放たれた巨悪なる英雄
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悪将軍「…逃げるぞ、カトウ」
カトウ「…賛成」
ピンク「あらあら、もっと楽しめばいいのに」
三谷「お前の相手は…俺だ」
フラフラと三谷は立ち上がった。
ピンク「…死人はお黙り」
ピンクの腕が三谷の腹を突き抜けた。
三谷「ぐあっ!!」
血が飛沫上げて吹き出す。
周りにいたものは皆、返り血を浴びた。
三谷「血を…俺の血を浴びたな!!能力発動!!」
そして…そこには誰もいなくなった。
カトウ「…瞬間移動でやつらを別の場所に送ったのか」
悪将軍「俊は…俊はどこだ!?」
カトウ「やつらの近くにいたからな、一緒に送られたんだろ」
悪将軍「そんな…ようやく俊が…」
カトウ「まだ死んだとは限らねえよ。瞬間移動でいなくなったのは三谷と俊、ピンクに中山か…
悪将軍「…くそっ!!」
カトウ「…いまは怪我人の手当てが先だ。みんなを連れてここを脱出するぞ」
悪将軍「必ず…必ず助けに行くからな…俊」
アナウンサー「速報です。ただいま入りました情報によりますと、悪将軍の正体が判明した様です。情報によりますと、悪将軍は住所不定、無職の川上誠38歳であると思われ、この度のテロで死亡が確認されました。彼の詳しい情報はこれから…」
マスコミ「加藤修蔵警視総監!!。悪将軍である川上誠はあなたの義理の息子であると聞いたのですが、詳細はどうなんですか!?。また、お孫さんはテロ行為に加担したとして国際指名手配されている件についても…」
修蔵「ええい!!通行の邪魔だ!!。それにうちの孫がそんなことするわけ…」
マスコミ「責任はどう取るおつもりなんですか!?」
インタビュアー「今回まもるんジャーの活躍によって、悪将軍が倒されたことについてどう思いますか?」
通行人A(顧問)「そうですね、これで安心して眠ることができます。まもるんジャーならいつかやってくれると信じていました。まもるんジャー様々です」
インタビュアー「このようにですね、世間はまもるんジャーの話題一色に染まってます!!」
アナウンサー「今回の件について国際テロジャーナリトの新田さんはどう思いますか?」
新田「そうですね。親元をなくしたショッカーもこれでようやく終わりを迎えるでしょうね。ショッカーのせいで子供を外に連れ出すのを躊躇っていた親御さんもこれで安心して幼女を外に連れ出せますね」
アナウンサー「幼女?」
新田「幼女が街に出歩く機会が増えるのでチャンスが増え…じゃなかった、怪しい人物も増えるんじゃないでしょうね」
アナウンサー「新田さん?」
新田「まもるんジャーも羨ましいですね。全国の幼女の憧れの的ですもんね。もし僕がまもるんジャーだったら幼女誘拐し放題…ゲフンゲフン」
アナウンサー「ちょ、ちょっと、カメラ止めて」
新田「とにかくなにが言いたいかと言いますとね、幼女最高!!ってことですね」
アナウンサー「まもるんジャーこいつも殺してくれないかな?」
櫻井「すごい反響だな…」
カトウ「これがやつの狙いだからな」
隠れ家の山荘に新たに設置されたテレビを見ていた櫻井は戸惑っていた。
まもるんジャーレッドの中山を賞賛する大きな声、責任をカトウの祖父に押し付けようとする声、そして…自分たちを責め立てる声に。
カトウ「結局、止めることはできなかったか…」
櫻井「なあ、俺たちがやってることって正しいことなのかな?」
カトウ「中山を止めることが正しいことかどうかってことか?」
櫻井「そう」
カトウ「…確かに、いまの世界は狂ってるところがある。それを正すにはこういう手を使うしかないのかもしれない」
マヤ「でも忘れないでください。それは多くの犠牲の上で成り立つものなんだと」
櫻井「…でもさ。もし俺たちが中山さんを止めてしまったら、その多くの犠牲は無意味になるんだよ?」
マヤ「…それでも、私は闘います。助けたい人がいるんです」
カトウ「俺もそうだ。部長もそうだろ?」
部長「まぁな」
カトウの父親の姿をした部長が返事をする。
先ほどまで自分たちを裏切り、敵に寝返っていた部長だが、カトウの作戦に協力するがため、櫻井たちについてきていた。
ついさっきまでカトウと死闘を繰り広げたにも関わらず、二人の関係に変化は見られなかった。
よくよく考えてみたらそういう仲間割れは今までもあったことなので、そんなに気にならなくなったのだろう。
