悪の手先A
211という数字と爆弾付きのリストバンド。
それが僕に与えられた枷。
昔、ヒーロー憧れた僕はいま、不本意にも悪のスーツに身をまとい、正義の味方と対峙する。
これは、悪を強いられた僕らが悪と…そして正義をぶち壊す物語である。
10年前、突如東京に現れた悪将軍と呼ばれる仮面の男が率いる謎の破壊集団、ショッカー
彼らは全員全身タイツと覆面という奇怪な見た目で正体を隠し、大規模に大胆な破壊行動、拉致、殺人を繰り返した。
規模が大きいうえに正体がわからない、しかも全員が超人的運動能力を有していたため、警察ではたちうちできず、市民を巻き込まないために、大規模な軍の出動はできなかった。
そこで政府は対ショッカー用の少数精鋭部隊、まもるんジャーを出動させた。
ショッカーの超人的運動能力をはるかに超越する運動能力を有していたまもるんジャーは次々とショッカーたちの陰謀を阻止した。
しかしショッカーの情報セキゥリティーは堅く、ショッカーの首謀者、目的、拠点が割れることはなく、ショッカー壊滅に至る事はなかった。
そしてそのまま時は10年の月日が流れ、いつしか定期的に起きるショッカーのテロが当たり前になって来たある日の午後…
先生「ここ、テストに出るから覚えとけよ」
教室にはいつもの数学の授業の風景が広がっていた。
授業の内容はよくわからないし、天気もよくてポカポカしていて眠るのに絶好の機会であったため、櫻井は机に突っ伏しながら眠っていた。
先生「ここまででなにかわからないことがあるやついるか?」
櫻井が寝ているのを差し置いて、先生がクラス全体を見渡すように尋ねると櫻井の隣の席の男子生徒、加藤が手を挙げた。
加藤「先生、一ヶ所、どうしてもわからないことがあります」
先生「なんだ?加藤」
加藤「先生、どうして僕には彼女ができないんでしょうか?」
先生「…心配するな。お前ならそのうち…来世には彼女ができてるさ」
加藤「先生、冗談でも来世は言い過ぎだと思います」
先生「それもそうだな、すまない。来々世にはできてるさ」
加藤「先生、言い過ぎのベクトルが僕が思うそれと真逆です」
先生「と、まぁこのようにベクトルには方向の概念があるんだ。テストまでによく理解しておくように」
加藤「先生、なんか上手い感じにまとめないでください」
そのとき、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。
先生「じゃあ、授業終了だ。それと加藤の隣でさりげなく寝てる櫻井、お前は罰として後で反省文を提出するように」
先生はその言葉を残して教室から出て行った。
加藤「反省文だとさ、残念だったな、櫻井」
櫻井「…加藤、代わりに反省文書いてくれないか?」
加藤「いやに決まってるだろ。なんで櫻井の代わりに書かなくちゃいけないんだよ?」
櫻井「お前知らないのか?反省文書けるやつは女子からモテるんだぞ?」
加藤「マジで?じゃあ書くわ」
櫻井「…チョロいな」
加藤「なんか言ったか?」
櫻井「いや、なんでもない。ただ単に反省文を100枚書くとな、反省文から伝説の龍が現れて彼女をくれるらしいって言っただけだ」
加藤「え!?じゃあ100枚書くごとに彼女が一人ずつ増えるの!?」
櫻井「そんなの当たり前だろ。さらに10000枚書くとな、反省文から伝説の龍が現れて、そいつが彼女になってくれるんだぞ?」
加藤「いや…さすがに嘘だよね?」
櫻井「本当のことだって、みんな言ってたぞ。…ソースは2chだが」
加藤「気力の限りを尽くして書かせていただきます!!」
櫻井「それでよろしい。お前というパシr…友を持てて私は幸せだよ」
加藤「それは俺のセリフだ、櫻井。それじゃあ早速部室に行って反省文を書こうじゃないか」
二人が部室に入ると、そこには二人の女子生徒がいた。
櫻井「あ、部長、こんにちは」
