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頭蓋骨はカラカラ笑う

「そら! とっとと出て行きな!」


 ビードさん……、いや、ビード達はギルドの入り口から外へ向かって、力尽くで僕を放り投げた!

 それも、身ぐるみを全部引き剥いで!

 お陰で僕はランニングとパンツしか着ていない!

 道に転がる無様な僕を、奴らは腹を抱えて笑っていた。


「ぎゃーっはっはっはっ!」

「おいおい、リヒトォ。お前、そのカッコはやべぇんじゃねぇの? 憲兵隊が来ちまうぜ!」

「ギルドの面汚しめ、本来なら貴様などこの場で首を跳ねてやりたいくらいだ!」

「ギルマスの温情に感謝するんだなぁ」


 な、何が温情だ!

 面汚しだ!


 こんな、こんな仕打ちがあるのか?

 僕は何もやっちゃいない!

 僕は何も……!


 僕は体を起こし、ありったけの声で叫んだ。


「僕は何も、何もしていないじゃないかぁぁぁぁぁぁ!」


 ーーヒュン、ゴスッ!

 い、痛っ!


 何かが僕の頭に当たった。

 凄く痛い。ジンジンする……

 痛みがあるところに手を伸ばした。

 何かドロリとした感触があり、見ると手にベッタリと血が付いていた。

 僕が倒れている辺りには血の付いた石がある……


 僕は顔を上げた。


 街のみんなが僕を取り囲んでいる。

 僕を見下ろしている。

 冷たい目で。

 蔑んだ目で……


 な、何だよ……

 僕が何をしたって言うんだ?


 ーーヒュン!

 ゴスッ!

 まただ!

 また石が僕に向けて投げられた……!


 い、痛い! 痛いよぉ!

 僕は混乱しながらも必死で手で顔を塞いだ!

 やめてくれと何度叫んでもみんな手を止めない!

 むしろ、余計に石などを投げられ、罵声を浴びせられた。


「この人殺し!」

「いつかやると思ったんだよ。いつまでも雑用だったからなぁ」

「最低だよ、人間じゃない!」

「悪魔だ、人殺しなんて悪魔だよ!」


 な、何だ!

 どうしてみんな、僕をそんな目で見るんだ?

 やめろ、やめて! やめてくれ!


「う、うわ、うわぁぁぁぁぁ!」


 僕は走り出した!

 そこから逃げ出したい一心で!

 僕が駆け出すと、みんなが付いてくる!

 嘘だ! 来るな、来ないでくれ!

 もう誰も、誰も来ないでーーー!


 無我夢中で街中を駆け抜けた!

 捕まったら殺される!

 死ぬのは嫌だ!

 僕は何もしていないのに、やってもいない罪を被せられて死ぬなんて、絶対に嫌だ!


 僕は建物の間の路地に逃げ込んだ。

 路地でも必死に走った!

 けど、行き止まりにぶち当たってしまった…

 四方が壁に阻まれて行く手を阻んでいる。

 逃げるには、壁を乗り越えなければならない。

 僕は壁に向かってジャンプした!

 何度も何度もジャンプした!

 けど、一番上には届かない!

 走って勢いを付けたけど、全くダメ……

 もしかしたら叩いたら崩れるかとも思って何度も壁を叩いた!

 バシバシといっていた音が、ベシャベシャと変わった。

 僕の手は、皮がズルズルに剥け、叩く度に血が散っていた。

 それでも叩いた。

 叩くのを止まなかった。


 それでもダメ。


 何をしてもダメ。




 ーーダメダメダメダメダメダメダメ……



  僕はその場に膝をついた。


 絶望に打ちひしがれて。


 やがて、みんなが僕に追い付いてきた。

 背中を掴まれて引き寄せられて、顔を殴られた。

 腹を蹴られ、胃の中身を吐き出した。

 蹲ると、今度は顔を下から蹴り上げられて口の中を切った。

 血の味が口中に広がった。

 その後、また腹を蹴られた。

 もう何も出ない。代わりに口の中に酸っぱいものが上がってきた。

 今度は背中を蹴られて、勢いよく地面に叩きつけられてアゴを強く打った。


 その後は至る所を踏みつけられた。

 全身を、あちこちを、もはやどこが痛いのかも分からなくなるくらい。


 そうこうしてるうちに、僕の意識は飛んだ……









 …………


 気が付くと空は暗く、星が見えた。

 夜だ。

 夜になっている。

 身体を起こそうとした。

 けど、全身が痛くて起き上がることすらままならない。


 僕は寝そべったまま、夜空を眺めていた。

 寒い。

 そう言えば、身ぐるみを剥がされてたんだった。


「はぁ……」


 ため息をつくと、その音がやけに響く。

 気を失っていたせいか、頭痛が酷い。

 そのせいか、やけに頭の中がスッキリしている。

 僕はズキズキする頭で、あの出来事を振り返った。


 どうしてこうなったんだろう?

 どうして僕は人殺しにされてしまったんだろう?


 僕が一体何をしたって言うんだろう?


 僕はただ、頑張って冒険者になりたかっただけなのに……

 思い返してみても、僕が人殺しにされるようなことは思い当たらない。

 ただ、冒険者になりたい一心で頑張ってきたのに。

 なのになぜこんなことに……


 途端、目からブワッと涙が溢れてきた。


「う、うぅ、ううう……!」


 涙で夜空が滲んで真っ黒になっていく。


「うく、ひっぐ! うう、ゔゔゔゔゔぅぅぅ!!」


 歯を食いしばり、声を絞り出し……

 思いの丈をブチまけた。


「チクショーー! 何なんだクソォォォォォォォ! クソッタレクソッタレ! 僕の……俺のしてきたことは何だったんだよぉぉぉぉぉ!」


 俺は何も答えてくれない夜空に向かってが鳴り立て、ただただ叫んだ。

 声が枯れて喉が痛くなってきたが、そんなの知るか!

 俺はとにかく叫んだ!

 誰か来るかもしれないけど、気にしてられるか!

 叫んで叫んで声が掠れるまで叫んだ!


「クソォォォォォォォ! クソクソクソクソクソ!」


 その時、またドクンと言って、俺の中に黒い何かが蠢き、ささやきかけてきた。


 …….殺せばいい。

 ……憎めばいい。

 ……滅ぼせばいいーー


 ーーこの世界から人間など、滅べばいい。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 心の中から湧き出すその「黒い何か」に心が染まりそうになったとき!





 不意に声を掛けられた。


「おや? こんなところに何かと思えば……」


 と、俺の目の前で黒い渦が突然現れた。

 渦はギュルギュルと回転する度に大きくなり、煙のようになった。

 そして、人型に形を変えて真っ黒い影が現れると、その影が俺の顔を覗き込んできた。


「ほう……?」

「だ、誰だお前!?」

「これは面白い。なかなか良い暗黒面をお持ちのようだ」


 は? 暗黒面?

 一体、何を言っている?


「どうやらあなたは魔王になる資格をお持ちのようだ」


 は? 俺が魔王? 資格?


 何の冗談だ!?


「じょ、冗談も休み休み言え!」

「冗談ではありません」


 急に奴の声が低くなり、被っているフードを取った。

 その中から現れたのは……


 ず、頭蓋骨……


「あなたは魔王になれるのです。私と共に来れば……ね」


 そう言って、頭蓋骨はカラカラと音を鳴らした……


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