そんな自分の変化に櫻井は気がついた。
櫻井「…佐藤さんは?」
佐藤「なに?」
櫻井「佐藤さんはどうするの?」
佐藤「…戦うよ」
櫻井「そう…」
俊との戦闘で気を失っていた佐藤だが、ついさきほど目を覚ましたのである。
櫻井は迷っていた。
なにが人のためになるのか、どうすることが正しいのかがわからなかった。
マヤ「そういえば部長、いつまで悪将軍の格好でいるつもりなんですか?」
部長は相変わらず川上誠の姿のままだった。
部長「それはな…」
カトウ「もう戻れないんだよ、部長は」
櫻井「へ?」
カトウ「部長のコピー能力が使えるのは一つの能力につき一回だけ。だからもう変身はできないんだよ」
マヤ「そんな!!」
櫻井「いや、戻せるよ、多分」
カトウ「え…あ、そうか」
櫻井「変身能力は工藤さんの能力でしょ?だったら俺のSEALで解除できるよ。実際できたし」
マヤ「そうですね!!早速試しましょうよ」
部長「いや、いい」
佐藤「どうして?」
部長「この姿は私の罪の証だ。理由がどうであれ、私は罪を犯した。だからこれはその罰なんだ」
櫻井「でも…」
部長「いいんだ、櫻井。私は悪将軍なのだから…」
櫻井「………」
これが本当に部長のためになるのか?…
櫻井「…わかりました」
そのとき、山荘に取り付けてあった置き電話が鳴った。
カトウが受話器を取り、応答する。
カトウ「もしもし?」
さかもっちゃん「もしもし、カトウ君。工藤樹の手術の結果なんだけど…」
カトウ「どうだった?」
さかもっちゃん「普通の人なら余裕で致命傷の傷だったんだけど、驚異的な回復力のおかげで大事には至らなかったよ」
カトウ「そうか…」
さかもっちゃん「こっちで匿っておくから心配しないで」
カトウ「わかった、ありがとう」
カトウは受話器を切った。
カトウ「工藤、無事だそうだ」
櫻井「それはよかった」
工藤はピンクにズタボロにやられたのだ。
部長「工藤の変身能力は強力だ。いくら相手が強かろうと、手も足も出ないものなのか…」
櫻井「あいつは一体なにものなんでしょう?」
マヤ「メイド長ですね、中山家の」
カトウ「メイド長?」
マヤ「はい。道理で強いわけですね…」
佐藤「中山を止めるなら、あいつとの戦闘は避けて通れない」
カトウ「あの鬼神者の神崎さんをさらに超えた存在…」
櫻井「神崎さんのときでさえ、中毒者3人でも勝てなかったのに…」
佐藤「…勝てるかな?」
カトウ「勝機はあるさ」
部長「なぜ中山がそこまで強いやつをいままで使わなかったと思う?」
佐藤「なんで?」
カトウ「中山が言ってたろ。コストがかかりすぎるからだって」
部長「父さんが全財産をかけて生成したピグマの量でさえ、鬼神者に一回なるために必要な量しかなかったんだ」
カトウ「いくらあいつが金持ちだからって、毎回その量を使うのは無理だろう。だからいままで使わなかったんだ」
櫻井「じゃあ、勝機っていうのは、エネルギー切れを狙うってこと?」
カトウ「そう、だから倒さなくても、時間切れを狙えばいい。実際親父の研究書にも、ピグマ融合型のミュータントについて記述されてるんだが、体内のピグマが切れると動かなくなるらしい
マヤ「時間稼ぎですね…」
佐藤「そんなんじゃ甘い」
櫻井「佐藤さん?」
佐藤「やつは私が倒す…絶対に」
部長「気持ちはわかるが…佐藤」
佐藤「信じて。今度こそ、戦い抜く」
たとえ、この命が燃え尽きても
櫻井「…佐藤さん」
カトウ「そういえばマヤちゃん、いままでどうしてたの?」
マヤ「私ですか?」
カトウ「そう。三谷の瞬間移動でどっか飛ばされてたじゃん」
マヤ「実は…無人島に飛ばされたんです」
カトウ「無人島?」
マヤ「そうです。多分大西洋の何処かの無人島です」
カトウ「へぇ…で、どうやって帰ってきたの?」
マヤ「徒歩ですね」
櫻井「徒歩?」
マヤ「はい。空を走って帰ってきました」
櫻井「マジか…」
マヤ「最初の方は大変でしたよ。何回も海に落ちましたから。あと一回海の中で意識を失ったときとかあったんですけど、たまたま漁をしてた人に助けてもらって助かりましたよ。でも苦労のおかげで能力を自由に使えるようになったんです」
櫻井「………」
一応マヤちゃんって病弱な子の設定のはずだったのにな…
強くなったんだな。
マヤ「途中であまりにお腹空いたんで近くにいたヘビとか食べたんですけど、けっこう美味しくて…」
いや、野生化したのかな?
