避也の能力
頑張って1日で仕上げました。
今回は会話が多めです。
大丈夫な方はごゆっくりー
「えっ、あ、あのー、だれなんすか?」
いきなりようこそと言われて、意味が分からないのでとりあえず聞いてみた。すると女性はニヤリと笑って、
「私は八雲紫、妖怪の賢者よ」
そしてどや顔を決められる。妖怪? 妖怪ってまさかあの妖怪なのか? さっきの登場の仕方や胡散臭いオーラから、俺はこいつが俺を変なところに連れてきたのだと悟った。
「まさかあんたが俺を此処に連れてきたのか?」
するとよくわかったわねという顔をした。俺は考えた。こいつは何をしたいのか。俺は元の世界へ帰れるのか。これから何をすればいいのか。
しかし、非現実的な状況の中で勝手な判断をすることは危険だ。とにかくまずはこいつの話を聞こう。
「あんたは何のために俺を此処へ連れてきた?」
紫はしばらく黙った。そして口を開いた
「あなたの生活を少し前から見ていたわ。あなたは、人生を恨んでいるかのようにに生きていたわ。それを見て私は、あなたを生きる価値のない人間と判断したの」
「…………!」
俺はあまりのショックで言葉が出なくなった。
「幻想郷には妖怪がたくさんいてね、人間を喰う妖怪もたくさんいるのよ。しかしこの幻想郷のルールに、幻想郷に元からいる人間を喰ってはいけないというのがあるの」
俺は息を飲み込んだ。
「でも人間を喰わない妖怪は妖怪じゃないわ」
「じ、じゃあどうするんだよ」
震えるような声で話す。紫は目を大きく開いた。
「どうするか、ですって? あなたのような生きる価値のない人間を、こっそり連れてきて妖怪の食糧にするのよ」
身体中に衝撃が走った。足がガクガク震えている。
「でもね! あなたは見事に逃げてしまったわけ。私はあなたに何か秘密があるんじゃないかって思って、ちょっと無理やり幻想郷へ連れてきたの」
紫は悔しさを吐き出すように言った。
逃げた? 馬鹿言うな、逃げられたらこんな異世界にいるわけがない。
「普通の人間なら今頃、妖怪の養分と成り果てていたわ」
そう言って紫は妖しく微笑んだ。ゾクッと、寒気が走った。それだけでこの妖怪がただ者ではないことが分かった。そして、この妖怪の手にかかれば、俺を生かすも殺すも自由だということも。
「俺を生かしたって訳か」
「……」
紫は答える代わりに一歩ずつゆっくりと俺の方へ近づいてきた。俺もそれに合わせて1歩ずつ下がる。俺は両手を前にして、こっちに来るなという意思を見せた。しかし、紫はそれを無視するかのように近づいてくる。
「さあ見せてもらうわ、私から逃げ切った能力を!」
え? 今なんて言ったんだ?
「ちょっと待ってくれ、能力ってなんだよ?」
それを聞いた紫は動かしていた足を止めた。
「まさか……あなた知らなかったの?」
こくんとうなずいた。
紫は頭に手を当てて溜め息をついた。「はあー」という音がはっきりと聞こえるくらいの大きな溜め息を。
「生かしておかなくてよかったのに」
おい、殺す気だったんかい。というか、いきなりがっかりしだすなんて、この妖怪は何を考えているんだ?
「仕方がない。教えるわ、能力のこと」
しかも勝手に教え始めたぞ。よく分からんな。
一方で、俺は期待した表情を見せた。能力を持っているなんて夢のような話があったらぜひ聞きたい。
「この幻想郷の住民の中には、能力を持つ者がいるの。私も持っているわ」
「さっき俺を飲み込んだやつだろ?」
「そうよ、私の能力『境界を操る程度の能力』で空間を開いたのよ」
超能力のようなことを聞かされて、ここの世界の人たちはみんなこういう感じなのかと思った。それを読み取ったのか、紫はこう説明をした。
「みんながみんな私のような超能力じみた能力を持っている訳じゃないわ」
「えっ、そうなのか?」
「空を飛ぶ程度の能力だったり、人間を幸運にする程度の能力だったりさまざまなのよ」
俺は腕を組んで考える。能力って聞いて、超能力とか特殊能力とかそういうのを想像したのだが、実際違ったし。ということは俺にもそういうのがあるのかもしれない。一個だけそれっぽいのがあるし。それが能力かといったら、そういえるのかは分からないが。
「そういうのだったら俺にもあった気がした」
紫の表情が変わった。
「生まれつきだけど、危険なことがあると、それを全て回避してしまうというくだらない能力ならある」
紫はその言葉を聞いて、安心した表情を見せた。
「なんだ、持っているのじゃない、能力。ならば、あなたは食料になる必要はない。むしろ、貴重なサンプルとして幻想郷に住む必要があるわ」
「なんで!?」
「ただの人間が、どうして超人的な力を持っているのかしら。あなたは他の人間とは少し違う」
「少なくとも、外の世界では……ね」
最後、何かを言ったようだったが、小さくて聞き取れなかった。だが、俺は紫の話を聞いて、ショックよりも嬉しさがこみ上げてきた。俺の理想としていた暮らしが、これから出来るかも知れないのだから。
「じゃあ私があなたの能力に名前を付けてあげるわ」
「俺の能力の?」
「そうよ。それとも自分で決めたのがもうあるのかしら?」
名前か。必要無かったから特に付けていなかったが、折角だからお願いするか。
「いや、無い。頼んでもいいか」
紫は頷き、そして言った。
「あなたの能力は、『あらゆるものを神回避する程度の能力』よ」