櫻井はそのうちの椅子に腰掛け、パソコンのキーボードをものすごい速さで操作する女子生徒に話しかけた。
部長「ああ、櫻井。…なんだ、加藤も一緒か」
加藤「なぁ、部長。俺すごいこと聞いたんだぜ」
部長「どうした?」
加藤「反省文を10000枚書くとな、反省文から伝説の龍が現れて彼女になってくれるんだってさ!!」
部長「………」
部長は一瞬、汚物と害虫を足して2をかけた物体を見る目で加藤を見た。
しかし、その後、櫻井の顔を見て状況を察したのか、何食わぬ顔で返事を返した。
部長「なんだ、そんなことも知らなかったのか?。最近婚活ならぬ、文活(反省文活動)で婚約にいたる人が増えているんだぞ?」
加藤「…いや、さすがにそれは嘘でしょ?」
あまりに都合が良過ぎてさすがの加藤も疑いを隠せなかった。
部長「なら、これを見てみろ」
部長は1、2分パソコンをいじると画面を加藤に見せた。
そこには『文活キャンペーン!!君も反省文で理想の相手と出会おう!!』とデカデカと書かれているホームページがあった。
加藤「おぉ!?。本当だったんだな!!。俄然やる気出てきた!!」
そう言うと加藤は一心不乱に反省文を書き始めた。
櫻井「…部長、そのホームページは?」
部長「さっき自分で作った」
櫻井「あの1、2分でゼロから作ったんですか?」
部長「いや、出会い系サイトをハッキングして少し編集していじっただけさ」
櫻井「部長、それはアウトです」
部長「安心しろ、この私がハッキングの痕跡を残すわけがないだろ」
櫻井「犯罪うんぬん以前に倫理に反します」
部長「それはさておき…最初から部室にいたんだからそろそろ一言くらいなんか喋ったらどうだ?佐藤」
部長は部室に最初からいたもう一人の女子生徒、佐藤に話しかけた。
佐藤「………」
しかし、佐藤はなにも言わずに首を横に振るだけであった。
櫻井「どうしてなにも話さないの?佐藤さん」
佐藤「…だって…私…無口な人……っていう設定だし」
櫻井「設定とか言っちゃダメだよ」
佐藤「それに…話に参加する人が少ない方がスムーズに話が進むし…」
櫻井「…なんの話をしてるの?」
佐藤「スムーズにテンポ良く話が進まないと…読者も退屈しちゃうし…」
櫻井「ねえ、そういう話はしちゃダメだよ?」
部長「そうだぞ、今は話のテンポよりも読者に登場人物をよく知ってもらうことの方が重要だぞ」
櫻井「いや、もうそうじゃなくて…」
部長「そういうわけで、読者に佐藤をより知ってもらうためにも、佐藤の好きなタイプについて聞いてみようじゃないか」
櫻井「なんでそういう話になるんですか?」
佐藤「私の好きなタイプ…ダメ人間かな…」
櫻井「ダメ人間って…それはまた悪趣味な…」
佐藤「私は…ダメ人間が好き…櫻井みたいな」
櫻井「まさか自分が該当者だとは!!。というかなにこれ?喜べばいいの?泣けばいいの?」
部長「泣いて喜べばいい」
櫻井「というか、なんで加藤を差し置いて俺がダメ人間なの?」
佐藤「加藤嫌い…苗字被るから…」
櫻井「カトウとサトウ…確かに紛らわしいけど…」
佐藤「私…カブるのは嫌いなの…」
加藤「ん?なんか言ったかい?」
反省文に熱中していた加藤にはよく聞こえなかったようだ。
櫻井「いや、哀れな加藤に早く彼女出来ればいいなっていう話」
加藤「心配するな。いま反省文は98枚目に突入したからもうすぐできる」
櫻井「え?なにその速さ?キモッ…」
部長「その才能をもっと別のことに生かせたらな…」
加藤「よっしゃあ!!100枚書けたぜ!!。これをどうすれば彼女が出来るんだ?」
部長「それはな…市役所に提出すればいい」
櫻井「なんで市役所?」
加藤「市役所か…わかったぜ!!。ほかになんか提出するものあるか?」
佐藤「…婚約届けも一緒に出さなきゃダメ」
櫻井「なんで婚約届け?」
加藤「ふっ、こんなこともあろうかと俺は婚約届けを常備してるから大丈夫だぜ?」
櫻井「なんで常備?」