夜
一応、男女で部屋を分けて寝ることになった。
櫻井「………」
なかなか寝付けないな…。
俺は…どうすればいいんだ?
カトウ「櫻井、起きてるか?」
櫻井「超寝てる」
カトウ「俺はお前がどういう選択肢を取ろうが恨んだりしない。戦わないのも一つの選択肢だ」
櫻井「………」
カトウ「ただな…お前が一緒に戦ってくれたら、心強い」
櫻井「………」
カトウ「話はそれだけだ」
櫻井「…そっか」
櫻井は布団から出て、部屋を出ようとした。
カトウ「出かけるのか?」
櫻井「カトウがうるさくて眠れないから散歩してくる」
カトウ「行ってら」
櫻井が山荘の玄関を抜けようとしたとき、リビングに部長の姿が見えた。
櫻井「部長」
部長「櫻井か…どうした?」
櫻井「ちょっと散歩に行こかなって…部長は?」
部長「ちょっとな…いろいろ考えたんだが、いまの私は女性部屋で寝るべきなのか、男性部屋で寝るべきなのかわからんでな」
櫻井「そうですね、いま部長は体が男性ですもんね」
部長「こんなところで悩むことになるとは思わなかった」
櫻井「やっぱり元の姿には戻らないんですか?」
部長「ああ」
櫻井「そうですか…」
部長「まだ迷ってるのか?」
櫻井「はい。戦うべきなのか…それとも…」
部長「戦わないとしたらどうする気なんだ?ずっと逃げ続けるのか?」
櫻井「投降するのが正しいのかなって…」
部長「そうか…そしたら多分お前は殺されるぞ?」
櫻井「それが世の中のためになるなら…」
部長「…お前は偉いな、かわいそうなほどに。まぁ、愚かな私が言えたことではないか…」
そう言うと部長は立ち上がり、どこかに行こうとした。
櫻井「どこに行くんですか?」
部長「トイレだ」
櫻井「そうですか…」
一体男性女性どっちのトイレに入るのだろうか、と疑問に思いつつも、黙って見送った。
櫻井は山荘を出て、一人暗い夜の道を歩いていた。
櫻井「…暗いな、あんまり遠くに行くと迷うな、これは」
マヤ「櫻井先輩」
櫻井「え…マヤちゃん?」
マヤは櫻井の近くの木に登っていた。
櫻井「なにやってるの?」
マヤは木から飛び降り、軽やかに着地した。
マヤ「狩りです」
櫻井「はい?」
マヤ「皆さんが蛇が以外に美味しかったと言っても信じてくれなかったので、実際に捕まえて食べさせようかなと思いまして…」
櫻井「わざわざこんな夜中に?」
マヤ「ヘビはけっこう夜行性ですからね」
櫻井「でもなんで木の上から?」
マヤ「上から見た方が見やすいんです」
櫻井「見えるの?」
マヤ「最近夜目がきくようになったんですよ」
櫻井「適応力高いね」
マヤ「自分でも1、2本ネジぶっ飛んだなって思ってます」
櫻井「…いいな、マヤちゃんは楽しそうで」
マヤ「…先輩も狩りやりますか?」
櫻井「とてもそんな気分じゃないよ」
マヤ「そういうときは、なんかやってないと不安になるだけですよ?。なんでもいいからなにかやって気分を変えるべきです」
櫻井「そう?」
マヤ「はい。私が証明です」
櫻井「………」
そっか、マヤちゃんも不安なんだな…。
櫻井「…いや、俺はいいよ。足引っ張りそうだし」
マヤ「…そうですか。それもそうですね、ヘビ楽しみにしててください」
そう言うとマヤはまたどこかに飛んで行った。
山の夜空はいつも見ているよりものよりも鮮やかに、そして鮮明に光を届けていた。
山の林を抜け、少し小高い丘の上から見るそれは櫻井の知ってるものとは一線を画していた。
佐藤「…土星って、ほんとに輪っかがあるんだ」
櫻井「…佐藤さん」
佐藤「…櫻井。…ごめん、気がつかなかった」
櫻井よりも一足先に丘の上で星を見ていた佐藤は櫻井が近くで話しかけるまで櫻井に気がつかなかった。
佐藤「少し集中してた」
櫻井「そんな魅入ってたんだ。綺麗だもんね」
佐藤「…うん」
櫻井「でも、やっぱり佐藤さんの方が綺麗だよ」
佐藤「…ごめん、櫻井。いまそういう気分になれないの」
櫻井「ねぇ、最近俺のこと避けてない?」
佐藤「………」
櫻井「もしかして…嫌いになった?」
佐藤「…うん」
櫻井「…そっか」
佐藤「だから…もう付き合えない」
櫻井「…わかった。いままでありがとう」
櫻井は理由もなにも聞かずに、去って行った。
