ある魔女の選択
小屋ではストーブにかけられたエナメルのヤカンの蓋がカタカタ鳴り湯が沸いているのを知らせていた。だいぶ前に茶葉を放り込まれた大ぶりなティーポットはテーブルの真ん中に置かれ、それを囲むように4つのカップとソーサーが並べられている。
外でタイヤがフェンダーに砂を巻き上げながら車の停まる音がする。
「どうぞ入ってらっしゃいな。」
ドアの外に立った客が薄っぺらなドアをノックする前に女が呼び掛ける。安物の蝶番がためらうように軋んだ音を立てて開く。
「久しぶりねぇ。」
相手が再開の挨拶をしようとする前に声をかけた女は立て続けに
「お茶を淹れてるから席にかけて待ってて頂戴。角砂糖は?」
男は呆れたように指を2本立てて砂糖の数を示す。
「3つでいいわね。」とそれを無視する。
「外のお客さんは?」とドアの外に待つ二人にも声をかける。
「お二人とも遠慮なさらないで。せっかく用意してるんだから。」
と入室を勧める。ドアの外で待つ大男とメガネの小男が顔を見合わせる。まるでドアの外を見透すように答える女の声が不気味に思えたからだ。
部屋に二人が入るとスプーンと砂糖の3つずつのせられた薄手のソーサーとジンジャーブレッドの乗った大皿がテーブルに用意されていた。先に席に着いた男が二人に目で着席を促す。
「さてと…と」
女の注いだコーヒー並みに色の濃い紅茶が部屋全体に香りを満たす。戸棚から取り出したジャムの瓶をクロスの敷かれたテーブルの真ん中に置く。
「どうぞお掛けになって。今はこんなものしか御用意できないの。今日はなんのご用かしら?まぁ存じてはいるのだけれど。」