加藤「だって、いつこの妻の欄に名前を書く人が現れるかわかんねえだろ?」
櫻井「あぁ、うん、そうだね、来世には現れるもんね」
加藤「それじゃあ…俺はそろそろ非リアだった昨日までとオサラバしてくるぜ」
櫻井「部長、そろそろいい加減に加藤に本当のこと言いませんか?」
部長「真実を知らない方が加藤にとっては幸せなのさ。というか、単純に面白そうだから止めるな」
櫻井「いや、そんな理由で市役所に反省文提出しに行く加藤の身にもなってやってくださいよ」
部長「止めるのは構わんが、私の楽しみを奪う罪はデカいぞ?。例えばお前のデータベースにハッキングしてお前の前科に幼女強姦の罪を付け加えるくらいの罰があるぞ?」
櫻井「よし!行ってこい!加藤」
佐藤「…見事な掌返し。…さすがはわたしの見込んだダメ人間」
加藤「ありがとう、みんな…行ってくるよ」
そして、加藤は市役所に去って行った。
佐藤「…その後、彼の姿を見たものはいなかった」
櫻井「なんで死亡フラグたてたの?」
部長「そういえば櫻井、お前今日は部活来れないって言ってなかったっけ?」
櫻井「…あ!そういえば今日は新しいバイト探さないといけないんだった!」
佐藤「バイト?」
櫻井「ちょっとお金が欲しくて…」
部長「櫻井は一人暮らしだよな?。仕送りだけじゃあなんとかできないのか?」
櫻井「厳しいんですよね。今月はもうお金なくて三食白米生活決定ですし…」
部長「それは死活問題だな」
櫻井「そういうわけで、ちょっと本屋に行って求人雑誌でも漁ってきます」
佐藤「…スマホで調べたら?」
櫻井「携帯代がかさむからあんまり携帯で調べたくないんです」
部長「世知辛ないな」
櫻井「そういうわけで、近くのb○○k ○ffにでも行こうと思ってます」
部長「伏字があまり意味を成してないのだが…。まぁ、バイト探し頑張れ」
櫻井「はい、行ってきます」
部室の扉を開け、外に出ようとした櫻井は振り返り、行ってきますと言った。
そんな当たり前でいつもの光景がやけに目に焼き付いた。
それは茜色の西日が妙に綺麗にうつっていたからなのか、それとも…。
その理由ははっきりとはしないが、ただ一つだけ言えることがある。
それは…
佐藤「…その後、彼の姿を見たものはいなかったということだ」
櫻井「ねえ、なんでもないところで変なフラグ建てるのやめない?」
店員「おかえりなさいませ、ご主人様!!」
近くのb○○k ○ffに立ち寄った櫻井は妙に甲高い声でそう出迎えられた。
櫻井「…あ、あれ?。ここって本屋だよね?メイド喫茶とかじゃないよね?」
店員「すみません、いつもの癖でつい言ってしまいました」
店員は先ほどの明るい甲高い声とは違い、落ち着いた声でそう答えた。
櫻井「以前メイド喫茶にでも勤めてたんですか?」
店員「えぇ、そんなところです…」
櫻井「それはそうと、求人雑誌って置いてますか?」
店員「求人雑誌ですか?。それでしたらこちらにあります」
店員の案内に従い、櫻井は店員について行った。
やがてあるコーナーで店員は一つの雑誌を手に取り、それを櫻井に差し出した。
店員「こちらがメグみょんオススメの求人雑誌、『はたらかバイト』です」
櫻井「…メグみょん?」
店員「すみません、メイド時代の名残です」
櫻井「で、その雑誌がメグみょんのオススメなの?」
メグみょん(店員)「はい!!メグみょんもそれのおかげで立派なメイドになれました!!」
メグみょんと名乗った店員はまたも甲高い声でそう答えた。
櫻井「…急にどうしたんですか?」
メグみょん「すみません、メグみょんと呼ばれるとどうも昔の血が騒いで…」
櫻井「職業病ってやつですね。とにかく案内してくれてありがとう、メグみょん」
メグみょん「ご主人様もアルバイト頑張って!!」
店内に甲高い声が響いた。
櫻井「さて、メグみょんみたいに職業病にならないような無難なバイト探したいな」
