誰かが欠けた日常
Write83
佐藤「おはよう」
櫻井が目覚めると、目の前には佐藤がいて、そっと手を握っていた。
櫻井「…おはよう」
佐藤は無表情ながらも、少しほおを緩めて見せた。
ようやく求めていたものを取り戻した、そう実感した櫻井は安堵と安らぎに包まれていた。
櫻井「ところで、ずっと手を握ってたの?」
佐藤「櫻井に触れてないとまた声が聞こえるから…ごめん」
櫻井「ごめんって…別にいいよ、彼女なんだし」
佐藤「…いまさら彼女面なんでできない」
櫻井「佐藤さん…」
佐藤「わたし…またバカなことやっちゃったんだな…」
佐藤はどこか遠くを見つめながら言った。
櫻井「俺は佐藤さんを取り戻すためにここまで戦ったんだ。だからどんなにやられようとも俺の思いは変わらない」
佐藤「…ありがとう」
たぶん、この時からだと思う。
この時、佐藤さんは密かにある決心をしていたんだ。
でもそれに、俺は気が付けなかった。
気が付いていれば、きっと…
櫻井「そうだ、みんなは?」
カトウ「それはいまから説明する」
櫻井「なんだカトウ、そこにいたのか」
カトウ「黙れリア充、爆発しろ」
櫻井「で、みんなは?」
カトウ「まず…マヤちゃんが行方不明だ」
櫻井「行方不明?」
カトウ「三谷の瞬間移動でどこかに飛ばされたらしい」
櫻井「なんだって?」
カトウ「シスコンの三谷のことだ。マヤちゃんはどこでかはわからないが生きてるだろう」
櫻井「…そうだな、三谷さんが守ってくれてるよな」
カトウ「そして…部長が裏切った」
櫻井「はあ?」
カトウ「おそらく俊を人質にされたと思われる」
櫻井「待てよ…部長が?あの部長がか?」
カトウ「もともと部長は殺された俊の敵討ちのために戦ってきたんだ。その俊が生きてて、しかも敵として現れた。いままで冷静に見えてたのはいま思えば、いずれこうするつもりだったのかもしれないな」
櫻井「…でも、佐藤さんを操っていたテレパシーの能力の発動条件は確かその人の涙を見ることだったよな?。部長がいつ、そんなところを見られたの?」
カトウ「以前、部長がさらわれた時があったよな?。おそらくその時だ」
櫻井「………」
カトウ「…ちょうどいま、神崎さんが帰ってきたところだ。これからどうするかみんなで話し合おう」
櫻井「…部長、それにマヤちゃんも…」
佐藤「………」
カトウ「自分からさらわれるわ、普通にさらわれるわ、裏切ってさらわれるわ…まったく、とんだお姫様だな」
神崎「………」
工藤「………」
カトウ「さてと…いっつも部長が仕切ってたからな。とりあえず今日は俺が仕切らせてもらうわ。まずは戦況について。今回の戦いでマヤちゃんが行方不明、部長が寝返った。そして、佐藤を取り戻した」
櫻井「これで相手の数は和、恵、俊、三谷の4人」
カトウ「いや、おそらくだが、部長も加わる」
櫻井「え?」
カトウ「部長は適合者である神崎さんの娘だ。だから適合者の素質を持ってる」
櫻井「あの部長が敵に…」
カトウ「やりずらいったらありゃしない」
工藤「それで、今後どうするんだ?」
カトウ「正直言って、あの敵のアジトが無くなったいま、奴らを探し出すのは至難の技だ。奴らが行動を起こすのを待つしかねえ」
工藤「そうか…」
カトウ「それでだ。今後のためにみんなの意思を聞かせて欲しい」
櫻井「意思?」
カトウ「そう。一緒に戦ってくれるかどうかだ。もちろん俺は戦う」
神崎「私も戦う。娘を取り戻すためにも」
工藤「先日まで敵として戦ってきたが、それでも信用してくれるなら一緒に戦おう」
櫻井「俺だってもちろん…」
カトウ「いや、お前はもうここで引け」
櫻井「え?」
カトウ「もう佐藤は取り戻したんだ、お前の目的は達成しただろ」
櫻井「何言ってんだ!?。俺だって部長を助けたい!!。マヤちゃんを助けたい!!」
カトウ「じゃあ…佐藤は誰が守るんだ!?」
櫻井「え?」
カトウ「お前は佐藤のそばにいてやれ。お前じゃなきゃ佐藤は守れない」
櫻井「………」
佐藤「ごめん…櫻井」
櫻井「…でも、3人で戦えるのか?あのゼロに勝てるのか?。しかも中毒者は3人もいるんだぞ?」
神崎「それは私に任せてくれ」
櫻井「いくら神崎さんでも…」
神崎「いいから任せてくれ。今度は…命を賭して戦うから」
神崎の強い威圧に櫻井は口を挟むことができなかった。
その後、神崎は席を立ち上がるとどこかに行ってしまった。
カトウ「お前はよくやった。だからもう、俺たちに任せてお前は日常に帰れ」
櫻井「………」
カトウ「佐藤を守ってくれ。二人は俺が取り戻す」
櫻井「………」
カトウ「じゃあ、今日はもう解散としよう。それはそうと…お前たちこれからどうすんの?」
櫻井「え?。どうするって?」
カトウ「だから…佐藤はお前に触れてないと操られるかもしれないんだろ?。だったからもう一緒に暮らすしかなくね?」
櫻井「一緒に暮らす?」
カトウ「うん」
櫻井「一緒に?」
佐藤「…ごめんね」
櫻井「えっと…ラブコメみたいな展開ですね」
櫻井の家
櫻井「…ただいま」
佐藤「…おじゃまします」
櫻井「………」
佐藤「………」
どういうことだ?
