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「昨日、お前が居ない事に気がついて、慌てて館と庭を探しまわって、クロエがバルコニーにある靴を見つけたから、恐らくそこから飛び降りたのだろうと判断して庭を探して、お前のつけていたスカーフに縛られた男を発見したんだ…、意識を取り戻させたけれど、何があったかを言おうとしなかった、クロエが術と薬で吐かせたから何があったかは判ったけれど、庭中探してもお前は居ないし……全く…生きた心地がしなかった…」
そう言って、苦しそうにこちらを見るシラーに、予想以上に心配をかけてしまったと申し訳無く思う
「少し時間はかかりましたが、あの男が庭で女性を見つけてよからぬことを企んで、貴方に阻止されたのは判ったのですけれど、それ以降の足取りがつかめなくて…、、警備のものはこの施設からは出ていないというし、庭はもう見て回ったので、シラーと手分けをしてあの遺跡を探していました…、本当に見つかって良かった…」
こちらも疲れたような顔をして、それでも微笑むクロエの姿にいたたまれない気持ちになる。
私たちも昨日あったことを話し、それも終わった所で
「で? アイシャの中にいるお前は、何なんだ?」
クロエが私を見つけたときに、私の気ともシラーの気とも違う感じたことのない質の気が、私にまとわりついているのを感じたらしく、先程から感じる私らしくない動きや感情はそれのせいではないかと言われほっとした…。
クライスは
「なんだ、やっと僕の魅力に気がついたんだと思ったのに…つまらない」
などと言っていたが、冗談ではない。
けれど、今でも気を抜くと、クライスに近寄ろうとしたり見つめてしまうのが我ながら落ち着かなくて、自分の心ではないと知ってはいても、微笑まれるとドキドキして触れると甘く胸が痛む。
そして、その度に怒ったようなシラーに腕を掴まれるのと、静かに冷たい空気を放つクロエにどうしたら良いか判らず困ってしまっていた。
「どうやら、アイシャが気を抜くと支配されるようですね、抵抗はありますが、話ができるようなら聞いてみるしかありません、アイシャ…私がおかしな事はさせませんから、術を使って少し貴方の意識を下げてもいいですか?」
そう言われて、疲れはてていた私は、頼むと言って意識を手放した。
「はぁ、やっとしゃべれるのね、この子意思強くって! こんなに入りやすいのに」
私が力を抜いた途端、別人のように嬉しげに私は話だしたらしい
それによると、私に取り付く気はルーニア。
あの神殿に棲み着く意志を持つもの、そんな話は聞いたこともないと首をかしげるシラーに、100年ほど前に出会ったカイという人間と離れてから、ずっと眠りについていたと悲しげに言ったそうだ。
けれど、カイの気配を感じて目が覚めて、探し回っていたらしく、そこで私にに出会った
「昔は、私みたいな存在を受け入れられる子は、多くはなかったけれど、確かに居たのに、最近は全く見かけなくて、人に聞くこともできない、けれどこの子は凄いわ、何の苦もなくするりと入れたの!」
そう嬉しげに言うルーニアに、なぜかと聞いたら、クライスを見て
「昔は彼みたいな資質を持つ人間は私たちも受け入れてくれたのだけど、何か殆どの回線が閉じているのよね…、でも、あの子は何でも受け入れてくれるような感じで!」
つまり、私が常日頃光以外の気を受け入れていることが原因だったらしいと知った
「それで? 何でお前がいるとコイツがおかしくなるんだ?」
そうシラーが睨むと
「だって、この人カイと同じ気配がするの、クライスっていうのね?あの人も使っていた名前……きっとあの人とつながりがある人なのね」
そう言って、愛おしげにクライスを見つめ
「では、その方のそばに居ることにして、アイシャから出てくれませんか?」
にっこり笑う、クロエと
「えぇ?…」
引きつった顔で、クロエを見るクライス
けれど、ルーニアはにっこり笑って
「でも、もっとカイの強い気配を感じたの! 見つけてくれるまで私は離れないから!」
そう宣言したと…意識が戻った私に彼らは話してくれたのだった。
ちなみに、私が意識を失ったのはルーニアに乗っ取られたせいだったけれど、クライスは薬の匂いがあるとクロエが気が付き、彼の指先に小さな傷があるのを見つけた。
恐らくあの小部屋に仕掛けられた罠の一種ではないかと言うことで、謎は深まる一方だった…。