それでも君に会いたくて…
Write89
『佐藤「私は一度ならず、二度までも同じ過ちを犯した。これ以上罪を重ねないためにも…私は自ら命を絶つ」』
佐藤が言っていた言葉を櫻井は思い出した。
佐藤はあの戦いが終わったら、自ら命を絶つつもりであった。
しかし、記憶がなくなったいま、佐藤は自分がしてきたことを忘れてしまった。
だからまだ自ら命を絶つようなことはしていない。
しかし、佐藤の記憶が戻ったら…そのとき佐藤は…。
そう考えると櫻井は佐藤の記憶を戻したくなかった。
だからあれ以来、佐藤さんと関わっていない。
記憶が戻ることがないように、そのきっかけを与えないためにも。
似たような理由で、俺はマヤちゃん、カトウ、部長との関わりを避けている。
部長は俊のことを思い出してしまえば、そのために人生をかけてしまうだろう。
カトウもピグマの研究のために人生をかけてしまう。
マヤちゃんにしたって何かしらの作用を与えてしまうかもしれない。
そういった理由で、俺はみんなとの関わりを避けていた。
それと…脳に負担をかけすぎたのか…佐藤さんは言葉を発することができなくなっていた。
それどころか、いろんなことに対してリアクションがなくなっていた。
呼ばれても聞こえていないのか、何の反応もなかった、
また、カトウはどういうわけか、記憶を失ってからは勉強ばかりしている。
いまも休み時間だというのに、机と向き合い、ひたすら勉強している。
クラスメイト「なんでお前勉強ばっかしてんの?」
カトウ「なんか…しなきゃいけない気がする」
クラスメイト2「お前がガリ勉キャラとかありえないわ」
カトウ「なぁ、前の俺ってどんなやつだった?」
クラスメイト3「えーっと…なんて言えばいいんだろうな…。例えば、そこに女子がいるだろ?」
カトウ「うん」
クラスメイト4「それだけで人生が素晴らしいと思えるやつ」
カトウ「…それは本当に俺なのか?」
クラスメイト5「もちろん」
カトウ「………」
カトウは再びガリ勉モードに戻った。
部長「櫻井」
櫻井「あ、えっと…なんの用?神崎さん」
部長「今日こそ私のことを教えてくれ。どうしても思い出さなければならないことがあるんはずなんだ」
櫻井「って、言われてもな…」
部長「本当に私はただ事故に巻き込まれて記憶を失っただけなのか?」
櫻井「そうだと聞いてます。僕も詳しいことは知らなくて…」
部長「みんながいうには、私とお前は元々同じ部活だったらしいじゃないか。だから私のことも詳しいんじゃないか?」
櫻井「確かに、僕たちは同じショッカー研究部にいて、ショッカーについて独自に調べていました。でもそれが原因で事故に巻き込まれてしまったんです」
部長「それなんだ。どうして私はそんな部活をやっていたんだ?」
櫻井「さぁ、流石にそこまでは…」
部長「…君は嘘をつくのが下手だな。まぁ、無理矢理でも聞きたいところだが、話さないのはおそらく私のことを思ってのことだろう。だから無理には聞かない」
櫻井「………」
部長「だが、私はどうせ思い出す、お前の手を借りなくても。だから言っても言わなくても変わらないぞ」
櫻井「それでも…いいたくない」
部長「…ならいい」
櫻井が学食へと歩いていると、一年生の女子と曲がり角でぶつかった。
櫻井「あ、ごめん」
マヤ「あ、えっと…櫻井、先輩…であってましたっけ?」
櫻井「マヤちゃんか…」
マヤ「これからお昼ですか?」
櫻井「まぁ、そのつもりだけど…」
マヤ「一緒に食べてもいいですか?」
櫻井「ごめん。一人で食べたいんだ」
マヤ「あらら、すみません。櫻井先輩はボッチに憧れる厨二患者でしたか」