おかしい。この小説でさんざん主人公やってきたが、こんな美味しい展開なんて見たことないぞ。
きっとひねくれた作者のことだ、これにもなにかオチがあるはず…
佐藤「櫻井」
櫻井「な、なに?佐藤さん」
佐藤「その…いきなりで悪いんだけど…お風呂入りたい。もう何日も入ってなくて…」
櫻井「あ、お風呂ね、わかった。いま沸かすから」
佐藤「それで…私一人じゃダメだから…櫻井も一緒に…」
櫻井「………」
83話目にしてようやく俺は気がついた。
これ、ラブコメだったんだな。
お風呂
佐藤「…櫻井」
櫻井「な、なに?」
佐藤「本当にそれで大丈夫?」
櫻井「大丈夫、なにも見えてないから大丈夫だよ」
佐藤「そうじゃなくて…目隠しなんてして危なくない?」
櫻井「全然大丈夫!」
佐藤「櫻井が嫌じゃないなら…それ取ってもいいから」
櫻井「大丈夫、問題ない」
佐藤「…そんなに嫌?私の裸見るの」
櫻井「い、いや、そういうわけじゃなくて…」
佐藤「………」
櫻井「…やっぱり嫌かな」
佐藤「…そっか」
櫻井「なんていうか…もっとちゃんと見たいんだ。少なくとも、こんな形で見るのは嫌なんだ」
佐藤「…そっか、ありがと」
彼女の声が枯れていた。
佐藤「…ごめんね」
その代わりに、瞳が濡れているのがわかった。
佐藤「私のせいで…ごめんね」
見なくても、泣いているのがわかった。
佐藤「私なんか、私なんか…」
ただ強く手を握りしめることしかできなかった。
大切な人の涙を、止めることができなかった。
弱いな、俺は。
まだなにも終わってなんかないんだな。
姉「やあやあやあ!!お風呂中失礼するよ!!弟よ!!。姉が来てやったぞ!」
櫻井「………」
佐藤「………」
姉「………」
姉「失礼つかまつる」
意味不明な言葉を残して姉は去って行った。
姉「ごめんなさい。まさか弟が風呂リア充してるとは思ってもなくて…」
櫻井「風呂リア充以前に、風呂くらいノックしろよ」
姉「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ほんと無能な姉でごめんなさい」
櫻井「姉ちゃん?」
姉「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ほんと一人でさみしかったんです。お邪魔しないので今日だけでも家においてください。お願いします」
櫻井「いいけどさ…」
姉「ほんと邪魔しませんから。部屋とか入りませんから、押入れでいいからおいて下さい」
櫻井「姉ちゃん、卑屈過ぎるよ」
佐藤「えっと…お邪魔してます」
姉「お邪魔だなんてとんでもない!!。むしろお邪魔はどう考えてもクズで卑しい私です」
佐藤「そう卑下にならずに…」
櫻井「で、姉ちゃんなんで来たの?」
姉「なんとなくです」
櫻井「帰る?」
姉「ごめんなさい、ほんとはなんかすごく寂しくなったんです。一人にしないでください」
櫻井「姉ちゃんもそろそろいいとしなんだからさ、寂しさを紛らわせてくれる男の一人や二人作ったらどうなの?」
姉「高校生に諭されるアラサーの姉」
櫻井「俺は真面目に言ってんだよ。っていうかさ、姉ちゃん彼氏いたことあんの?。弟の俺も見たことないんだけど」
姉「さ、さすがに、な、なくはないわよ!!」
櫻井「そうなんだ。その人はどうしたの?」
姉「振られた。茜が必要としてるのは俺じゃないでしょ、とか言われて」
櫻井「姉ちゃん…どんだけ和のこと引きずってるんだよ」
姉「はっはっはっ、私ってば純情、死にたい」
櫻井「まだ和のこと好きなの?」
姉「…わかんないけど、ただ、ふとした瞬間に会いたくなる」
櫻井「………」
佐藤「………」
姉「ははっ、なに話してんだろね、私」
櫻井「姉ちゃん…」
