お主。最悪の大罪『神殺し』をしたお主が、何故に羽一枚程度で事が済んだのか」


最初に沈黙を破ったのはシロさんだった。


そう言われてみれば、確かに神様を殺したというのに、何故シュカさんは生きているのだろうか? まずダンクネスさんは神様であり、シュカさんは大天使。いくら力を貰ったシュカさんが簡単に殺せたのも、それはダンクネスさんが最後まで抵抗しなかったからだ。


だったらこれは天界では前代未聞なのではないか? 天使が神様を殺すなんて下剋上、そんなことをしたらまず、殺した天使も殺されるのでは? この世の秩序と変わりないなら、それ相応の罰が来るのでは?


そう頭で試案していたが、すぐに答えがシロさんの口から放たれた。


「答えは簡単じゃ、ダンクネスがわしに殺すなと頼んだからじゃ」


「!?」


ビクンッ!とシュカさんの体が大きく震え、ブルブルと体を揺らしながら、ゆっくりとシュカさんの顔がダンクネスさんの方へ向く。


「勿論天界からの決議で、すぐにでも抹殺、と答はでた。だが殺されたダンクネス本人は一人断固拒否した。何故かは言わずとも分かるじゃろ?」


シロさんが語る更なる真実に、シュカさんの体は見る見るうちに変化していった。顔中に冷や汗をかき、瞳は潤み、歯がよくかみ合わずガチガチと音を立てている。


「抹殺執行の任は運よくわしに任されて、この偶然にこの馬鹿は必死にわしに頼んできた。結局わしは、お主から羽を一枚もぎ取る事しかできんかったわ」


やれやれといった表情で、シロさんはダンクネスさんの背中を見つめる。


シロさんの視線を感じたのか、ダンクネスさんはこちらを振り返り、柔らかくほほ笑んだ。


「ダンクネスさん。あなたは・・・」


「クロドさん。あなたとお友達を巻き込んでしまったの事は本当に申し訳ないと思っているわ、ごめんなさい。でも、あなたが来てくれて、シロナを連れてきてくれて」


少し間を開け。




「ありがとう」




今日初めて見た、この上ない笑顔でダンクネスさんは言った。


お礼を言うと、ダンクネスさんはゆっくりとした足取りでシュカさんに歩み寄る。


すでにシュカさんの顔からは大粒の滴がボロボロと流れ出し、少しでも刺激を与えれば死んでしまうのではないかと錯覚してしまうくらい、弱弱しかった。


そのままダンクネスさんは、シュカさんの目の前まで歩みよると、すっと体を屈め、シュカさんを覆うようにダンクネスさんの両手が体を優しく包み込んだ。


「うぅ・・・う・・あああああああああああああああ・・・あああああああ」


ついに限界を迎えたシュカさんは、激しく狂ったように、いやまさに狂いながら泣きだした。


時が止まった街に、泣き声が風のように流れ、体に悲しみが染み渡る。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



どれ程時が経っただろうか。だが時が止まった街には、まったく関係なかった。


「うっく・・・ひ・・く・・・・・く・・・・・・・」


先程よりは収まった来たが、まだしゃくり声をあげながらシュカさんはダンクネスさんの腕の中で泣いていた。その光景は、何十年ぶりに再会した親子のようにも映った。


しかし、親子は今また別れようとした。


ダンクネスさんはシュカさんを包んでいた腕をゆっくりと下げ、立ち上がった。よく見ると、いつの間にかダンクネスさんの体は、腿から先が透明になり完全に消えていた。


「ダ、ダンクネスさん、それ・・・足が」


「ありがとうクロドさん。あなたに会えて本当に光栄だったわ」


顔はシュカさんを見つめながら、ダンクネスさんは僕に語り出した。


「誠に身勝手ですが、どうかルシュカの事、シロナの事、よろしくお願いしますね」


「よろしくって・・・そ、それって?」


「『運命の神アスナ』に会って下さい、そこでシロナの事を聞けるはずです」


そう告げると。何かを悟ったのか、ダンクネスさんは遥か高い空を見上げ、こう呟いた。


「ルシュカちゃん、残念だけどお別れね」


いきなり名前を呼ばれたシュカさんは、ここでようやくダンクネスさんの体の異変に気がついた。


「あ、足が・・・・・あたし・・のせいなの!? それに、お、お別れって・・・ど・・どうゆう事!?」


目の前の異常に、今まで包み込んでいた悲しみの感情が吹き飛び、シュカさんは大きく叫弾した。


「大丈夫、あなたのせいじゃないわよ。ただ、ちょっと力を使いすぎちゃっただけ」


シュカさんの不安そうな顔に、優しく語りかけるダンクネスさんの顔は、まさに聖母のようだった。


「ちょっと天界に還って、少しだけ休むだけよ」


笑顔を向けながら、だから、と続け。


「また、もう少しだけ。いい子でお留守番しててね」


幸せに満ちたダンクネスさんの顔からは、一片の不安や悲しみもなかった。ただ一筋の涙だけが、頬から滴り落ちた。


悲しみの涙ではなく、幸せの涙が。


「ま、まって!こ、今度はちゃんとお留守番するから!私がこの街を・・・・・人間を守るから!!だから・・・だから!また返って来てくれるんでしょう・・・・・? ダンクネス様!!」


シュカさんは必死に悲しみの感情を抑え込み、涙声で叫ぶ。


こうしている内にも、ダンクネスさんの下半身はすでに消えて、胸のあたりまで無くなっていた。



ポンッと右手をシュカさんの頭に乗せ、優しく温かい手でゆっくりと頭を撫でる。くしゃくしゃになっていたシュカさんの髪の毛が、そこだけ綺麗にまとまっていく。


「えぇ、必ず帰ってくるわ」


ダンクネスさんの胸が消えた。



「だってそうでしょ?」


ダンクネスさんの左手が消えた。



「この街が。ルシュカちゃんの隣が」


シュカさんの頭の上にある右手が消えた。






「私だけの帰る場所よ」





柔らかな笑みと共に、ダンクネスさんの頭がすーっと消えた。


時が止まった街に、止まったはずの風が再び吹き出した。




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