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逆バレンタイン

13日目。



ちりりりり、ちりりりり


ちりりりり、ちりりりり


目覚まし時計の音で、ぱっと目を覚ます。


彼は、まだ、隣で眠っている。


起こさないように、そっと、ベッドから、足を地に着かせ、起き上がる。


静かに流れる秒針の音。


風のない朝。


キッチンまで行き、コーヒーのセットをする。


「うーん…よし!」


気合を整え、動き出す。


彼に初めての朝ごはんを。





トーストを焼き、トーストの上には、焼いた少し焦げ目が付いたベーコンを載せ、半熟の目玉焼きを載せた。


そこに、塩胡椒、マヨネーズ。


インスタントの予め買って置いた、コーンスープ。


元を入れ、お湯を注ぐだけだが。


どんな反応をするのだろう。


朝食を済ませ、支度を始める。


身支度ときちんと整え、鏡の前に立ち、気合いを入れた。


「よし!」


なるべく小声で。


支度を終え、駅まで向かった。


いつも朝、彼と通る道が、まるで、違う道のように見えた。


キラキラと。


空気が冷たい。


口からの息が白い。


首に巻かれた赤いマフラーが風で少し、揺れる。


ふーぅ


ため息。


今度は、空を見上げた。


いつもと何も変わらない空の筈のに、違うように見えた。


キラキラと。


そのまま、仕事場へと歩き続けた。


少し冷たい風が吹く。


首に巻かれた赤いマフラーが再び少し揺れる。


地に生えた草たちも風と共に揺れる。


いつもは、あっという間に着いてしまう仕事場が、遠く感じた。




その頃…




目が開き、僕は、目を覚ます。


隣で眠っていた筈の彼女がいない。


時計を見ると、既に10時という時間だった。


「うーん…」


再び、布団の上に横になる。


「はーぁ」


ため息を吐く。


僕は、起き上がり、用意をして、キッチンに向かった。


食卓のテーブルの上には、焼かれたトースト。


その上には、ベーコンと目玉焼き。


カップも用意されており、インスタントのコーンスープの元が隣には、置かれていた。


その朝食の近くには、メモ帳みたいな小さな紙っきれ。


それを手に取って見ると、文字が書かれていた。



"翔さん、おはよう!


私は、仕事なので、行ってきます。


朝食を作りました。


良かったら、食べてください。


翔さんのよりは、美味しくないかもしれませんが。


ゆき"



微笑んだ。


僕は、早速、トーストを口に運ぶ。


「まあまあかな」


そう呟くように言い、次々と口に運んだ。


食べ終わり、皿やカップの食器類を洗う。


水が冷たく、目がはっきりと冷める。


洗い物も終え、今日、計画していたことを実行し始めた。




私は、家に帰ろうとしていた。


すると、後輩から、水玉のかわいい袋を渡された。


後輩の女の子、真由ちゃん。


「先輩、お世話になってます」


そう言い、私に渡してきた。


「ありがとう」


正直、驚いた。


真由ちゃんは、微笑みながら、会釈をした。


その袋から中身を取り出してみると、チョコレートだった。


小さなかわいいらしいビニールになった入れ物。


チョコレートは、そこから、見える。


美味しそうだ。


チョコレートには、ビーズみたいな飾り物。


一つ手に取り、口に運んだ。


まあまあ。


そして、私は、会社を出た。



家に帰ると、部屋は真っ暗だった。


「いないのかな?」


ドアを開け、中に入って行く。


すると、突然、ぱっと、灯りが付く。


「誕生日、おめでとう!」


クラッシュが鳴る。


そこから、なんか、出て来た。


「びっくりしたー!」


彼が姿を現わす。


「びっくりした?」


そう聞き、微笑んでいる。


そう、世間では、女の子が好きな男の子にチョコレートをあげるという日のイブ。


前の日。


その日は、私の誕生日なのだ。


「びっくりした!」


すると、テーブルの上には、食卓が並んでいる。


黒胡椒がかかったいい感じの焼き目の牛のステーキ。


その横には、ホンレンソウとミニトマトも載せられている。


オニオンと小さくしたブロッコリーの入ったスープ。


白米。


いい匂いが部屋中に漂う。


「食べよう!」


お互いに席に着き、手を合わせ、


「いただきます」


箸を手にして、スープを口に運ぶ。


はーぁ


息を吐く。


オニオンが甘く、ブロッコリーもとても柔らかい。


スープの味もいい。


次に、ステーキをナイルでカットして一口口に運ぶ。


柔らかい。


まるで、少し高いお店のようなステーキ。


美味しい。


美味しい。


柔らかい。


その横に置いてあったホンレンソウを口に運ぶ。


甘い。


ホンレンソウってこんなに甘いんだ。


美味しい。


幸せだ。


うん、幸せ。


「どう?」


ちょっと、いじめてみようと思って。


「まあまあかな…」


すると、私の腕を掴み、


「ふーん…」


ドキドキ。


「何ですか…」


更に顔が近づく。


ドキドキ。


ドキドキ。


沈黙が続く。


ドキドキ。


ドキドキ。


聞こえそう。


「好き」


「え?」


「もう、言わない」


ドキドキ。


顔が真っ赤になる。


ドキドキ。


暫くすると、


「ねえ、来て」


「え?」


「いいから」


私は、彼のところに行くと、


「目、閉じて」


「え?」


「いいから」


すると、彼は、私の手を掴み、


「目を開けていいよ」


私は、目を開く。


目を開くと、私の手には、包まれた箱。


「開けてみて」


私は、箱の中を開ける。


その中には、アクセサリー。


小さな薄いピンク色のハートが付いたブレスレット。


手に持っていると、


「貸して」


そう言い、私の首元につけられた。


「いい感じ」


思わず、口元が上がる。


間が少し開く。


それから、


「あと、もう一つ」


「え?」


冷蔵庫から、彼は、出して来た。


入れ物に入ったチョコレート。


「え?」


「バレンタインデー」


受け取る。


チョコレートを一つ手に取る。


そして、口に運んだ。


甘い。


口の中で溶ける。


すごい甘い。


「うーん」


声に出る。


幸せ。


幸せ過ぎる。


彼は、そんな幸せに浸っている私を抱きしめた。


月がそんな私たちをのぞいていた。

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