くもつ格差
向かいの席に座る、佐川の机には一本の栄養ドリンクが置かれている。
おそらく千円以上する高価なものだ。
しかし、佐川は風邪を引いたときも、残業が続いた時も栄養ドリンクを飲まなかった。
俺が佐川の向かいに座ってから1年近くになるが、栄養ドリンクは佐川のパソコンの右隣、いつも同じ場所に置かれていた。
何故飲まないのかと、理由を訪ねると
「限界が来た時のために、とってあるんです」
佐川は笑いながらそう答えた。
年末から新年を過ぎても、残業は続いていた。
毎日終電やタクシーで帰る日々。
さすがに、辛い。
佐川は風邪をひいて体調が悪い中残業が続き、俺よりもさらに辛そうだった。
「もう、封印を解きます」
そう言って、佐川は栄養ドリンクを一気に飲み干した。
~ 開封後1日目 ~
同僚達は、佐川の机に栄養ドリンクがないことに気付きはじめた。
佐川が栄養ドリンクを飲んだ。
ついに封印を解いた。
佐川が本気になった。
佐川様がお怒りだ!
そんな噂が職場を駆け巡った。
~ 開封後2日目 ~
出勤すると、佐川の机には飲み干したはずの栄養ドリンクが置かれていた。
「あれ?買ってきたの?」
「いや、出勤したら置かれていたんです。差し入れかな?」
佐川様へのお供えものだろうか。
~ 開封後3日目 ~
出勤すると、佐川の机には栄養ドリンクが3本置かれていた。
「なんか増えてないか?」
「昨日、貰っちゃいまして。高宮さんにも、1本あげますよ」
これが人徳というものなのだろうか。
~ 開封後4日目 ~
出勤すると、佐川の机に栄養ドリンクのタワーが出来ていた。
まるで東京スカイツリーのようだ。
「こんなに貰ったの?」
「いや、それが出勤したら増えてて…」
なぜ、佐川だけ?
俺も残業しているのに?!
そう思い自分の机を見渡すと、チロルチョコが一つ置かれていた。