櫻井はメグみょんに勧められた求人雑誌を開いた。
『時給1000円、高校生不可』
『時給1200円、条件、大学生以上』
『時給1100円、18歳以上(高校生不可)』
櫻井「高校生には厳しい世の中だな」
櫻井の目に入ったものは高校生には無理なものが多かった。
『時給550円、高校生も募集してます』
『時給400円、高校生大歓迎』
『時給350円、高校生おk』
櫻井「…高校生に対する格差激しくないか?」
『時給80円、高校生でもいいよ』
櫻井「高校生なめるな!」
『時給4500円、いっしょに運ぼう!白い粉(年齢問わず)』
櫻井「求人雑誌で募集するな!」
『時給10000円、僕の妹になってください!やましい気持ちは一切ありませ
ん』
櫻井「うそつけ!やましさが時給に現れてるだろ!」
それからしばらく雑誌に目を通したが、櫻井が納得いくようなバイトは見つからなかった。
この求人雑誌に良いのは載ってなさそうだな、と櫻井が思い始めたそのとき、櫻井はある一つのバイトが目に付いた。
『時給3000円(日払い)、とりあえず面接に来てね!高校生も来てね!』
櫻井「時給3000円で日払い…」
それは高額時給のバイトであった。
高校生でも可能な数少ない高額時給のバイトであったが、仕事の内容が全く載っていなかった。
しかし、面接場所は3駅隣りの近場、そして面接時間はいまから2時間後であった。、
正直言って怪しさ満載ではあったが、櫻井はこのアルバイトに心惹かれた。
櫻井が少し迷っていると、携帯の着信音がポケットから鳴り響いた。
櫻井が携帯を取り出すと、着信相手は市役所に反省文を提出しに行った加藤であった。
櫻井「もしもし、どうした?加藤」
櫻井は携帯の着信ボタンをタップして通話を始めた。
加藤『反省文を提出するために市役所でお前達に言われた通りに婚約届けを出しても受付の人が受け取ってくれないんだけど?』
櫻井「ところでさ、オレ今いいバイト探してるんだよね」
加藤『無視すんな、三食ふりかけご飯生活野郎』
櫻井「お前ふりかけなんて贅沢品食えると思ったら大間違いだぞ!?」
加藤『…いいバイト見つけろよ』
櫻井「でさ、お前さ、高校生でもできる時給3000円のバイトってなんだと思
う?」
櫻井は求人雑誌に載っていたバイトについて加藤に聞いてみた。
加藤『…白い粉運ぶとかじゃね?』
櫻井「それは時給4500円だった」
加藤『…今日本の将来の終わりを見たな』
櫻井「ショッカーとか居るしな」
加藤『まぁな。そういえば最近出てきてないからそろそろかもな』
櫻井「またかよ…あいつら死ねばいいのに」
加藤『嫌いだからって死ねとかいうな、お前らしくない』
櫻井「ああ、そだな」
加藤『で、話戻すけど時給3000円はやっぱ危ないだろ』
櫻井「いや、でもテレビで墓洗いのバイトが時給3000円って見た事あるよ」
加藤『それはお持ち帰りするタイプだな』
櫻井「でも、お金ないと俺が死んじゃう」
加藤『…とりあえず面接だけでも行ったらどうだ?」
櫻井「でもな~危ないやつだったらどうしよ」
加藤『逃げりゃあいいじゃん、そんときは』
櫻井「まぁ……そうだな。逃げれんかったらお前殴ってあげるよ」
メグみょん「ご主人様!!。店内ではお静かにお願いします」
櫻井が店内でそんなことを話していると、店員であるメグみょんに注意を受けた。
櫻井「ごめん、メグみょん。外で話すよ」
メグみょん「さすがご主人様!話が早くて助かるにゃ」
加藤『…お前今メイド喫茶にでも居んの?』
通話越しにメグみょんの甲高い声が聞こえたのか、加藤は櫻井にそんなことを聞いてきた。
櫻井「勘違いするな!。本屋だ!本屋!」
加藤『…本屋にメイドはいないだろ』
櫻井「俺も10分前までそれが世の常識だと思ってた」
外に出た櫻井に加藤は先ほどの質問を繰り返した。
加藤『でさ、受付の人が婚約届け受け取ってくれない』
櫻井「なんでだ?」
