僕と幼なじみの関係
僕は朝七時に起きた。いや、起こされたと言ったほうが正解だ。この場合は。
まだ覚醒しきっていない頭で目の前にいる幼なじみを見る。可愛いというよりは、美人と言えると思う。成績優秀、性格もよく男女分け隔てなく接するために学校では人気が高い。
おかげで勘違いして玉砕した男子は数しれず。まあ、僕も勘違いしている男子の一人なのだが。
そんな彼女は僕が起きたのを確認すると「おはよう」と笑顔で言ってきた。
僕もおはようと答える。
まだ眠い。二度寝しようかな。
「二度寝はだめよ。はい起きて起きて」
なぜわかったし。
「それはあなたの幼なじみですから」
またココロ読まれた。恐るべし幼なじみ。
「いや、ふつーに声にだしてるよ。
まあいいよ。はやく起きてきてね」
そういうと僕の布団を無理矢理引き剥がした。
いやん。とか言ってやろうかと思ったけど止めといた。睨むし。
「はいこれ。はやく降りてきてね」
幼なじみは制服を僕に押しつけると下へ降りていった。
今日もいつも通りに朝食が用意されていることだろう。
ベットに名残惜しさを感じつつ、僕は幼なじみが待っている一階へ降りていった。
一階へ降りるともう既に朝食が用意されていた。
いすに座っていただきますと言って食べはじめる。幼なじみは対面側に座っている。
ここで幼なじみが聞くことは決まっている。
「数学と英語の課題はやった?」
「英語の予習は?」
から始まり、はては「ハンカチティッシュはもった?」
あなたは僕のお母さんですか? と聞きたくなるときもあるけど、世話をしてもらっている身なのだ。感謝しこそすれ、文句など言えるはずもない。
しかし、彼女はなぜこんなにも僕を世話してくれるのだろうか。と毎回思う。成績だって中の下。容姿も決していいとは言えない。これといって特徴のない、平凡な男だ。
最近、その疑問が日に日に強くなってきたから、何回か聞いたことがある。
「なぜ毎日来てくれるの」
そういうと彼女は必ずこう答える。
「幼なじみだからよ。だいたい私がいないともっと堕落しちゃうでしょ」
と。理由になっているようでなってない。でも、それ以上踏み込んで聞くのも怖くて、結局はそのままだ。
しばらく朝食をたべながら他愛もない話をしていたら、ふとカレンダーが目に入った。再来週は彼女の誕生日だ。
「誕生日にって言うのもいいかもしれないな」
「なにがいいって?」
彼女が僕の顔を覗いてくる。毎日見ているはずなのに、見とれてしまいそうになる。
「いや、なんでもない」
不甲斐ない僕に必要なのは、切っ掛けなのだ。別にクリスマスでもバレンタインでもなんでもいい。たしかに、このまま毎朝彼女が起こしに来てくれて、一緒に学校へいき、一緒に帰る。そんな毎日がずっと続いてほしい。
でもそれは、幼なじみという不安定なものだ。
僕は彼女と供にいることができるたしかな理由が欲しいのだ。僕が彼女に不釣り合いだとしても。
たとえ幼なじみとの関係が壊れるとしても、一歩進んでみようかなと思う。
「こちそうさま。今日も美味しかったよ」
「お粗末さま。まあ私が作ったから当たり前よね」
そういいながらも彼女は嬉しそうに笑う。僕はその笑顔がたまらなくすきだ。
諸々の準備を終え、学校に行く時間となった。
「ちょっと遅くなっちゃったね。少し急ごうか」
「うんそうだね、ってうお!」
いきなり彼女は僕の手を握って走り始めた。
他意はなくても手を握られるだけで僕の心臓は激しく脈打つ。
彼女はいまどんな顔をしているのだろうか。生憎、前を向いていて見ることは出来ない。
耳が赤いのは寒さのせいかなとぼんやり思った。