姉「聞かなかったことにして。じゃなきゃ、あいつと戦いにくいでしょ?」
櫻井「…わかってたんだ」
姉「私を誰だと思ってる」
櫻井「安心して、俺はもう戦わないから…」
佐藤「………」
姉「そっか…ほんとにそれでいいの?」
櫻井「………」
翌朝になって姉ちゃんは出て行った。
書き置きで避妊だけはしとけよとか書いてあった。
ほんとそういうのやめてほしい。
ちなみにだが、寝るときは手をつないで寝てたとさ。
リア充シーンはカット安定。
櫻井「そこ結構大事な場面だと思うのだが」
学校
カトウ「ようお二人さん。朝から熱いね」
櫻井「お前までからかうのやめろ」
佐藤「………」
カトウ「で、昨日はお楽しみでしたね」
櫻井「…SEAL」
するとカトウは力を無くしたかのように転倒した。
カトウ「お前、ただの冗談だろうが。遊び半分でSEALするのやめろ」
以前マヤちゃんに脊髄を破壊されたカトウはピグマの能力によって立ちあるいているので、そのピグマを封印されると立てないのだ。
カトウ「っていうか、お前いま俺に触れずにSEALしなかったか?」
櫻井「ああ。この前のでコツをつかんでな、ある程度なら遠距離からできるようになった」
カトウ「そっか…」
櫻井「それよりもお前、部長がいなくたなったってわりに落ち着いてるな」
カトウ「まぁな、部長は一番信頼できるやつだし、心配はいらん。まぁ、信用はしてないがな」
櫻井「?」
クラスメート「カトウが朝から跪いてる」
クラスメート2「いつものことだろ」
クラスメート3「それよか問題は櫻井と佐藤だろ」
クラスメート4「だな。朝から手を繋いでイチャついてやがる」
クラスメート5「爆発すればいいのに」
先生「朝の反省文の時間だ。みんな座れ」
クラスメート6「よっしゃ、今日も朝から反省文書きますか」
クラスメート7「今日こそ反省の神が降りてきそう」
クラスメート8「最近1日8回は懺悔しないと寝れないんだよね」
クラスメート9「わかる〜、ウチもそうやわ」
櫻井(このクラスが反省文に染まりつつあるが気にしたら負けだろう)
先生「ん?どうした?佐藤も席に戻れ。席に戻らん悪い子には反省文を書かせないぞ」
櫻井(そういえば工藤さんが佐藤さんの姿で登校してたから佐藤さんは久しぶりの学校でもみんなはそうじゃないからな)
佐藤「…先生、席を櫻井の隣に移させてください」
先生「は?」
佐藤「それができないのなら授業をサボります、櫻井とともに」
クラスメート10「授業中も離れたくないってか?」
クラスメート11「リア充淘汰されろ」
先生「まぁ、いいぞ、別に」
クラスメート12「え?。じゃ、じゃあ僕も席を彼女の隣に移していいですか?」
クラスメート13「モブキャラのくせに彼女なんかいるわけないだろ!!見栄をはるのもいい加減にしろ!!」
クラスメート14「くそ、リア充になるにはまずモブの壁を越えなければならないのか…」
クラスメート15「モブ超えの道は長く険しいな」
昼休み
枝加「佐藤さぁぁぁん!!。あなたの王子がやって来ましたよ!!」
櫻井「…うるさいのが来たな」
枝加「こんな汚らわしいゴミのそばより、僕と一緒にお昼を食べませんか?」
佐藤「…君、だれ?」
枝加「え?」
櫻井(そういえば…いままで枝加が関わってきたのって全部偽佐藤さんだったな)
枝加「ぼ、僕ですよ、枝加です」
佐藤「えっと…」
佐藤はちらりと櫻井の方を見て助けを求める。
カトウ「まぁまぁ、リア充を邪魔するのは野暮ってもんだ。ここは俺と一緒に飯を食うので我慢してくれ」
枝加「えー、男二人で飯食べてなにが楽しいんですか。せめて部長も誘いましょうよ。マヤは今日お休みだったので」
カトウ「残念ながら部長も今日は休みだ。食堂のプリン奢ってやるから我慢しろ」
枝加「たまには男二人ってのもいいですね」