加藤『妻のところが白紙だから無効になると言われた』
櫻井「受付の人にうめてもらえ」
加藤『お前…天才か!?』
櫻井「いや、なんて言うか…お前が愚かなだけだと思う」
加藤『よし、そうと決まったら早速プロポーズしてくるわ!。お互い頑張ろうぜ!』
櫻井「おう、達者でな」
加藤『そういえばもう一つ聞きたいことが…』
そのとき、突然通話が切れた。
どうやら携帯充電きれたようだ。
櫻井は通話を諦めて、店内に戻るとメグみょんに会った。
メグみょん「おかえりなさいませ!ご主人様!。…あ、電話終わったんですか?」
櫻井「すみません、店内でうるさくしちゃって」
メグみょん「次から気をつけてくださいね、いいバイト見つかったんですか?」
櫻井「はい、多分、だからこれ買います」
メグみょん「『はたらかバイト』が1点で370円になります!」
櫻井は会計をすべくサイフを取り出したが、サイフの中には100円玉が2枚とTポイントカードしか入っていなかった。
櫻井「………」
メグみょん「どうかしましたか?」
サイフの中を見て固まる櫻井にメグみょんは問いただした。
メグみょん「もしかして…お金ないんですか?」
櫻井「違います、人生を新たにスタートするために170円足りないだけです」
メグみょん「ようするにお金ないんですね?」
櫻井「100人中99人はそう言います、それでも僕は人の荒波に飲まれない人
間になりたい!」
メグみょん「…頭大丈夫ですか?」
なぜか頑なにお金が足りないことを認めない櫻井をメグみょんは心配してか、そんなことを櫻井に聞いた。
櫻井「精神病院行ってきます!。あっ、200円じゃ診察もできないや…。ははははは…」
メグみょん「…ほんとはこういうことはいけないんですけど…特別に」
やけに悲しそうに笑う櫻井を思ってか、メグみょんは自分のサイフを取り出し、170円を取り出した。
櫻井「どうしたの?メグみょん」
メグみょん「勘違いしちゃダメ!ご主人様。この170円はいつかメグみょんに返
してね♡」
櫻井にメグみょんと呼ばれたメグみょんはまたまた甲高い声でそう言った。
櫻井「…メグみょん」
メグみょん「面接頑張ってね、ご主人様♡」
赤の他人であるにも関わらずお金を貸してくれるメグみょんに櫻井は思わず涙を流しそうになってしまった。
そして櫻井はお礼の前にもう一つ言わなければならないことを思い出した。
櫻井「…交通費も貸して」
メグみょん「…いいですけど、いくら?」
櫻井「120円」
メグみょん「どうぞ」
メグみょんはなんのためらいもなく櫻井にさらに120円を貸してくれた。
櫻井「ありがとう、バイトがんばってね、メグみょん!」
メグみょん「面接がんにゃってくだにゃいね、櫻井様♡」
お礼を言った櫻井に対して、よくわからない猫っぽい言葉でメグみょんはエールを返してくれた。
b○○k ○ffを後にした櫻井はある建物の前に来ていた。
櫻井「ここが面接会場だな…」
面接時間の10分前に到着した櫻井は建物の前で一つ深呼吸をした。
そして、扉を開けて中に入った。
中は少し薄暗く、そしてあまり人の気配がなかった。
櫻井「…すみません!!どなたかいらっしゃいませんか!?」
建物内に櫻井の声が響いたが、返事はなかった。
櫻井「…もしかして場所間違えたかな」
櫻井がそんなことを考えていると、一人の女性が建物の奥から現れた。
女性「どうかしましたか?」
櫻井「あ、アルバイトの面接を受けに来た者なんですが…」
女性「アルバイト?」
女性は首をかしげるような仕草を見せた。
櫻井「えっと…この雑誌に載ってたんですけど…」
櫻井は女性にメグみょんから勧められた求人雑誌を見せた。
女性は櫻井から求人雑誌を受け取り、その内容を見てあることを言った。
女性「あ、この場所でしたら、ここではなくて隣りの建物のですよ」
櫻井「あ、すみません。失礼しました」
