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Postscript

 ──ここまで書いて、俺はペンを置く。中途半端に止めた文章は、やはりその先を書くのは躊躇われた。

 俺は書きためた便箋をじっくりと見直す。伝えるために書いた文字は連なって、手紙の体裁を装っていた。少し気取った書き方をしてしまったが、あいつは本が好きだから。きっと、許してくれる気がした。

 便箋を封筒に入れて立ち上がる。何の風情もない茶封筒だが、キザな飾りは必要ない。こいつは別にラブレターなんかじゃない。気持ちはもう、伝えてあるのだから。

 時間を確認する。どうやら、随分と書くのに手間取ってしまったようだ。玄関の扉を開くと、雪はもう溶けかけていた。謝罪旅行には相応しくない晴天だった。

 俺は手紙に綴じた記憶を握りしめ、溶けた水溜まりを踏みしめる。中途半端に終えた文章の先は必要ない。もう、文字でなくてもいい。記憶の中にあれば、それでいい。


 もうすぐ、春が来る。

 その次には夏。

 その次は、まだ経験していない季節。


 吐き出した息は白く染まって、またすぐに風に吹かれては、風景の色に染まっていった。

 この先の記憶は白くない。

 きっとどこまでも透明で、何にだって染まっていく。何にだって染められる。

 そんな、確信めいた予感。


 鍵を閉めて、俺は一人歩き出す。

 そして、これからは二人で。

 出発を予定していた時間より遅れたが――もう、遅くはない。


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