表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悲しき雄ライオン

作者: 縞 虎ノ介

悲しき雄ライオン= 第一話



雄ライオンのレオは、サバンナに生える

一本の樹木のそばで体を横たわらせ

その生涯を終らせようとしていた。。


大富豪の三男として生まれたレオは

その家系のしきたりとして、18歳になると

家族の一切の援助も無く

殺伐としたサバンナに放り出され

自分自身の知恵とチカラによって

生きていかねばならなかった。。


サバンナに出てみると一頭の立派な雄ライオンが

何頭もの美しい雌ライオンをしたがえて

悠々自適に暮らしていた。。


その群れの中の一頭の美しい雌ライオンに

ひと目惚れしたレオは

彼女に交際を迫ったが、

『フーン、、あんたレオって言うの、

ちょっとイケメンだけどネェ、、あそこにいる

チカラも富もある、立派なライオンに勝てなきゃ

あたいを、あげる訳にはいかないネ!』


さっそくレオはその立派なライオンに戦いを挑んだが、

富、権力、人脈の前にはまったく歯が立たず

みじめに肩を落としながら、

サバンナを放浪するしか術は無かった。。


その様子を見ていた、ニート・フリーターの雄ライオンが

レオに向かって言い放った、

『やめとけ、やめとけ、

富や権力を持って家族をしたがえたって、窮屈なだけだぞ、

俺みたいに自由が一番さ、、

なーに、草や虫をくらってでも生きていけるさ』


この発言になんらかの説得力を感じたレオだが、

あの美しい雌ライオンと触れ合って見たいと言う

根源的な欲求の前には、

虚しい遠吠えでしか無かった。。


そんなある、月夜の晩に一人さびしく嘶いていると

レオの前に=ガイド=と名乗る老ライオンが現れて、

『レオよ、望みを叶えたければワシに付いてくるのじゃ』

レオは何も考えずに、老ライオンに付いていった。


一晩中歩き続け、夜が明ける頃にサバンナを横切って、

大相な森が見え、その森の奥深く入って行くと

樹齢、千年越えであろう巨木にたどり着いた、


巨木には『夢は実現する!

      あなたも成功者に成れる塾!!』

と書かれた、何とも怪しげな看板が掲げてあった、


巨木の根元には人が入れるほどの空洞が有り

塾の入り口になっていた。


半ば催眠状態で、入り口から巨木の中に入ると

レオの目の前には


あらゆる大物政治家、財界人、自己啓発学者達。。

いわゆる世の成功者といわれる者たちが居た。

     =つづく= =つづく=

 {このストーリーはTVドキュメント『悲しき雄ライオン』を

  モチーフにしたフィクションです}




    =悲しき雄ライオン=  第二話



『どうじゃレオ、やるか、やらぬかはお前次第じゃ

 少々授業料は高いが、ここで修行して

 望むものを手に入れるか?

 みじめな放浪を続けるか?』


決断を迫るような=ガイド=の声に

 レオは入門を決意した。


次の日から昼間はアルバイトの狩りをして、学費を稼ぎながら

夜間は寝る間も惜しんで成功塾にかよい、

全身全霊で修行に励み、三年間が過ぎ、

トップクラスの成績で修行を終えたレオは、


サバンナに戻ると、メキメキと頭角を現し、数年後には

サバンナで最多の群れの頂点に君臨する、

雄ライオンに成長していった。


毎食々々雌ライオンが提供する極上の肉を食し、

毎夜々々お好みの雌ライオンと戯れる、

この世の春を謳歌する人生を手中に納めたのだが。


夢とか希望はそれが実現してみると

最初の頃は歓喜に満たされるが

日に日にその喜びは薄れて行き、

次第に退屈で飽きて行くことに

レオは気づきはじめていた。


ある日のこと、サバンナの水溜りに映った

自分の姿にレオは驚愕した、

ブクブクとメタボッタ体、何の精悍さも無い自分の顔

生気を欠いた瞳、、

その姿に、以前の自分の凛々しい面影は

微塵も見い出せなかった。


『このままでいいのだろうか?何が欠けているのか?』

何不自由のない生活でありながら、

言い知れぬ苦悩を抱え始めていたレオは

群れから離れて一人旅に出かけた。


旅の途中で空腹をかんじたレオは、自分で狩りをしてみるが

群れの生活にドップリ浸かってしまった今のレオには

獲物を捕らえることは出来なかった。


疲れ果て、落胆して座り込んだレオの背後から

あの=ガイド=の声が聞こえてきた。


『久しぶりじゃのぉレオよ!