女性から求人雑誌を返してもらった櫻井は謝罪し、建物を出ようとした。
女性「でもちょうど良かったです、いま人数が足りなくて困ってたんですよね」
櫻井「はい?」
櫻井は女性から呼び止められて、立ち止まった。
すると突然、櫻井の後頭部を強烈な痛みが襲った。
あまりにも突然の出来事に、櫻井は殴られたことに気がつくことなく、その場に倒れた。
女性「さて、あまり時間もないし、さっさと準備しないと…」
そう言うと女性は櫻井を引きずりながら建物内に消えていった。
徐々に景色が虚ろになっていく中、櫻井が最後に見たのは一本の注射器を手に持つ女性の姿であった。
気が付いたら、僕は見知らぬ薄暗い部屋にいた。
正確にいうと部屋ではない。
車の走行音と振動から察するにここはおそらくトラックの積荷の中なのだろう。
よく周りを見渡すと他にも何人か人がいるのがわかった。
しかも全員、どういうわけか同じリストバンドを腕につけ、見覚えのある覆面と黒い全身タイツに身を包んでいた。
しかもその覆面にはどれも数字が書かれていた。
櫻井は記憶を辿っていまの現状を把握しようとしたが、バイトの面接に行こうとした時までの記憶はハッキリしているが、それ以降はよく覚えていなかった。
櫻井「…ここどこだ?」
加藤「その声…もしかして櫻井か?」
櫻井「…加藤か?」
声の主は確かに加藤であったが、彼もどういうわけか210と描かれた覆面と全身タイツに身を包んでいた。
櫻井「その格好なんだよ?。それじゃあまるで…ショッカーみたいじゃないか…」
加藤「そう言うお前も、自分の格好を見てみろよ」
加藤に言われた通り、櫻井は自分の姿を見ると同じように211と書かれた覆面と黒い全身タイツを着ていた。
櫻井「…なんだよ、これ。気色悪い!!」
櫻井が慌ててタイツを脱ごうとすると、10と書かれた覆面とタイツを着た一人の男がこちらに近づいて来た。
男「脱いじゃダメだ!!死にたいのか!?」
櫻井「えっ?」
突然怒鳴られた櫻井は思わず動きが止まってしまった。
男「君たち…どうやら今日が初めてなようだね。だったら僕がいろいろ教えてあげるよ」
櫻井「…あなたは?」
男「本名は名乗れないけど、僕のことはイチマルと呼んでくれ。それで、まず僕らの腕に取り付けられたリストバンドには爆薬が組み込まれているんだ」
加藤「爆薬?」
イチマル「うん。この覆面をとって正体が他の人にバレてしまったり、自分の正体をバラしたり、またそれに関する情報を話すと爆発する仕組みになってるんだ」
櫻井「ど、どうして?」
イチマル「情報の漏洩を防ぐためさ。まぁ、仲間の人になら話してもいいし、正体がバレても爆発しないけど。でもそれだけじゃない、他にも命令に逆らったりしたら爆発するようにも仕組まれてるんだ」
櫻井「命令って…誰の命令?」
イチマル「決まってるだろ、悪将軍の命令さ」
櫻井「…一体どういうことなんですか!?。僕たちはなにをさせられるんですか!?」
加藤「櫻井、落ち着け。…もうわかってるんだろ?」
イチマル「僕たちはショッカーだ。この爆弾が腕についている限り、僕たちはショッカーを…悪の手先を強いられているんだ」
櫻井「そんな…」
そんなの…嫌だ。
ショッカーになるだなんて…絶対に嫌だ。
このまま悪の手先に成り下がるぐらいなら…僕は…僕は…。
櫻井「…死んだ方が…マシだ」
櫻井は小さく、誰にも聞こえないような声で、ボツリとそう呟いた。
櫻井は考えもしなかっただろう、自分がこんなことに巻き込まれることなど。
もしこのとき、櫻井が場所を間違えていなければ…。
もし櫻井がメグみょんに出会っていなければ…。
もしバイトを探していたのが今日でなければ…。
全ては偶然の積み重ねがもたらした結果…。
いや、違う。
これは誰かによって仕組まれたシナリオで、どうなろうがいずれ僕は巻き込まれる運命だったのだろう。
誰かが描いたこのふざけたシナリオをぶち壊すために。