待ちわびた。
(補足)完全詠唱には2種類あります。
それっぽい意味の言葉を繋げるタイプ、定められた言葉を放つタイプ。
ただし先人の知恵が後者なので、オリジナル魔法などは総て前者になるし、後者のほうが良い魔法という確証もありません。
日が暮れた。
それだけなら、帰ればいいかと皆が思う。
ただ、転生者2人にはある思考が欠如していた。
「宿を先に取っておく」―この発想が。
結果、宿は何処も満室だと断られた。
横でアルトが可愛らしくブーイングしているが、アルトのローブに時間を食ったのも要因の一つだしな……
ちなみに何故そんな発想がないのかというと、僕はずっと木の上で寝ていたからで、モモカは洞窟でしか寝泊まりしてないので予約とかなかったそうだ。
街灯や店の明かりがないと真っ暗になるであろう程夜になってしまったので、僕は晩ご飯となるお好み焼き風を購入し、他2人を引き連れてグリーンを出た。
……え?もちろん良さ気な木を探すためですよ?これからブルーに戻るとかはしない。
「ミライ…何処行く気?」
「いや、手頃な木を探そうと」
「……それで?」
「寝る」
「「はあ!?」」
女の子2人に呆れられた。
割と常識だと思うんだ、宿がなければ木の上って。
みんなもそう思わないか?
「「そんな馬鹿な」」
即座に否定されて、ちょっと心が傷つく。
良いじゃないか、0円だし安全だし風通し良いし……
「…?ちょっと待ってくださいミライさん」
「どしたアルト」
何か疑問があっただろうか。
「安全ってどういうことですか?グリーンには、外壁自体に強力な結界が張ってあって、ここらでは一番安全なはずですよ?」
「ああ、そんなことか…僕が結界貼ればいいだろ?」
「それでも国の方が安全です!」
なおも食い下がるアルトを適当にいなしつつ、数本の木が集中して生えている所を発見した。
「よし、この木にしようかなっと」
低い枝に足を引っ掛けて登る。
女性陣でも、スカートを履く馬鹿野郎は居なかったから普通に登れるだろう。
うん、なかなかの寝心地だ。3人で寝転んでも余裕なスペースが木の上に存在する。極上の木の上だな。
「おーい、アルトにモモカ。登ってこいよ結構快適だぞ?」
「分かった」
「……もう知らないからね」
2人は、なんとか納得してくれた。
木の上に登った2人は、文句はあれど快適であることを否定しなかった。
全員昇ったのを確認し、僕はこの木々を覆うように結界を展開した。
強度は…うーん、モモカから荷馬車を守るときに使った結界が魔力10くらいだから、50もあれば良いか。
念のため、完全詠唱で発動しておこう。
「外界の邪悪を防げ《聖結界》」
適当に作った前段なのに、やっぱり強化された気分になるのは不思議なものだ。
これだけで魔法の威力が数倍に跳ね上がる。便利便利。
ちなみに今回発動した《聖結界》は、聖属性を付与した結界だ。
魔物は近寄れなくなる。
だけでなく、僕のイメージの仕方がおかしいのか、触れると光属性魔法で自動応戦するという変なシステムまでついた。
「ちょっと待って!何この結界」
モモカに突っ込まれたが、まあいいや。
安全ならそれでいい。
魔力をケチり過ぎて、主人公がどれだけチートなのか伝わりづらくなってしまっています……