佐藤「私も…ありがとう」
そして、ごめんね、嘘ついて。
ほんとに嫌いなのは…。
佐藤「私自身なのに…」
彼女は再び空に目を向ける。
佐藤「…どんなに滲んでても、この星は私よりは綺麗だよ、櫻井」
満点の星空は佐藤には少しぼやけて見えた。
櫻井「…ただ…いま」
山荘に帰って来た櫻井からは正気が感じ取れなかった。
先ほどは佐藤の前で見栄を張っていたのでクールぶっていたが、内心はショックと疑問の嵐であった。
櫻井「なんで…佐藤さん…」
なぜ振られたのか、まるでわからなかった。
櫻井「もしかして…以前一緒に寝た時にイビキがうるさかったとか?。それともなにも手を出そうとしないチキンと思われたから?」
櫻井「それとも、体臭が臭いとか、汚いとか、付き合ってみたらイメージと違ったとか…」
部長「お、櫻井、いいところに来たな」
櫻井「部長…」
部長「お前に電話だ」
櫻井「俺に?」
部長から受話器を受け取り、耳に当てる。
櫻井「もしもし?」
姉「アンドルクリエラルーううううう!!!!!!!!」
櫻井「うるさい、切るよ」
姉「これは私なりの『もしもし』だ」
櫻井「はた迷惑なあいさつだな」
姉「で、あんたまだ生きてんの?」
櫻井「いくら技術が進んだからって、電話じゃまだ霊界とは連絡とれないぞ」
姉「そっか…よかった、生きてて…」
櫻井「姉ちゃん…」
姉「もうほんとビックリしたんだからね!!あんたが急に指名手配されるし、連絡取れなくなるし、警察とかマスコミとか野次馬が家には来るし。もう来客用のお茶すら買えなくて、水道水出してるこっちの身にもなれ!!」
櫻井「そう言われてもな…」
姉「お菓子代わりに山草出してるこっちの気持ちも考えろ!!」
櫻井「それでも丁重にもてなそうとする姉ちゃん素敵だと思うよ」
姉「それで…あんたほんとにテロなんかやったの?」
櫻井「えっと…間違いではない。強要させられてやった」
姉「そっか…まぁ、そんなところだよね…」
櫻井「これ以上はなんと言えばいいのか…」
姉「いや、言わんでいい。だいたい分かる」
櫻井「そういえば、なんでここの連絡先わかったの?」
姉「警視総監の加藤修造って知ってる?。わたしその人と知り合いで、その人から連絡先聞いたの」
櫻井「へぇ…意外なコネだね」
姉「この前ドブで100円拾って喜びの奇声をあげて警官に捕まったときにたまたま知り合って…」
櫻井「ドブの100円がまさかの伏線だったとは…」
姉「それで…これからどうするの?」
櫻井「…わからない」
姉「わからない?」
櫻井「どうすることが正しい選択肢なのか、わかんなくなった」
姉「…ウキクサにとって正しい選択肢ってなに?」
櫻井「え?」
姉「自分自身が良くなることができる選択肢のこと?それとも世の中の大部分の人が選択する選択肢のこと?」
櫻井「うーん…より多くの人が喜ぶ選択肢のことかな」
姉「ふーん…それは難しいな。一見正解がわかっているようなものでも、実際に選択してみないとどうなるかわからないし」
櫻井「そうだね」
姉「だから…自分がやりたい選択肢を選べば?」
櫻井「なんで?」
姉「少なくとも1人は喜ぶと思うから」
櫻井「1人?」
姉「そう、自分自身のこと」
櫻井「………」
姉「自分自身だって多くの人の中の一人だから少なくとも、一人は喜んでくれる…だから好きなようにしなさい。あなたのエゴで動いていいんだよ」
櫻井「俺のやりたいこと…」
姉「そう。きっと一緒に喜んでくれる人はいるよ」
櫻井「一緒に喜んでくれる人…」
姉「自分のエゴで喜んでくれる人がいたら、それは素晴らしいことじゃない?」
櫻井「そう…かもね」
姉「あと、多くの中の一つの願いとして、姉の願いを聞いて欲しい」
姉「正しいか間違ってるかなんてどうでも良い、正義か悪かなんてどっちでもいい…ただ」
櫻井「ただ?」
姉「生きて帰って来て…」
櫻井「………」
姉「あんたまでいなくなったら…私はひとりぼっちになっちゃう…」
櫻井「…うん、わかった、ありがとう」
そういうと櫻井は電話を切った。
姉は公衆電話の中で座り込む。
姉「お願い、ウキクサ…死なないで…」
わたしには、祈るくらいしかできないよ…。
恵「祈るくらいならもっとほかにすべきことがあるでしょう?」