櫻井「ひどい言われよう」
マヤ「まぁ、一人で食べたいならそれでいいですけど。それでは失礼します」
櫻井「待って、マヤちゃん」
マヤ「なんですか?」
櫻井「マヤちゃんは…記憶を取り戻したいとか思わないの?」
マヤ「私は…別に慌てなくてもそのうちひょっこり思い出せると思ってます。忘れただけで、なくしたわけではないですから」
先生「はい、それじゃあ今の季節は反省文が旬だから、宿題に反省文をやるように」
クラスメイト「先生、反省文が旬の時期っていつなんですか?」
先生「春の上旬からと夏の終わりまで、もしくは秋の始めから春の始まりまでだな」
クラスメイト2「春夏秋冬ですね」
先生「それじゃあ、今日も気をつけて帰れよ」
櫻井「………」
櫻井は黙って帰路に着いた。
途中で誰かが付いて来ているのがわかった。
佐藤「………」
櫻井「………」
佐藤は櫻井に声をかけたりするでもなく、櫻井の3歩ほど後ろをただ黙って付いてきていた。
櫻井「…なに?」
櫻井は振り返り、佐藤に問いただした。
佐藤「………」
しかし佐藤は答えずにただひたすらにジーっと櫻井を見つめる。
櫻井「…佐藤さん、家こっちじゃないでしょ?。ついてこないで」
櫻井は再び歩き出した。
佐藤もそれに黙ってついてくる。
やがて櫻井は家に着いたが、佐藤はまだ付いてきていた。
櫻井が家のドアを開け、家の中に入りドアの鍵を閉めた。
櫻井「ふう…」
櫻井が家に帰り、安堵していると、ドアノブがガチャガチャいいはじめた。
その力はドンドン強くなり、このままでは壊れると思った櫻井はしぶしぶ鍵を開け、ドアから顔を出した。
櫻井「だからなに!?」
少し強気で佐藤に問いただしたが、相変わらず佐藤に反応はなく、ただじっと櫻井を見つめるだけだった。
櫻井「…わかったよ」
櫻井あきらめて、佐藤を家の中に入れた。
櫻井が部屋に戻ろうとすると、佐藤は土足のまま、着いてこようとした。
櫻井「いや、靴は脱いでよ」
しかし佐藤に反応はない。
仕方が無いので、櫻井は佐藤の靴を脱がせた。
櫻井「………」
ほんと、空っぽになっちゃったんだな、佐藤さん。
櫻井が部屋に入ると、佐藤もそれに続いた。
部屋に着いた櫻井は座布団に座った。
しかし佐藤は立ったままジッと見つめるだけだった。
櫻井「…座れば?」
反応はなかった。
ただ、佐藤はジッと櫻井を見つめるだけだった。
櫻井「佐藤さん…どうして…」
部長「それだけ脳に負担がかかる技を使ったということだろう」
櫻井「部…神崎さんがどうしてここに?」
部長は細長い金属製の針金のようなものを見せながら言った。
部長「やめろ、神崎なんて…。いつも通り部長でかまわない」
櫻井「…もしかして、記憶が戻ったんですか?」
部長「あぁ、ついさっきな」
櫻井「そうですか…よかったですね」
部長「あんまり嬉しそうじゃないな」
櫻井「だって…部長はこれから俊を救う為に…いろんなものを捨てるんですよ?」
部長「…俊?。うっ!!…そうか…そういうことか…」
櫻井「部長?」
部長「すまんな、櫻井。実はさっき記憶が戻ったというのは嘘だ」
櫻井「えっ?」
部長「お前にかまをかける為に記憶が戻ったふりをしていた。そしたら速攻でボロを吐いた」
櫻井「騙したんですか!?」
部長「悪いな。だが、いまの俊の話でようやく全てを思い出したよ」
櫻井「そんな…」
部長「悪く思うな、これも作戦勝ちだ」
櫻井「俺がなんのために隠しておいたと思ってるんですか?」
部長「さあな。だが、私は私のことを知ったことで後悔はしていないぞ」
櫻井「でも…」