 今のお前の望みは何んじゃ?叶えてやるから

  付いて来い!』


以前と同じようにあの森の巨木の前に

たどり着いたレオだったが、

巨木に掲げてある看板には、

『天国、極楽、悟り、行き!

        承ります!』

と書かれていた。


巨木の根元の空洞入り口から中に入ると、、

そこには、世界中の

あらゆる宗教、宗派の

司教、宣教師、僧達が、、

ずらりと勢揃いしていた。。。


 =つづく=次回、最終回、乞うご期待!=


   =悲しき雄ライオン=  最終回


『レオ、どの宗教、宗派を選ぶかはお前の自由じゃ

 ここから先は、一切の苦は無くなり

 至福の境地がお前のものになる、ただし、、

 お前の蓄えた全財産を、その宗教、宗派に

 寄付することが条件じゃ』


その条件を受け入れたレオは、直ちに巨木を抜け出して

全財産の有るサバンナに向かった


すっかり日が暮れた頃に、レオがサバンナに到着して見ると

自分の群れらしき辺りに、光々と灯りが灯っていて

近づいてみると、数頭の雄ライオンが

レオの群れの雌ライオンをはべらかして

宴を披いていた


どうやらレオの居ない間に、この雄ライオン達に

群れを奪われてしまったようだ


   『ガァオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!』


おぼろ月夜の空に、眠っていた王者レオの

魂を呼び起こす雄叫びが、とどろきわたった


その雄叫びは数頭のライオンとレオの

戦いが始まる合図でもあった


雌ライオンの群れを支配したいと言う雄ライオン同士の

悲しい性のぶつかり合いであった


すさまじい死闘が、いつ果てるともなく続き、、

その終演を迎える頃には、夜が明けていて

辺りは明るくなっていた


戦場の広場には

息の途絶えた数頭の雄ライオンが倒れていて

その中央には、

明らかに、深い致命傷を何ヵ所も負っている

レオが、四本の足で立っていた


裸一貫、たった一人で

サバンナ最多の群れの頂点に君臨した

王者の誇りと意地と魂がレオの体を立たせていた


そのレオの姿を見た、雌ライオンの誰もが

王者がら発するオーラの光輝を浴びて

一如の感涙を流していた


それから、、レオはヨロヨロと歩いて

サバンナに生える、一本の樹木のそばに横たわり

その生涯を終えようとしていた


その時、天国、極楽、悟りの3点が入れられた

贈答用の菓子箱を抱えた=ガイド=がやって来て

レオの顔の前にその菓子箱を差し出した


それを見たレオは、、


『そんな物はいりません

 私は、気づくのが少し遅かった

 

 富や名声にせよ、天国や悟りにせよ、

 それを求める心には、何の違いもありません

 求め、欲しがる心は、争い、奪い合いを生み

 それは苦悩、地獄につながって行くのです


 かと言って、本来備わっている欲求を

 隠したり、無理に押し殺したりして

 自分を偽って生きるのは

 私の道ではありません


 わたしの過ちは、欲求に向かって行ったことではなく

 本当の自分を忘れてしまったからです


 求める心が自分だと思っていたのです


 わたしは、百獣の王です

 求め欲しがる心を従えて

 自分が王であることを忘れずに、それに向かえば 

 物事に執着することもなく

 求め欲しがる心に向かいながらも

 自ずと、それを超越した人生を

 生きて行けたに違いありません


 私は、気づくのが少し遅かった』


薄れ行くレオの意識に聞こえた

最後の音楽は、、


遥か極東の島国、日本の

京の都から届いた


祇園精舎の鐘の音であり

その音色は


アフリカの大地に還ろうとしている

悲しき雄ライオンを


諸行無常の響きで包んでいた


    =完=




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