山崎ノートの中の世界
「ですから、あなたはこの世界の魔王なのです。魔族を統べるお方なのです」
イケメンはオウムのようにくどく同じことを言う。おれが魔王だと言うのだ。
魔王だなんてものは、中学生のときの友人、山崎くんが書いていたノートに出てくる人物だぞ。
少々オタクで夢想家だった山崎くんは、勇者だの魔法使いだの戦士だの魔王だのノートに書いて見せてくれた。そこにはその人物のイラストとレベルと必殺技らしきものがつらつらと書いてもあった。山崎くんはそのノートに書いてある登場人物でストーリーを作っていたっけ。
確か、最後に魔王は勇者に倒されるのだ。
ん、ちょっと待て。おれが魔王なら勇者に倒されるのか? こんな訳の分からないところで死ななきゃいけないのか?
「イケメン、おれは死ぬのか?」
「魔王様、なにをいきなりおっしゃるのですか。魔族は人間よりは長寿でございますが」
イケメンは不思議そうにおれに言う。
「魔王様は魔族としてはまだお若い方でございます。死ぬことなど……」
「違う、勇者がおれを殺しに来るんだろ」
山崎くんのノートの世界ではそうなってる。魔王は悪、勇者は善になり、悪は善に倒されるのが定石ってもんだろう。
「魔王様、勇者などという存在はこの世には存在しませんよ? この世界はさまざまな種族で構成されているのです。そこに勇者など……。もしやこの世界のこともお忘れになったのというのですか?」
「イケメン、おれは酔っぱらって家に帰る途中にこの知らない場所に来たんだよ。だからまったく分からん」
「その、魔王様が記憶を失っていることはよく分かりませんが……説明いたします」
イケメンの言うには、この世界は魔族や人間などを中心に多種多様な種族がいるらしい。
人間は普通の人間、特質するところはなく、平和を愛し生活をしている。イケメンの説明ではそうだった。しかし山崎くんノートではそこからさまざまな能力を持った人が現れ、悪と戦うという。
人間以外にエルフ、これも山崎くんのノートに出てきた。耳が尖って美男美女が多いって山崎くんは熱弁してくれた。イケメンもそう説明した。
それから亜人種、これはゴブリンやオークとなどといった連中とイケメンは言った。山崎くんノートには女騎士とオークというものと戦って、女騎士が負けて「くっ、殺せ」と言ってるくだりがあった。なんで「くっ、殺せ」なのかは知らないけど。でもその女騎士は勇者に助けられると書いてあったな。
あと有翼人種、背中から羽が生えている人種。山崎くんノートには奴隷として高価に取引される、と中学生にしては恐ろしいことが書いてあったような。イケメンは珍しい人種であるとだけ説明した。
最後に、おれがなってしまったらしい魔族というのは、見た目は人間と変わらないが、魔法というものが使えるらしい。そして人間に比べたら長寿だそうだ。山崎くんノートには魔族の王が魔王で(それは文字通りだ)、人間世界を脅かし、世界征服を企んで悪さをしているという。しかしイケメンは魔族はとくに悪いこともせず、普通に人間やほかの種族と共存しているらしい。
そのへんがこの世界を構成する人種についてだという。
違うところもあるけれども、大体は山崎くんノートの世界だ。まさかここは山崎ノートワールド、山崎くんに作られた世界で、おれはその中で魔王という役割を演じなければいけないのか?
「ありがとう、イケメン。大体のことは分かった。ここは山崎くんの世界っていうんだな」
「山崎くんの世界とは? この世はそのような名ではありませんが……」
少し呆れたようにイケメンは言った。
「魔王様、しっかりなさってください。あなたは魔族の王です」
「はあ……」
いまいちしっくりこない、この魔王という肩書は。おれはごく普通の会社員だったのに、いきなり魔王だ。いきなり山崎くんノートの世界に迷い込んでしまった。
訳が分からん。
まだまだひどくなります。
ルビはふりませんでしたが、ノートを書いたのは「やまざき」くんです。「やまさき」くんではないです。