そして魔王の道へ
そして魔王への道開く……
よろしくお願いします。
「ーー俺が魔王?」
「フッフッフ」
なんなんだ、こいつ。
俺のことバカにしてるのか!?
そうか、街の人間だな!
いい加減しつこいぞ! また俺を笑いに来やがったのかよ!
腹が立って強引に体を引き起こすと、やはり全身を痛みが貫いた。
俺は苦痛で顔を歪めるが、それでも何か言わずにはいられなかった。
「っつ! お、俺を、笑う、のか?」
「とっとっと! ダメですよ、無理したら。体中傷だらけじゃないですか」
と、慌てて俺の体を抑えてきた。
そいつはをローブのようなものを羽織っており、頭はすっぽり外套を被っていた。
そして外套を外すと、中からは人間の頭蓋骨が……
「あ、これ被り物なんです」
と頭蓋骨の被り物を取った。
って、おい。
それ被り物だったのかよ……
本物かと思って、ちょっとビビったじゃねぇか!
その頭蓋骨の被り物を外すと、中からは人間の顔が現れ……
ん? 人間?
いや、なんか違う……
髪の毛は肩にかかる程度に長いけど、銀髪だし。
瞳は燃えるように赤くて、肌はやけに白い。
耳はとんがってるし……
それでいて、かなり整った顔立ちをしている。
所謂、美青年てやつ。
っていうか、明らかに人間じゃないぞ!
俺はそこで目をカッ! と見開いた。
けらど、そいつはすまし顔で俺に、
「申し遅れました。私の名前はルシフェル」
と名乗ると、深く腰を折っておじぎをした。
なんだろう、その仕草が凄く上品に見えた。
この街でこんなことできる奴はいない。
あ、一人いたな。
上品な仕草でギルドの受付やってる女がさ。
マリアめ、俺が連れ出される時も澄ました顔で仕事していたな。
まぁ、助けを求めたわけじゃなくてたまたま目に入ったんだが。
それでも気には止めるくらいしてもいいじゃないかって思う。
……何考えてんだ、俺。
やばい、また腹が立ってきた。
「さぁ、ゆっくり体を起こして」
俺がそんなことを考えていると、ルシフェルは俺の横に膝をつき、背中に手を差し込んで、俺の体をゆっくりと起こしにかかった。
「あっーーつ!」
俺はまた、痛みで顔を歪めた。
体のあちこちに痛みが走り、悲鳴を上げてる!
くそ! 街の奴らめ、どんだけ痛めつけりゃ気が済むんだよ!
手加減てもんを知らんのか、手加減てもんを!
情けないが、痛むたびに声が漏れる。
これでも十五歳、多少の痛みは我慢できるつもりだったが、正直きつい……
「っく! い、いっつ……!」
「あらあら、結構酷いですねぇ。ちょっと待って下さい。ヒール」
身体中を走る激痛に悶えていると、ルシフェルは俺の体に手をかざす。
するとルシフェルの手が白く光り、だんだんと体が温かくなってきた。
次第に痛みも取れてきて楽になってくる。
「良かった、魔法が効きましたね」
とルシフェルは微笑んだ。
俺はゆっくりと体を起こしてみる。
先程までの痛みは消え、胡座をかいて座ることができた。
手を頭のうしろに回し、石をぶつけられたところを触るが血はもう出ていない。
正直言って驚いた。
「治ってる……」
「当然です。治癒魔法をかけたんですから」
そう言ってルシフェルは微笑んでいる。
微笑んではいるんだが、今の俺からすれば、薄っぺらいことこの上ない。
どうしても表面上の笑顔にしか見えないんだよな。
今までこんなことなかったのに。
そうか、それだけ俺は他人を信じることができなくなったってことか。
はっ、結局信じられるのは自分だけってことだな。
だとすれば、俺がこいつを信じることはまずないだろう。
いや、初めから信じるつもりはないってことか。
しかし、こいつは俺を馬鹿にするどころか、わざわざ治癒魔法なんて掛けてくれる変わり者だ。
こんな俺に何か恩でも売るつもりか?
そう言えば俺には魔王の素質があるとか抜かしていたな。
それはどういうことなんだ?
俺は正直に思ったことをルシフェルにぶつけてみた。
「……どうして俺にこんなことを?」
「あなたが才能に満ち溢れていたからです」
「才能に? 何の?」
「さっきも申し上げたでしょう。あなたは魔王になる資質をお持ちのようだ、と。魔王になるための才能……とでも言いましょうか」
才能……
俺に魔王になるための才能があるだって?
はっ、何言ってやがる?
やっぱりこいつ頭おかしいんじゃないのか?
気が付けば、俺は声を荒げてルシフェルに食って掛かった!
「ふざけるな! 何が魔王だ! 魔王になれたら、こんな世界、ぶっ壊せるとでも言うのかよ!」
「えぇ、出来ますよ」
「…….え?」
ルシフェルはそう言った。
たしかにそう言った。
立ち上がり、両手を大げさに広げ、演説でもするかのように。
この世界を壊すことができるって言ったんだ……
その答えに、俺はあんぐりと口を開けることしかできない。
本気で言ってるのか、こいつ?
「ですから、私と共に来れば…….の話です。どうです、共にいらっしゃいませんか? 私があなたを鍛えますから」
そう言って、ルシフェルは俺に手を差し出してきた。
な、何を言ってるんだ?
ルシフェルと共に行く?
俺を鍛える?
何訳の分からないことを……
「私があなたを魔王にして差し上げます。さぁ」
ルシフェルがそう言って笑う。
その顔に魅力されたのだろうか?
それとも、そんな狂言を信じてしまったのだろうか?
……
信じる? 何を?
他人をか?
いや、違う。それは違う。
俺は誰も信じない。何も信じない。
この先、この将来、俺を信じるって言われる者が何人現れようとも、俺は信じるつもりはない。
俺が唯一信じられるのは、自分自身。
自分の決めたことなら、それは俺自身を肯定することに繋がるから、俺は信じる!
どちらにしても、ここに俺の居場所はもうない。
だったら、俺は俺の居場所を探すしかない。
探してやる!
誰のためでもない、俺自身のために!
そして、俺は差し出された手を握っていた。
俺は魔王になる道を選んだのだ。
この世界を滅ぼすために……!