不意に姉が入っていた電話ボックスの扉が開き、恵が入ってゆく、
姉「…めぐみ…なの?」
恵「一緒に来て、茜。あなたにしかできないことがある」
櫻井「自分のやりたいように、か…」
確かに、わかんないもんな、他の人が幸せになれるかなんて。
部長「電話終わったのか?櫻井」
櫻井「はい。あ、部長、背中にゴミついてますよ」
部長「ん?ほんとか?」
櫻井「はい、今取ります」
櫻井は部長の背中に触れたとき、つぶやいた。
櫻井「SEAL」
部長「えっ?」
光が部長を包み、やがて神崎薫が姿を見せた。
部長「な…なんで!?」
櫻井「俺がそうしたかったから!!それだけです」
部長「………」
櫻井「………」
部長「ははっ、ははははは…」
櫻井「どうしました?」
部長「いや、まさかお前がこんな自己中なやつとは思わなかったからな」
櫻井「自己中…まぁ、それもそうだな…」
部長「でも、まぁ…ありがとう、櫻井」
櫻井「はい。…じゃあちょっとまた行ってきます」
部長「お、おう、どこに?」
櫻井「思いを伝えに」
部長「…行ってら」
櫻井「佐藤さん!!」
佐藤「櫻井…どうして戻ってきたの?」
櫻井「俺、あきらめないから!!。絶対にまた好きにさせてみせるから!!」
佐藤「………」
櫻井「だから…そんな悲しい顔しないでほしい」
佐藤「……えっ?」
佐藤はようやく自分が涙を流していることに気付いた。
佐藤「これは…違う…」
櫻井「………」
佐藤「違うから!!」
そう言うと佐藤は走って逃げてしまった。
櫻井「佐藤さん…」
佐藤「わたしだって…一緒にいたいよ」
でも、それは許されないから…。
朝
マヤ「はい、今日の朝食は蛇の丸焼きと酢漬けと日干しです」
テーブルにはいろいろな種類のヘビが並んでいた。
櫻井「…朝から、これ?」
マヤ「アマゾンでは、食の選択権がないんですよ」
櫻井「ここ日本だし」
カトウ「いいから座ってくったらどうだ?。不味くはないぞ」
マヤ「女の子の手作りなんですから、嫌でも美味しいと言ってください」
櫻井「アマゾネスの手作りの間違いでは?」
部長「干物はなかなか美味しいぞ、サッパリしていて」
マヤ「さすが部長、わかってますね」
部長が元の姿に戻っていたことには特に触れないようだ。
櫻井「…とりあえず、食べてみようかな」
マヤ「どうぞどうぞ」
佐藤「…みんなおはよう」
櫻井「おはよう」
マヤ「佐藤先輩、酢漬けにする?丸焼きにする?それとも…ひ、も、の?」
佐藤「じゃあマヤちゃんで」
マヤ「きゃー、もう…佐藤先輩ったら…朝から大胆なんだから…」
佐藤「前から一度、君を食べてみたかった」
マヤ「先輩…」
部長「ほら、とっとと食え。冷めるぞ」
カトウ「どうして止めた!!部長!!」
櫻井「…どうした?カトウ」
カトウ「朝から百合展開なんて…ありがとうございます!!」
櫻井「気持ちはわかるが落ち着け」
カトウ「落ち着いてなんかいられるか!!」
佐藤「意外に美味しいね、ヘビ」
マヤ「さすが佐藤先輩、味のわかる女」
櫻井「………」
櫻井はじっとヘビの丸焼きを見つめていた。
マヤ「ほら、怖くないからどうぞ食べてください」
櫻井「…いただきます」
櫻井はそっと口に含んだ。
櫻井「…悪くないな」
マヤ「…どうして日本の男性人は女性の作るものを素直に美味しいと言えないのか…」
そう、悪くないな…
カトウ「マヤちゃんは新たにアマゾネス属性も加わったのか」
ヘビも…
部長「うん、やはり干物が一番うまいな」
みんなといるこの場所も…
佐藤「うん、美味しいよ」
だから…守りたいと思った。
櫻井「俺…戦うよ」
カトウ「ん?」
櫻井「世の中のためになるとか…正しいとか…どうでもいい」
マヤ「…櫻井先輩」
櫻井「ただ…みんなといるこの場所を守りたいから」
部長「…そうだな」
櫻井「戦うよ…自分のために」
佐藤「…そうだね」
部長「だが櫻井。どうやって守るっていうんだ?。指名手配されてる現状をどうやって覆すつもりだ?」
カトウ「やつらを倒したからって、冤罪が証明されるわけじゃない」
マヤ「どうやって中山の罪を暴くかですよね」
佐藤「まもるんジャーの人気は絶大だからね…半端なことでは世論は動かせないよ」
