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アイシャ  作者: 萌葱
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あの騒ぎの翌日の夕方。

 ルーニアが話したという内容をを聞いた後、部屋に戻った私に、起きたら私の部屋に来てくださいねと言われてたので、クロエの研究室へ向かった

「遅い、いつまで寝てるんだお前は」

 部屋に入った途端シラーに不機嫌に声をかけられて少し驚く

「だから、アイシャはどうせこの時間になりますよと言ったのに…聞かなかったのは貴方でしょう」

「いや、良い、シラーも居たのか…悪かった、クロエだけだと思ったからのんびりしすぎたかも知れない」

 庇おうとするクロエを止めて、そう言ってシラーを見ると、何だか更に不機嫌そうな顔になってけれど、それ以上文句も言わず黙ってしまった。

 いつもはこんな時は、ズラズラと言葉が出てくるのに…と、不思議に思っていると

「アイシャ、そこに座って下さい、少し今後の話をしなければ」

 そう言って、いつもの席を指差していつものお茶を差し出してくれるから

「すまない」

 椅子に座ってお茶を受け取った。


「まず、話をする前に知っていて頂きたい事があるのですが…」

 そう言って、私の中にいる彼女についてクロエが話したことは、今から相談しようと思っていることは私の中の彼女の話であること、そして多分これからしようとする会話は彼女には筒抜けであること。

 けれども、私が睡眠も足りた万全の状態であれば意識を奪われることは無く、そして、もし無理に彼女を私から引き離そうとするには、何かの力を極限まで私に注ぎ込んだら可能性があるけれど、その場合ルーニアの意識が消えてしまうか、私から飛び出るかはわからない…


 クロエがそう言い終わった途端、私の胸が少し怯えるように震えるのと同時に、シラーが私の髪を掴んで光を注ごうとした

「やめろ!」

 止めたけれど、聞かずに注がれ続ける力に、無理に手を引き剥がしてクロエの後ろに走りこんだ。

「何故止める?やってみれば良いじゃないか」

 苛立たしげにこちらを見るシラーが妙に怖くて、自分の中にルーニアが居ることを強く感じる

「その方法も使うこともあるかも知れない、けれど最終手段だ、迷惑を掛けていることは謝るけれど、私の意思を無視して彼女を消したりするのはやめて欲しい」

 そう言うと、シラーは無言でさっきまで座っていた椅子に戻って座った。

 ちらりともこちらを見ないで座っている姿に、怒っているのを感じて

「シラー・・巻き込んだの悪かったが、そもそもパートナーがよく分からない事態になったからって、お前まで巻き込まれないでいいんだぞ?」

 そういうと

「もういい、黙れ、今回の件は俺が出席させた夜会で起こったことだし、お前の中からその妙な女を一刻も早く抜く手伝いならやってやる、だから話を始めろ」

 クロエにも同じ事を言おうとして顔を向けると

「まさか、関わらないでよいとか言わないですよね?」

 そうにっこりと笑われて、世話を掛けると頭を下げた。


「つまり、アイシャはルーニアを無理やり出すことは取り敢えずは、しないのですね」

 そう重ねてクロエに言われて、頷く

「私の言動が不安定になるのはありがたくないが、無理やり追い出されて消えるかも知れないというのも目覚めが悪い、それに…]

 彼女と同調してから感じるようになった胸の痛み、誰かを求めてやまない気持ち…今まで感じたことのない種類の強い感情、それは消してしまっていいものだとは思えなくて…。

 そんな事を何とか伝えようと口に出すのだけれど、伝え方が下手なのだろうか…?

 シラーはどんどん不機嫌になるし、クロエは顔は笑顔なのに空気がどんどん冷えていくのが判って…。

「アイシャ、伝えようとすればするほど逆効果というのもあるのですよ、気持ちは判りました、では、次はどうやってカイを探すか…ですね」

 クロエに言葉を切られて、次の話題へと移ったのだった。


「まずは・・遺跡だろうな、お前が目覚めた部屋、あそこは当時カイが研究に使っていた部屋らしい、ルーニアが言うには、毎日あそこでカイは調べ物や研究をしていて、ある日を境に姿を消してしまったそうだ、遺跡の精霊であるルーニアはあの周囲から離れることはできなくて、誰もいない遺跡に一人で彷徨うのにも飽きて彼女曰くにずっと眠っていたらしい、それが、ここ数日カイの気配を感じて目覚めたらしいのだが…」

