いざ、キャバクラ
「イライザと申します。魔王様、今宵はよろしくお願いいたします」
イライザと名乗った女の子は頭を垂れておれにそう言った。そのイライザちゃんはどちらかといえば、かわいいって感じの女の子。きれいな金色のウェーブのかかった髪を胸のあたりまで伸ばしていた。そして目が大きくてきれいな青色をしていて、くちびるがぷっくりしていた。背はそんなに高くない、そして華奢な子。
「シェリーです。魔王様、お手柔らかにお願いいたします」
シェリーちゃんは長いきれいな黒髪の女の子。イライザちゃんとは違い、きれい系のお姉さんといったところか。黒い切れ長の目に、薄いくちびる。シェリーちゃんは山崎くんノートに出てくる魔法使いのお姉さんみたいだった。背が高くて、そしておっぱいでかい。いい体してるじゃねーか。
二人ともキャバ嬢のような露出度が少し高い服を着てる。だから体のラインがよく分かるのだ。イケメンはおれがこの子たちとやらしいことをする想定でいるから、そういう服を着せたのだろう。
おれはプライベートルームの四人かけのでっかいソファーに座って「二人とも、こっち」と手招きをした。イライザちゃんはおれの左側に、シェリーちゃんはおれの右側に座った。
「さて、どうしようかな」
おれは言った。
「お好きなようになさってください」
シェリーちゃんはそう言って、おれの手を自分の太ももに持っていった。あー、そういうこと。大胆だ。でも違う。
「魔王様に抱かれるのは名誉で……」
「そうじゃないんだ。おれは二人と楽しく酒を飲んで話がしたいだけ」
おれはシェリーちゃんの手を太ももから離した。
「そうでございますか。ではお酒をお注ぎいたしますね」
イライザちゃんはテーブルの上にあった透明なグラスをおれに渡し、ワインのような果実酒が入っている瓶を持った。
そういや、佐藤部長にビールを注いだときは、ラベルの位置がどうこう言われたな。しかしこの瓶にはラベルがない。どう注ごうが関係ない。イライザちゃんの注ぎ方は少しぎこちなかった。魔王という自分よりはるかに偉い人間にやってるんだもんな。
「緊張しなくていいよ」
おれは優しく声をかけた。佐藤部長という反面教師がいるから、おれは優しくしてやるんだ。それにこんなにかわいい子だからな。いじめる気にはならない。いじめたらSだ。おれは違うからな。
「は、はい。申し訳ないです、魔王様」
おれが優しく言っても緊張は解けないようだ。グラスに当たる瓶のふちがかちかちなってる。
なんと果実酒を注ぎ終えたイライザちゃんは瓶をテーブルに置いた。おれは注がれた果実酒を飲む。その様子をイライザちゃんはまじまじと見ていた。
「イライザちゃんも飲む?」
「そんな、私は……」
おれは飲み終えたグラスに果実酒を注いで、イライザちゃんに渡した。
「シェリーちゃんも飲もう」
テーブルに置いてあったもう一つのグラスにおれは果実酒を注いで、そのグラスをシェリーちゃんに渡した。
「魔王様、これはいったいどういうことでしょうか?」
シェリーちゃんは不思議そうに聞いてくる。
「これは女の子と楽しくお酒を飲んで話をするためにすることなんだよ。今宵は酒を飲んで三人で楽しく話をしよう」
おれは最後に残っていたグラスに自分で酒を注いで、「乾杯しよう」と言った。イライザちゃんもシェリーちゃんもグラスを持って、おれたちはかちんとグラス同士を合わせた。
「あの、どういったお話をすればよろしいのでしょうか?」
酒を一口飲んだシェリーちゃんがそういった。
「じゃあ、おれから話をしようかな。いやな上司の話でも」
「え、魔王様は一番お偉い方なのに上司が?」
シェリーちゃんは驚いたように言った。この子たちにとってはおれが一番偉い人間だから、あのクソ部長の存在が分からないんだろうな。
「いるんだよ、おれを毎日怒鳴りつかるようなやつがね」
おれはグラス一杯の酒を飲み干した。するとイライザちゃんが継ぎ足してくれた。この子は気が利くな、いいお嫁さんになるぞ。
「その方はいったいどのように魔王様を怒鳴りつかるのですか?」
シェリーちゃんがおれに聞く。
「『おい、山田。今日の会議の資料を昼までに作れ』って朝出社してすぐに言ってきてさ。信じられんよ、時間は四時間もないのにね、超高速で資料を作っても、手抜きだと言われたりして。そりゃまともに作れなかったおれにも非はあるけどさ……」
おれはイライザちゃんの注ぎ足した酒を飲み干す。
「し、資料ですか……」
この世界には「会議の資料」なんてものはあるのだろうか、シェリーちゃんはなんのことだか分からないでいるだろう。
でもそれでいい、話がよく分かってもらえなくてもいい、おれはかわいい女の子に囲まれて話をしたいのだ。
キャバクラもどきも盛り上がってきて、おれがテーブルの上に登って果実酒を飲み干すと二人が拍手をするまでにテンションが上がってきたころだ。
「魔王様、大変です!」
プライベートルームの扉がものすごい勢いで開かれた。やってきたのはイケメンだった。
「お、どうした?」
酔っぱらってへべれけなおれはかなりの上機嫌でイケメンに声をかけた。
「イケメンも一緒に飲む?」
持っているグラスを目の前に差し出すと、イケメンは「違います、大変なのです、魔王様! とにかく安全なところにお逃げください!」そう切羽詰まって言う。
「なにかあった?」
イケメンが焦りに焦ってるからおれはテーブルを降りてイケメンのそばに寄った。イケメンは小さな声で「酒くさっ」と言った。魔王の地獄耳はそれを聞き逃さなかった。
「とにかく大変なのです。人間が攻めてきたのです!」
「はぁ? この世界ではみんな仲良く暮らしてるって」
「そうなのですが、女騎士が単身城に攻めてきたのです」
「いざ、鎌倉」のノリでよろしくお願いします。
次が最終話です。ますますひどくなります。




