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いつもならばここで一歩踏み込み懐に入り下から喉元を狙う。
なのに、何故だか、その一歩を踏み出すことを心の何処がが嫌がり…そういう時は私は素直に心の動きに体を任せる。
踏み込むと見せかけて、一瞬の前傾姿勢の後後方へと飛びすさる、すると対峙している相手、マルクから離れた刹那、私の右側、マルクの左手から細い鞭のようなものが直前まで私のいた場所に襲いかかった。
「な…っ」
捉えたとばかり思っていた私が、そこに捉えられていないのに驚く隙を突いて、今度こそ本当に懐に潜り込み、先を潰した剣で喉元をちょんと突付いて…。
「そこまで!」
「何処で分かった?…絶対捉えたと思った」
不思議そうに私を見るのは、さっきまで剣を合わせていたマルク。
禿頭の大男でありながら、その瞳は意外とつぶらで、悔しがりつつも私を見る目は優しい。
このスクォーラは仕事を受けつつも師について学ぶこの期間のみ、自分の仕上げを頼む師匠をある程度選ぶことが出来る。
そこで、その師匠のもと、自分を磨き師と自分の間で一人前だとなれば漸く卒業することが出来る。
私が選んだのはマルティン師。
一見あまり強くは見えないが、その飄々をした姿の奥の決してぶれない強靭さに惹かれて私は先生を自分の師と選んだ。
私の初等部の時の師もマルティン師で、村の師匠を知る故か、一風変わった私の剣術を最初に受け入れ認めてくれたのも師匠だった。
そんな懐の深さのせいか、彼を師とするグループはこのスクォーラでは変わった人間が多く、普段はあまり集団を好まず、剣を合わせることと酒が大好きという…なんとも優雅とは程遠い一軍が出来上がっていた。
けれど、だからこそ、剣術士にしては珍しく女である上に、違う属性も受け入れるという私のような存在も受け入れてくれていて、今日のような腕試しにも女としてでなく、一人の剣術士としてのの枠を用意してくれている此処が私はとても気にって居た。
「ん…、何か嫌な予感がしたんだ、そういう時は深追いしないことにしている」
「ちぇ~、やっぱ勘がいいよなぁ…マルク相手ならああいう罠を警戒しないと思ったのに」
話ながら控えの席に戻る私に話しかけてきたのはサズ。
剣術士でありながら私よりも小柄な体に、小動物のような小作りな顔、癖のない肩まで有る栗色の髪の毛、一見少女とも見紛う今年マルティン先生の弟子となった彼は、その体格に応じて筋力はあまり強くない。
けれど、その分対象を観察する目と弱点を見抜く能力、そしてそれを罠にかける小物作りに優れれていて…。
「やっぱ、お前か、マルクらしくないと思った」
私達の打ち合いは、基本的に訓練的性格の強いもので、魔変した生物が獲物である私たちは、しばしばあり得ない動きをする元は動物だったものを相手とする。
だから、即死系の小道具(毒針や毒矢)などといったもの以外は、かなり変則的な武器の使用も認められており、先ほどマルクが使った鞭のようなものも、どうやら獣の尻尾を模した拘束具のように見えた。
「だって~、僕の相手はみんな絶対なんかあるって思っちゃうでしょ? それじゃ訓練にならないじゃない?」
ね? 等と言いながら小首をかしげて私を見るけれど
「とかいうが、結局お前の武器に翻弄される人間を見たいだけだろ? 残念だったな」
そう言うと
「ちがうよ~、アイシャが油断して変なのに捕まったら嫌だから、油断しないでねって~」
そんな事を言いながら頬をふくらませている。
此処までおつきあい頂いてありがとうございます。
切り処に迷い少し短くなってしまいました。
続きの見直し、早めに頑張ります。
でも、見直しをしていると続きが書けなくて…、中々兼ね合いが難しいです。
アイシャの溜めていた分がだいぶ無くなって来たのと、少し忙しくなるので、以前書いて完結している作品を毎日一話ずつ連載することにしました。
そちらをupしながら、見直しと続きを頑張って行こうと思っております。
宜しければそちらも目を通して頂けると嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します