マヤ「私たちがなにを言おうが、犯罪者の戯言でしかないですもんね」
櫻井「多くの人を信用させる方法…」
部長「ネットで拡散しようにも、すぐにもみ消されるしな…」
そう言うと部長は立ち上がり、玄関の方に向かった。
櫻井「部長?」
部長「ちょっと用事があってな」
山の中
部長「こんなところにテレパシーで呼びたして、どういうつもりだ?」
恵「さぁ?どういうつもりでしょうね」
部長「…要件は?」
恵「まぁ、そう嫌な顔しないでください」
部長「いいから要件を言え」
恵「…これを渡しに来ました」
部長「これは…まもるんジャーブルーの変身用ブレスレット」
恵「あなた方には必要になるものですから…」
部長「…どうしてこれを私に?」
恵「別に誰でもよかったんですよ。それじゃあ私はこれで失礼します」
部長「別に誰でもよかったんなら、妹の佐藤の方がいいだろ」
恵「………」
部長「まぁ、会いにくいか…」
恵「そうだ。あと一つの朗報があります。俊さんと三谷さんは生きてますよ。私はテレパシーができる相手が死んだらわかるので」
部長「そうか…まぁ、そんな予感はしてた」
恵「それでは、私はこれで…」
部長「…櫻井和はどうなったんだ?」
恵はなにも言わずに去って行った。
数日後
アナウンサー「本日はなんと!!あのまもるんジャーレッドの中山卓さんにゲストにしていただいております!!」
中山「どうも、こんにちは」
アナウンサー「驚きですね。いままでメディアには一切顔を出そうとしなかったあなたが、本日はどうして?」
中山「どうしても、国民の皆様にご報告したいことがありまして…ですから、国民の多くの方が視聴しているこの番組に出演したかったのです」
アナウンサー「ご報告したいことですか?」
中山「はい。やはりいつかはこうなると思っておりました」
アナウンサー「こうなるとは?」
中山「…私は、10数年間ずっと、悪将軍と戦ってきました。その間ずっと、国民を不安にさせ続けた。10数年も…。そして先日、ようやくこの国の貪る悪の一人を打ち倒すことができた…。しかしながら…」
ここで中山は急に席を立ち、観客席に向かって演説をするかの様に話し出した。
中山「この国は腐っている!!」
思いもよらないセリフにお客もスタッフも言葉を失った。
中山「恥ずかしいことながら、私は10年も悪将軍を止めることができなかったのだ!!10年も!!。それはなぜか!?。私に力がなかったからか!?違う!!。悪将軍が強かったからか!?否!!。より巨大な悪の根元がその後ろにあったからだ!!」
中山「そう!悪将軍は裏で日本政府と繋がっていたのだ!!。やつらは私欲の限りを尽くすがため、国民を悪将軍に売ったのだ!!。なぜあんなにも大きな組織のアジトがまったく割れなかったのか!?。なぜ悪将軍の正体がいままでばれなかったのか!?。すべては巨大な権力を私利私欲のために振りかざした日本政府が元凶だ!!」
中山「悪将軍など氷山の一角に過ぎぬ!!。私の戦いはまだ終わってなどいない!。しかし…今回ばかりは私一人では敵わない相手。私は命を懸けて悪将軍と戦った。今度は私の人生を懸けて戦う…そのためにもどうか皆様のお力を私に託してほしい。来たる夏の衆議院選挙に私は出馬する。しかし、現代の政治制度では私一人では力が足りない。そこで、私が信頼でき、かつ優秀な人物を集め、新党を結成することにしました。新党の名前は『一振の剣』。私たちは正義の味方のまもるんジャー…どうか悪と戦うべく、力を貸していただきたい」
中山は観客に向かって、深々と頭を下げた。
スタジオに一つの拍手が鳴り響いたかと思うと、次の瞬間には賞賛の荒らが鳴り響いた。
観客はもちろん、スタッフもみな鳴り止むことのない拍手を送った。
カトウ「正義の味方が国家転覆の主導者になるんだと」
部長「まさかこうなるとはな…お国のお偉いさん方はいまごろ慌てふためいてるぞ」
櫻井「なんで?」
カトウ「元々の首謀者である中山政夜はまもるんジャー人気を利用して、政府と結託しながら金稼ぎするつもりだったんだろうな」
部長「しかしそこで思わぬ刺客、中山卓という人物が表れた」