櫻井「お前の手のひら軽そうだな」
枝加「佐藤さん、今度気が向いたら一緒に食べましょうね」
佐藤「えっと…ありがと」
枝加「食堂のプリンってことはもちろんプレミアム高級プリンですねよ?」
カトウ「馬鹿野郎。ミルクプリンで我慢しろ」
二人は食堂へと向かった。
佐藤「結局、さっきの人ってだれ?」
櫻井「あいつはショッカーをやってる枝加だ。あいつに協力してもらって敵のアジトとか探ったりしてたんだ。あとあいつは佐藤さんに惚れてる」
佐藤「そっか。…私なんかに惚れるなんて…バカな人」
櫻井「佐藤さん?」
佐藤「ごめん、なんでもない。ご飯食べよっか」
先生「はい、じゃあ今日の授業は終了だ。家に帰ったらうがい手洗い反省文を忘れないように」
クラスメート一同「イエッサー!!」
櫻井「どうだった?久しぶりの学校は」
佐藤「平和だね、相変わらず」
櫻井「帰ろっか」
佐藤「うん」
佐藤「櫻井」
櫻井「なに?」
佐藤「私って、弱いね」
櫻井「…そうかな。佐藤さんが弱かったら俺なんで軟弱にもほどがあるレベルだと思うけど」
佐藤「ううん。櫻井は強いよ。何度も私を助けてくれた。でも私は…」
櫻井「佐藤がいるから俺も頑張れる、強くなれるんだ。だから…自分を役立たずだなんて思わないで」
佐藤「…うん、ありがとう」
でも、いつまでも守られてちゃダメだよね。
あれからなんの進展のないまま、2週間が過ぎた。
相変わらず学校は平和だったが、僕たちは待つことを強いられていた。
ただ…
枝加「佐藤さぁぁぁん!!今日もゴミ捨て場で食事ですか?。それじゃあダメですよ。ゴミが見えないもっと綺麗な場所でご飯食べませんか?」
こいつは毎日うるさかった。
カトウ「はいはい、お前はこっちな」
ここのところ、カトウは俺たちに妙に気を使ってるように思えた。
俺たちリア充を邪魔するような輩が現れたとき、さりげなくそいつを遠ざけようとしていた。
いつもならそいつらを引っ張ってリア充を邪魔するような存在のくせに。
なんか…その気遣いが気持ち悪かった。
カトウ「結局なにしても気持ち悪いんだな、オレは」
佐藤「………」
佐藤さんとの共同生活は続いていたが、どういうわけかそういう空気ではなかったし、これといって発展もなかった。
ヘタレとか言うな。
でも…ほんとにこのままでいいのか?。
食堂
枝加「今日こそはプレミアムプリン奢ってもらいますよ」
カトウ「お前な…あれいくらすると思ってるんだよ、プリンのくせにチャーシューメンとおんなじ値段なんだぞ」
枝加「まぁまぁ、そう言わずに。だって、もしかしたら今日が先輩に奢ってもらうの最後かもしんないんですよ」
カトウ「………」
枝加「………」
カトウ「おばちゃん、プレミアムプリン一つ」
おばちゃん「まいど」
枝加「ありがとうございます」
おばちゃん「プレミアムプリンお待たせ」
おばちゃんがそう言うと、丼にドンと乗ったプリンが現れた。
枝加「デカ…食い切れるかな」
カトウ「食えよ、全部」
枝加「うぃっす」
カトウ「で、明日なのか?」
枝加「はい、明日です」
カトウ「そっか…」
枝加「プリンうまいっす」
カトウ「たとえ相手が部長でも…やるしかないよな」
枝加「なんか言いました?」
カトウ「なんでもない。明日生きてたら好きなもん奢ってやるよ」
枝加「あざーす、じゃあ寿司でお願いします」
カトウ「回るやつな」
恵「これがあなたのスーツです」
部長「………」
恵「妹が抜けたのでその穴埋めをしてください。大丈夫ですよ、あなたはもう立派な能力者です」
部長「わかった」
恵「頭のいいあなたなら、多くのことを言わずとも分かるでしょう。ではこれで」
部長「…わかってるさ」
今度は引き金を引く、たとえ相手が誰であろうと。




