綱引き。
何故この展開にしたのか思い出せない…。
「よう嬢ちゃん、こんな奴に飼われてないでうちに来ないか?」
想像通りのテンプレ台詞を喋る、ニヤニヤした強面の男。身長差のせいで迫力は凄いが怖くはない。犬耳のせいもあるかもしれない。
あと無理に抱きかかえられたから鎖がピンと張って首が苦しい…。
首に首輪が食い込んでいるのを見つけたのか、男は若干モモカに寄ったが、2人を見て何を思ったか(いや、思ったことは1つだろう)、
「おい、こいつらも連れてくぞ」
背後の裏通りに向かって合図すると、ぞろぞろと仲間と思われる人々が出てきた。
みんな犬耳なので、かなりシュールな光景である。
どうしようか…とか悩んでいると、それを怯えて声も出ないと勘違いしたらしく、彼らは調子に乗り出した。
品のない笑い声を大きく立て、周りの視線など意に介さぬがごとく横柄に振る舞う。
本来ならこうなる前に穏便に目立たないように解決すべきだろうが、しかし、2人はまだ遠慮を知らないっぽかった。
「罪人に裁きを《聖火》」「《加熱》」
どちらがどちらを発動したのかはお分かりであろう。十人以上居たガタイの良い男たちは瞬時に、まるで蒸発するように消えてしまった。
あまりの超展開に、周囲の野次馬含む人々と僕を抱えている人は処理が追いついていないようだ。
その間に、装備品の修理でもしておこう。
「《修理》っと…OK」
僕はゲームプレイヤーの上位互換であるPCユーザーのため、装備品は耐久値が0になるまで基本的に見た目が変化しない。スス等は付くことがあるが、それは耐久値に関係のない部分だ。
さて、時間が動き出した。住民たちはざわついている。
僕を持ち上げている男は、ここからでは顔が見えないが震えているのが分かる。
あ、男が動かない間に普通に脱出できたじゃん…とか思いつつ、観戦を続ける。
男は、僕を人質にしようと考えたのか、お姫様抱っこ状態から僕を立てて、お腹に腕を回した。
そして、魔法は使わないのか腰から銃を取り出し、僕のこめかみに当てる。
へー、この世界でもこめかみを狙うっていう考えはあるのね。
「おい、このガキ殺されたくなきゃ大人しくしてな」
再びふてぶてしい笑みを見せる男。若干恐怖は覚えるが、多分どうせ効かないんだろう。
それに、《聖火》があれば僕を燃やさずに敵だけ燃えるんだろうな。
すると、モモカは予想外の行動に出た。
なんと、首輪を思いっきり引っ張ったのである。
ダメージはほとんど装備品が肩代わりするとはいえ、首は呼吸が辛うじてできる、程度には苦しい。
そして、まあそうなるかなとは思ったけど、男が僕の尻尾を掴んだ。
しかし、その後は完全に誤算だった。
「あいだだだだだ!!??」
軽く触るだけでもかなりくすぐったいくらい敏感なところなのに、鷲掴みにして引っ張られたらたまったものではない。
しかも、装備恩恵の恩恵は受けられず、猫耳にも直接触れていないので猫耳の耐久も消費していない。
そして、宙吊りになっているというだけで耐え難い苦痛だというのに、両者は筋力強化を施して力を倍加させ始めた。
「ーーーーーーッ!!??」
僕はしばし泣き叫ぶだけの猫と化した。