カトウ「あいつはいいとこ取りしてまもるんジャー人気を手に入れたと。政府はそれでも中山卓が結託して金稼ぎすると思ってたんだろうな」
部長「それがまさか裏切ったあげく、全ての罪を押し付けるとは…」
マヤ「でもそれなら、これはチャンスじゃないですか?」
佐藤「チャンス?」
マヤ「つまり中山は日本政府を敵に回したってことですよね?。それなら突きいる隙があると思うんですよ」
カトウ「どうだろうな…確かに前よりは立ち回りにくくなっただろうが…」
部長「すでに手を回しているだろうな」
櫻井「なんにせよ、楽観視はできないってことですね」
カトウ「なんとか俊たちを助け出しても…俺たちがお尋ね者のままじゃ意味がないのに…」
佐藤「多くの人に信用されるように真実を打ち明けなきゃ…」
マヤ「でも、まもるんジャーよりも信用される術ってなにかありますか?」
カトウ「…」
佐藤「…」
部長「…」
櫻井「ないよ」
マヤ「ですよね」
櫻井「どこを探したって、まもるんジャーよりも、正義の味方よりも信用されてるやつなんかいないよ」
カトウ「…」
佐藤「…」
部長「…」
櫻井「でも俺…いいこと思いついたよ」
中山「衆議院選挙の途中経過はどうなってる?」
メイド長「はい。我らの『一振の剣』は今現在、全体の票の3分の2を占めております。また、今後も票の数は増えるかと思われます」
中山「ふむ…なかなか順調な滑り出しだな…」
メイド長「ところでご主人様。あの者たちの処分はどうされるつもりですか?」
メイド長は拘束され、ぐったりとうつむいている俊と三谷を指差した。
中山「やつらをおびき出すための人質として捕らえていた」
メイド長「でもそろそろピグマが切れて死んでしまいますよ?」
中山「それもそうだな…いまから言うことを手配してくれないか?」
メイド長「かしこまりました、ご主人様」
部長「出たぞ、選挙の結果」
マヤ「どうでした?」
部長「一振の剣の圧勝だ」
カトウ「議員のうち、相当数が中山側の人間というわけか…」
部長「まぁ、わかっていたことだがな」
カトウ「2週間後の議会で中山が内閣総理大臣に指名されるのは確実だろうな」
マヤ「いっそその議会に突撃しませんか?」
部長「悪くない手だが…」
カトウ「俊たちがどこにいるかもわからないしな」
そのとき、パソコンの画面にメール受信の知らせが表示された。
部長「ん?メールだ」
佐藤「誰から?」
部長「…中山からだ」
櫻井「え?」
部長「内容は…次の議会のときに、私たち5人に国会議事堂に来いとのことだ。来なかったら俊と三谷を殺すんだと」
櫻井「どういうことだ?」
カトウ「ヒーローショーと残党処理を兼ねてるんだろ」
部長「メディアの前で私たち指名手配犯5人を捕まえて、さらに人気を高める気だろう」
マヤ「さらに邪魔者も消せるってことですね」
佐藤「…こうなったら、やるしかないよ」
部長「そうだな…目にものを見せてやろう」
マヤ「真の主役の力を見せる時ですね」
カトウ「これがおそらく最終決戦だろうな」
櫻井「…行こう、みんな。全てを取り返しに」
2週間後
国会議事堂
司会「…投票の結果を集計しますので、しばらくお待ちください」
中山「………」
メイド長「…来ますかね、彼らは」
中山「来るさ…罠だと知りながらも」
国会議事堂正門
警備員「ふぁぁ…今日も日本は平和だ」
眠そうにあくびをした警備員は正門に近づいてくる5人の人影に気がついた。
警備員「あ…すみません、許可のない人はここは通れ…な…い」
警備員は5人の姿をみて、思わず言葉を失った。
櫻井「すまない、人命がかかっているんだ。通してくれないか?」
警備員「は、はい…ど、どうぞ」
櫻井「ありがとう」
警備員はよく状況が理解できなかったが、緊急事態であることを察して通してくれた。
マヤ「よかったですね、素直に通してくれて」
カトウ「まぁ、この格好なら通してくれるわな」
佐藤「仮に通してくれなくても…無理矢理通るだけ」
部長「さっきのはなかなか様になってたじゃないか、櫻井」
櫻井「なんかテンション上がってきました」
5人は堂々と国会議事堂内を歩く。
警備員「でもまもるんジャーレッドはいま議会にいるはずだよな…」
警備員は混乱したままであった。
