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短編

あくまで僕らは画面外

作者: ZEKE-A-TCC

 例えばそれは雑音。

 ある時突然、周りから隔離されて独りになっている気分になる。

 周りを見渡せば人なんていくらでもいる。それでも、まるで自分だけが違う世界に取り残されたかのような気分になるときがある。ここにいる人たちは、根本的に自分とは違う人間なんだって、なんとなくそう思う。誰にでも一度くらいは経験があるのではないだろうか。自分だけが取り残されているという錯覚に襲われた経験が。

「そうは言ってもさ。結局人間なんてみんな同じだよ。何も変わらない」

 僕の目の前の青年はそう言った。実際その通りではある。どんな人間も人間であるという点で同じなのだろう。僕たちは結局そこから逸脱することはできない。


「突然話かけてごめんね。面白そうな目をしていたからついつい気になってしまったんだよ」


 突然降りだした雨から逃げるように入った寂びれた喫茶店。雨が止むまでと、鞄に入れておいた本を読んでいたのだが結局読み切ってしまって、珈琲でも頼もうかと視線を上げた先にその男はいた。

「迷惑でなければ相席しても良いかな」

 周りには空席がいくらでもあるというのに、この男は突然そう言った。あやしさしかないが、僕に断る理由はなかった。僕が珈琲を注文をすると、青年も珈琲を注文した。雨は一向に止む気配がない。


 この青年も僕と同じく雨から逃げてきたらしい。雨が止むまでの時間潰しにちょうどよかったので、青年に雨が好きかと聞いてみた。

「雨、ね。嫌いじゃないよ。雨の音を聞きながら飲む珈琲は格別だし、こうして新たな出会いもある。あまり頻繁に降られても困るけどね」

 現代社会において、こんなことを言う者は珍しいのではないだろうか。自然現象を楽しめる人間も随分と減ってしまったように思う。ちなみに僕は雨が嫌いだ。

 しかしこの青年はなかかなに面白い。僕のことを面白そうだとか言っていたが、こいつのほうがよっぽど面白い。だからまた聞いてみた。突然独りになった気がすることはないかと。


 やはりこの青年は、いわゆる『普通』というものから離れたところにいるようだ。まぁ、突然相席を求められた時からわかっていたことではあるが。青年はこのあたりの人間ではないらしい。たまたま遊びに来ていたら雨に降られたと言っていた。こんなくたびれた町に遊ぶ場所なんて残っていなかったと思うが、なんだろう、野鳥でも観に来たのだろうか。

「嘘つきってどう思うかな。詐欺師でもなんでもいいんだけど」

 嘘といっても色々種類があるから一概には言えない。詐欺もそうだが、お世辞だってそうだ。嘘のない世界はきっと息苦しいだろう。人間は嘘をつかずに生きてはいけない。聖人を気取った者でも、神を崇める者でも、どこかで嘘をついている。

「そういう意味じゃないさ。悪意を持って嘘をつき、他人をだますような人たちのことを聞いたんだ」

 これもまた一概には言えないことだ。だが悪意を持っているという共通点があるなら僕の回答は決まっている。消えてしまえばいい。いなくなれという意味ではない。世界から去れと、そう言いたい。奴らが生きていたとして、僕らのような一般市民には何の得もない。害悪でしかない。

「その答えが聞けて安心したよ」


 青年はそう言って席を立った、名刺とお金をおいて。窓の外を見れば既に雨などなく、太陽が輝いていた。お勘定を済ませて外に出る。今日は何かあるかもしれない。なんてつまらないことを考えながら家に帰った。


 その夜はやけに静かに感じた。

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