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魔王は暇だからキャバクラ提案してみた

「暇だ」

 日が昇って沈んで八回目の穏やかな午後、おれはふかふかベッドの上でごろごろ転がっていた。

 魔王ってなにかすることあるの? とイケメンに聞いたら「特にないです、好きなようにお過ごしください」と言われた。魔王ってニートなのか? ニートになってことがないからよく分からないけれど、暇。

 なにか娯楽があれば楽しいのだろうけど、まったく楽しめることがない。

 本でも読もうかと思って、部屋にある本棚の本を手にしたらまったく文字が読めなかった。アルファベットとかじゃない、例えるならヒエログリフのような文字で本が書いてあるのだ。この世界はこんなわけの分からない文字で成立してるのか、山崎くんよ。なので読書はできなかった。言葉は日本語で成立してるのに文字はどうなってんだ、山崎くんよ。

 生活は、山崎くんノートに書いてあったような鎧を魔改造した魔王の服は着てないけど、世界史の教材で見たような中世貴族のような服を着させられて、朝はテレビで見たことのある高級ホテルのブレックファーストみたいな食事、昼は高級住宅街マダムのランチ並みのものを食べて、夜はさらに豪華な食事を食べさせられて、偉い人くさい生活をしてる。いや、魔王だから偉いんだけど。しかしこんな食生活していたら太るだろう。

 あー、人事部で佐藤部長に睨まれながら仕事する方がまだましだ。刺激がある、刺激ありすぎて恐怖だけど。「おい、こら、山田」と毎日言われた頃が懐かしい。でも怖い。

 昼に牛丼食っていたときが懐かしい。夕飯のコンビニ弁当が懐かしい。ああ、庶民的食べ物の方がおれには似合ってる。

「本当に暇」

 おれはベッドから立ち上がって、窓の外を見る。

 穏やかな世界、魔族も人間もその他種族もみんな争いもせずに暮らしているんだ。山崎くんノートの世界とは違う。彼のノートはもっと殺伐としていた。すべての種族が争いをしていた。それに比べたら本当に平和な世界だ。

 魔王の権限で争いを起こそうと思えばできるのだろうけれども、おれはそんなことはしたくないし、この世界の均衡を壊したくない。平和が一番だ。

 でも暇。

 娯楽がほしい。

 例えばお酒を目一杯飲むとか? 毎食、ワインのような果実酒は少しは飲んでいるが、ハメを外すくらい飲んでみたい。そう、かわいい女の子と一緒にお酒を飲んで話をして……ってこれはキャバクラじゃないか!

 魔王の権限でキャバクラをするとか! いいじゃないか! 平和で、楽しめて、最高じゃないか!

 そうとなったらさっさとやらないとだ。

 おれは部屋を出て、イケメンが待機してる隣の部屋のドアを少し乱暴に開いた。

「イケメン、やりたいことができたんだ!」

「魔王様、一体どうされたのですか?」

 イケメンは本を読んでこの部屋にいた。。このわけの分からない文字の本を読めるとは、さすがにこの世界の住人だな。

「おれはかわいい女の子と酒が飲みたい。その場をセッティングしてくれ」

「それは酒宴というものでしょうか?」

 イケメンはぱたんと本を閉じて、おれの顔を見た。

「そのような場ならすぐに用意できますが。どのようにいたしましょうか?」

「そうだな、かわいい女の子を二人用意してくれ。場所はプライベートルームみたいなのあるだろ、そこでいい」

 やる気のまんまんのおれは早口でまくしたてる。

「それでは場所が狭すぎませんか? 酒宴というものは女性二人だけでなく、もっと人数を呼ぶものでは?」

「女の子の数は少なくていいんだよ、とにかくかわいい女の子を頼む」

「そうですか。魔王様も男性ですからね、そういう場も必要かもしれません」

 あ、こいつ絶対に勘違いしてるな。おれはやましいことや風俗ごっこをしたいわけじゃない。あくまで女の子と楽しく話をして酒を飲むだけだ。いままで手が伸ばせなかったキャバクラをこの世界でやってやるんだ。

 魔王の権限でやるんだ。

 現実世界でできなかったことをやってやる。そうだ、変な世界にやってきて、魔王という偉い肩書きをもらったからには、やりたいことをやろう。暇はいろいろ考えて潰せばいい。

 中学生の山崎くんには魔王がキャバクラをするだなんて考えつかなかっただろうな。キャバクラする魔王を妄想ノートに書き込む中学生もいたら恐ろしいが。

平社員にはキャバクラってもんが夢なんですよー。

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