先生「おい、いま授業中だぞ。携帯でなに見てるんだ?」
クラスメート「国会の中継です」
先生「そんなの見て楽しいのか?」
クラスメート2「いままもるんジャーレッドが内閣総理大臣になるかもしれないんだぞ、見逃せないだろ」
クラスメート3「ヒーローが国のトップなんて歴史的瞬間だぞ!」
先生「反省文が総理大臣になるなら見るけどさ」
クラスメート4「多分この人が内閣総理大臣になったら日本も変わるね」
クラスメート5「新しく反省文部科学省とかできるかもな」
先生「ならば見守ろうではないか、みんなで」
薄暗い部屋、国会議事堂内の鍵のかけられた一室で力を失った二人はいた。
俊「まだ生きてますか?三谷さん」
三谷「無論だ。妹を残して死ぬわけにはいかない」
俊「心配なんですね、妹さん」
三谷「マヤは生まれつき身体が弱かったんだ」
俊「でも、強くなりましたよね。あなたを超えるほど」
三谷「…そうだな、強くなったな」
俊「心配は要りませんよ。もうじき助けが来ますから…」
三谷「君は随分彼らを信頼してるようだね」
俊「当然ですよ。あの二人が手を組んだら不可能なんてありませんから。だから…二人は絶対に来ます」
三谷「俺の妹が数に含まれてないぞ」
俊「ははっ…すみません」
茜「グルグルが内閣総理大臣か…」
恵「茜はどう思ってるんですか?」
茜「あいつはバカだけど有能だからね…いいと思うわ」
恵「そうですか…。憎くないんですか?」
茜「あいつにもあいつなりの事情があるんでしょ」
恵「弟さんを殺そうしてるのにですか?」
茜「なんとかするわよ、ウキクサなら」
恵「信じてるんですね、弟のこと」
茜「…あいつは弱くて、頭も悪くて、役立たずなカス野郎よ」
恵「姉のセリフじゃないですね」
茜「でも…私がこの話を物語にするなら、主人公はあいつだから」
そういうと茜は立ち上がり、どこかに行こうとした。
恵「もう行くんですね」
茜「うん、恵に会えてよかった。ありがとう、そして…ごめんなさい」
そして茜はその場を後にした。
恵「私こそありがとう、そして…ごめんなさい、茜」
恵は茜の背中に小さく語りかけた。
恵「見てる?和。今まで私たちが犯した罪と証が、同時に形となってこの世に生まれようとしてるよ」
恵「…そうだね。あとは私は見守るだけだね」
恵「え?。私も妹が心配じゃないのかって?」
恵「私があの子を手駒にしたのはただ単に役に立つからじゃないよ。敵に回したくなかっただけだよ。…強いから」
部長「ようやくたどり着いたな」
マヤ「この扉の向こうに、中山がいるんですね」
カトウ「年貢の納め時ってやつだな」
佐藤「…ねぇ、みんな。セリフと決めポーズはどうする?」
部長「そういえば…決めてなかったな」
マヤ「でも、その場の雰囲気でなんとかなりますよ」
櫻井「アドリブか…」
カトウ「お前こういうの苦手だよな」
櫻井「はっ?俺の実力見せてやるし」
部長「頼むぞ、櫻井。お前が要なんだからな」
マヤ「最後くらいいいところ見せてくださいよ、幼女強姦犯先輩」
カトウ「お前に託したぞ、櫻井」
佐藤「…頑張って」
櫻井「…よし、みんな、行くぞ!!」
司会「投票の結果、中山卓君を第85代内閣総理大臣に指名するとする」
議会は拍手に包まれ、中山は立ち上がり、周りに軽く会釈をした。
この瞬間、事実上、中山卓はこの国の頂点に立つことになったのだ。
中山はマイクの前に立ち、演説を始めようとしたその時、轟音とともに議会の扉が勢いよく開かれる。
全ての注目が扉へと集まった。
そして…そこにいた人物が喋り出す。
櫻井「誰かの願いがみんなの願いであらんことを!!まもるんジャーレッド!!」
部長「投げ捨てる!切り捨てる!かなぐり捨てる!全てはたった一つの愛のために!まもるんジャーブルー!!」
マヤ「筋力、知力、権力、財力。でも欲しいのは壁を越える意力!まもるんジャーイエロー」
佐藤「身を捧げ、命を懸け、魂を削り、うち滅ぼすは世界の敵!まもるんジャーピンク!!」
カトウ「守り、受け継ぎ、道を開く!光さす未来への一歩のため!まもるんジャーグリーン!!」
櫻井「我ら、5人そろって…」
櫻井 佐藤 マヤ カトウ 部長「まもるんジャーファイブ!!」