部長「お前はどうしても、他のやつらの記憶を戻したくないようだが、どうしてだ?」
櫻井「それは…」
櫻井は考えていたことを全て話した。
部長「うーん…佐藤の記憶を戻すべきか否かか…」
櫻井「どう思います?」
部長「どちらにしろ、そのうち佐藤は記憶を取り戻すんじゃないか?」
櫻井「記憶を取り戻したら…佐藤さんは…」
部長「それを止めるのが彼氏の役目ってもんだろ」
櫻井「もう彼氏でもなんでもないし…」
部長「…佐藤がほんとうにお前のことを嫌いになったと思ってるのか?」
櫻井「………」
部長「なぜ記憶のない佐藤がお前の近くにいようとするか分かるか?」
櫻井「………」
部長「もう一度、お前がどうしたいかよく考えろ」
ここで部長は櫻井の家を出ようとした。
櫻井「ま、まってください。佐藤さんをどうにかしてくれません?」
部長「………」
部長は親指をぐっと立てて家を出た。
櫻井「俺がどうしたいか、か…」
佐藤「………」
佐藤はなにごともなかったかのように、ジッとこっちを見ていた。
夜が更けてきても相変わらず佐藤さんは家に帰ろうとはしなかった。
櫻井「あの、もう夜も遅いのですが…」
佐藤「………」
反応はない。
櫻井「なんかもういいや。とりあえず布団を敷こう」
櫻井は布団を2組敷くと、もうなんか考えるのが面倒になって来たので寝ることにした。
櫻井「佐藤さんも適当に寝なよ」
櫻井が布団に入ってしばらくすると、佐藤が布団に入ってきた、櫻井の布団に。
櫻井「えっ、えっ…佐藤さん?」
背中越しに佐藤の温かさを感じる。
佐藤「………」
佐藤は特に反応がなかった。
櫻井「ちょっ、ちょっ…いや、あの…えっと…」
しかし、佐藤になにを言っても意味がないことを悟った櫻井は諦めて寝ることにした。
櫻井「いや、寝れねえよ」
以前も佐藤と寝たことはあるが、その時は今ほど距離が近かったというわけでもないし、なにより状況が状況でそういう気分になれなかった。
しかし、平和になったいま、思春期の櫻井の性欲を阻害するものはなにもなかった。
櫻井(なに?なに?。いいの?これはいいの?。これ襲ってもいいの?。いやいやいや、いま佐藤さんはなんかアレな状態なんだぞ。そんなときに手を出すなんで失礼だし、最低だし、いい匂いだし、ドキドキするし、柔らかいし。…もう、いいんじゃないかな?襲っても)
櫻井はさりげなく寝返りのフリをして佐藤と向き合った。
静かに目を開けて佐藤を見つめる。
佐藤は小さな呼吸だけを繰り返していた。
寝ているかのようにピタリとも動かない体、ただ一点だけを見つめる瞳、そして、そこに輝きはなかった。
まるで精巧に作られた人形のような面持ちが感じられた。
さきほどまで感じていた胸の鼓動は急激に冷め、櫻井を冷静にさせた。
櫻井は佐藤の頬にそっと手を伸ばした。
櫻井の手が佐藤の頬に触れても、佐藤はなにも反応がなかった。
冷たい…
佐藤の頬の体温は低かった。
さきほどとは違う感情が櫻井の中で大きくなっていく。
今度は佐藤の瞳を見つめた。
光なきその瞳は、ただ櫻井だけを写す鏡のようだった。
佐藤の瞳に反射した自分の顔を見て、櫻井はようやく自分が泣いていることに気がついた。
櫻井「あ…あれ…なんで泣いてんだ?」
虚しかったとか…悲しいかったとかじゃない…。
ただ、手を伸ばせば触れられるほどそばにいる君に、引き寄せれば抱き締めれるくらい近い君に…
無性に…会いたくなったから。
櫻井「佐藤…さん…」
会いたい、君に会いたい。
たとえ君が望んでいなくても…遠くに行ってしまうとしても…
それでももう一度…
櫻井「君に会いたい」
佐藤「………」