「そもそも、遺跡の精霊ってそんなものは聞いたことがないのだが…そもそもあの遺跡はどういうものなんだ?」

「あの遺跡は、謎が多いのですよ、だから国が管理しているとも言われてますし…

それに、古すぎてあそこの文字や彫刻の神々も現在とは違うものですからね」

 そんなに古いのか…そう呟くと

 ちょっと困ったようにクロエも頷いている。

「あの部屋…本とかもあったし、カイの部屋だというなら手がかりくらいはあるだろう?まずはあそこか」

「そうなんですけどねぇ…」

 クロエは私の方を困ったように見る。

 そういえば、私よりもずっと知恵の回る二人がそんな事に気が付かないわけがなくて不思議に思って居ると

「昨日あれから、二人で行ってみたんだ…でも、扉が開かないし他の入り口もわからん…かと言って壊すのも躊躇われれたんだ」

「そんな事って…、あぁ…もしかしてカイの血に反応しているのかそんなロックが有ると昔村の師匠に聞いたような…」

 そう言うと、クロエはよく知ってますねと、少し驚いたようにこちらを見る。

「クライスに声をかけたのですけれど、出かけているとかで見当たらなくて……戻ったようですね…」

「部屋になにか仕掛けたのか?」

 術士であるクロエには時々こういうことがある。

 剣術士で有る私には、魔力は他からの補給で術を使うしか無いのでよく分からない感覚なのだが、術士にとっては自分の魔力というのは他人の魔力とは同じ系統であっても違うものと認識が出来て、しかもそれを自分の感覚の一部として残すことも可能だという。

けれど、通常の人の五感とは違うもので…等と昔解説をしてくれたけれど私にはよく分からなくて

兎も角、クロエがクライスが部屋に戻れば気がつく何かをしたのだということが判れば十分だったので、行こうといって椅子を立つ。


「やっぱ、アイシャも行きますか……」

 困ったようにクロエにが言う

「当然、これは私の問題だ」

「クライスの側に行くと自分がおかしくなるという自覚はあるのか?」

 そうシラーに睨まれる

「し・・しっかりしていれば大丈夫なんだろ?それに実害はない」

「実害はある」

 そう返されて驚いた

「何だ?」 

「俺の気に障る」

「多少、らしくない私は気持ち悪いだろうが、いっそ放っておいても怒らないから…クライスには多少迷惑だろうが、まぁ、私だって一応女だし多少貼り付くくらいは我慢できるだろう?」

ため息をつきつつそう言うと、クロエが怖いほどの笑顔で

「させませんよ、そんな事…一緒にいくのは我慢しますが、あれに近寄るのはやめてくださいね?」

 妙に冷たい空気を出しつつ言う迫力に押され、てこくこくと頷くことしか出来なかった。


「会いたかったよ、アイシャちゃん! 僕が居ない間寂しくなかった?」

 シラーとクロエと共に、クライスの部屋に訪れての第一声に頭が痛くなったけれど、睡眠も足りで体力も万全な今は私の中のルーニアの感情に引きずられることはなくて、少しほっとする。

「寂しくはなかったが、色々迷惑かけてすまない、迷惑ついでにちょっと付き合って欲しいのだが」

 邪魔者が居るようだけれど、アイシャちゃんが頼むなら良いよとすんなり部屋を出てきてくれたのは正直助かった。

「遺跡、見たいんでしょう?」

 そう言われて少し驚いてクライスを見ると

「昨日の今日だし?流石にそれ以上の用事無いでしょう、あの扉何だか僕に反応していたみたいだし…」

 思わず

「そう軽い頭でもなかったんだな…」

 呟いたら妙に色っぽい目で

「そんな事を言う口は塞いじゃうよ?」

 と言われて、慌ててシラーの後ろへ逃げた。

 普段の私ならばこれくらいのことは、どうにでも躱せるのだけど、私の中に彼女がいるとどうも調子がおかしく、そもそもクライスを色っぽいなどと思ったことがなかったので、少し驚いてしまった。

「だから、俺から離れるな・・・」

 そう言って、自分の背中でクライスを塞ぐシラーに、こうやって背中で守られるのも初めてだと思いながら遺跡へと向かった。


 遺跡について先日出てきた出口に近寄ると、案の定ゴトンと音がして扉が開き、奥の階段を降りる。

 真っ暗だったけれど、シラーが所々に光球を飛ばしてくれるので危なげなく階段を降りることが出来る…

「こんな風に光を使うんだ…」

驚くクライスに、シラーはお前のパートナーはやらないのか?と言うと

「とんでもない、僕の相方なんて極力出し惜しみしているよ?光は神聖なものだとか何とか言って…、でも不思議だな、あの夜はもっと明るかったのに…」」

「確かに…どこからかは判らないけど薄く明かりが差していたのが不思議だった、シラーが居て助かったが、私も他の光の術師がこんな風に光の玉を明かり代わりにしているのは余り見たことがないな」

 今まで仕事で組んできた相手を思い浮かべてそう言うと

「力に貴賎なんて無いのに、馬鹿な奴らが多くて困る…着いたぞ?」

 そう言って、階段の突き当たり、ゴトンといってもう一回空いたドアに思いっきり光球を飛ばしていた。

「出し惜しみして怪我する方が馬鹿らしい、ここに剣術士のくせに鈍くさいのも居ることだしな…」

そう言って、仕事の時以外では良く足元にあるものに引っかかっる私を横目で見る

「うわぁ…甘やかされてるねぇ……」

クライスはそんな風に言いながら、私を見たけれど、普段のシラーを知る私にはとてもそうは思えなかった。


埃の積もる室内で、手がかりを見てまわる

と…床に落ちている小さなブローチが目に入り手に取る

無造作に拾うと指先にチクっとした感触があって…

くらりっと目眩がし…て……

「アイシャ!」

「どうしました!?」

そのまま私は気を失ってしまった……。

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