12日目。
12日目。
目覚まし時計よりも早く目が覚めた。
まだ、外は暗いようだ。
部屋もまだ、薄暗い。
横を向けば、まだ、隣で眠っている彼。
ベットの上で、布団から上半身が出る。
時計を見れば、薄暗く、はっきりと長い針だけが見える。
そんな静かに流れる秒針の音。
そんな時の中である。
ピンポーン、ピンポーン!
チャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう。
ピンポーン、ピンポーン!
2度目のチャイム。
私は、布団から身を出そうとする。
すると、突然、腕を引っ張られる。
彼の手である。
暖かい。
大きい手。
「おはよう…」
まだ、ちゃんと目覚めていない顔。
「うーん…」
布団から身を出すが、ベッドの上に座る。
手は、私の腕を掴んだままである。
ピンポーン、ピンポーン!
部屋中に響き渡るチャイム。
こんこん。
ドアを叩く音。
こんこん。
2度目の叩く音。
「すいません。誰か、いらっしゃいますか?」
しつこい。
こんこん。
ピンポーン、ピンポーン!
何度も何度もその行為は、繰り返される。
しかし、一向に離そうとしない手。
「いいよ、出なくて」
再び、口を開く彼。
「…」
沈默が続く。
長い沈默が暫く続くと、やがて諦めたのか、その行為は、突然、なくなる。
時計を見れば、まだ、6時半。
カーテンから、日差しが入り始めた。
突然だった。
彼は、ネコを撫でるように、私を撫でる。
そして、ベッドの上に私を運び、自分もベッドに入り
横になる。
暫くして、私に抱きついてきた。
ネコを近づけるように。
「抱き枕」
そう言う。
暖かい。
でも、心臓がドキドキ。
徐々に激しくなる音。
彼に聞こえるのではないかと。
顔の距離が近い。
「抱き枕」
彼は、そのまま、再び、目を閉じる。
ちりりりり、ちりりりり
ちりりりり、ちりり…
目覚まし時計の音が部屋中に響き渡る。
私は、目を見開く。
出れない。
ぎゅーっと本当に抱き枕のように。
抜け出せない。
すると、暫くして、彼のスマホが鳴る。
りりりん、りりりん!
りりりん、りりりん!
その音が次第に部屋中に響き渡る。
りりりん、りりりん!
りりり…
「うーん…」
そう言い、その音を止める。
とっくの前に目が開いていた私は、目が開いた彼を見る。
「おはよう」
そう言うと、彼は微笑み、
「おはよう」
そう言い、私を抱きしめる。
時計は、もう既に、7時半である。
秒針がゆっくりと流れている。
お互いに起き上がり、彼は、キッチンに向かう。
気がつくと、20分くらい経っていた。
「出来たよ」
そう私に声をかける彼。
テーブルの上には、既に、朝ごはんが用意されていた。
白米に、わかめと玉ねぎの入った味噌汁。
焼かれた鮭。
ふわふわとした卵焼き。
やっぱり、ふわふわとしており、美味しい。
彼の卵焼きは、絶品だ。
甘めではあるけれど、卵の甘さが引き立っているのだ。
わかめと玉ねぎの入った味噌汁が身体まで染み渡る。
焼かれた鮭も脂が乗っており、美味しい。
「ふぅー」
幸せのため息。
「美味しい?」
「うん!」
「そっか」
満面の笑みで答えたらしく、
「美味しそうだね」
微笑んでいた私は、
「美味しいよ」
彼は、そんな私を見て、微笑んでいた。
仕事の行く途中まで、二人で手を繋いで歩いた。
曲がり角で、
「行ってきます」
そう彼は言い、お互いに家を後にした。
私は、彼の姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
彼は、時々、振り返り、手を振る。
あー
このまま、ずっと、続けばいいのに。
仕事場に向かう途中、何だか、寂しい気持ちになった。
仕事場に着けば、席に着き、パソコンを立ち上げ、仕事を始めた。
パソコンと向き合い、打ち込む。
打つ。
打つ。
打つ。
気がつくと、お昼を回っていた。
鞄から、お弁当箱を出し、包みを開ける。
そして、蓋を開ける。
お弁当の中は、白米に、朝のふわふわとした卵焼き。
まだ、見た目もふわふわしている。
鳥の唐揚げ。
色がキツネ色であり、柔らかい。
春雨サラダも入っていた。
美味しい。
美味しい。
冷めてはいるけれど、美味しい。
幸せに包まれる。
ふぅー
幸せのため息。
自販機で買ったコーヒーを口に運ぶ。
ふぅー
2度目の幸せのため息。
それから、更に、仕事を再開した。
仕事の帰り道、夜空の星がキラキラとして見えた。
家に帰ると、まだ、彼は、帰っていなかった。
数分経って、彼は、帰って来た。
「ただいま」
玄関まで行くと、彼は、赤い薔薇の花束を持っていた。
驚いた私は、
「どうしたの?その薔薇」
そう言うと、微笑みながら、片膝を立て、
「姫に、プレゼント!」
私に渡した。
思わず、目から涙が流れた。
感動の涙とうれし涙を。
彼は、その後、私をネコに撫でるように優しく撫でた。
涙を流した私に、
「夕飯にしよう」
キッチンに向かい、支度をし始める。
30分くらい経った。
「出来たよ!」
部屋中にいい匂いが漂う。
テーブルの上には、熱々の鍋。
白菜が甘く柔らかい。
そこに入った椎茸もいい感じに柔らかい。
豚肉も柔らかい。
「おー、鍋」
「食べよう」
「うん!」
彼は、いつも、私の座る席の椅子を引く。
「どうぞ、お姫様」
私は、照れる。
熱々の鍋は、身体によく染み渡る。
何なんだ、これは。
幸せすぎる。
その夜は、二人で熱々の鍋を食べた。
月だけがその幸せの見守っていた。