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アイシャ  作者: 萌葱
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「……何があったんだ」

そうして、シラーにエスコートされ、以前何度か祝い事に呼ばれたこともある集会場の扉を開いて、呟く私に

「良かったですね」

「もう、遅すぎるのよヤキモキしたわ」

「おめでとう~」

 声がかかるのを、なんとか頷いて、けれど、以前の私の知る集会場とは明らかに違う様子に呆然と室内をぐるりと見回してしまう。

 真新しい壁紙に、屋根裏がむき出しだった天井はフワフワとした毛皮のようなものが貼られており、豪華な燭台のその先には、蝋燭の代わりに幾つもの光球が揺れていて、広さは有ったもの古い板張りだった床には毛足の詰まった絨毯が敷き詰められている。

 部屋にはむせ返るような花の香り…、それもそうだろう、子供の背丈はあろうかという大きな花瓶にはふんだんに花がいけられており、それが幾つも壁際に並べられていた。

「内部の改築でも有ったのか?」

 側に居た厨房の親父さんにそう聞くと

「桁違いだな、アイシャの友人は…」

 そう言って話してくれたことは……。


 私が声を掛けた人間が順に祝いの品物の相談に居住棟に訪れて、会場を見るなりシラーは改築を言い出すも時間がないと却下されると、せめて内装の改造をと言い出し、その話し合いの最中に顔を出したローラはシラーを止めるどころか、板の敷き直しは時間的に無理だけど、ちょうどいいものがと言い、あの敷物の提供を申し出たという。

 普段はそんなローラのストッパーであるはずのアシュレイは、我が家に良い燭台がありますね…などと呟いたらしく…当日は医術関係の患者がいてそこに訪れられなかったというクロエは、やはり此処に来るなり花と花瓶は私が準備しますので、絶対他の方のは受け取らないでくださいねと、あの美貌で微笑んで担当者の魂を軽く飛ばしたという…。

「それ以外にも、見たことないような高級菓子が届いているし、アイシャの好きなカスク含めて酒も凄いことになっている…うちのかみさんは、安心したといって涙ぐんでたが……」

 疲れたように苦笑いする親父さんに

「すまない」

 頭を下げると

「いや、良いんだよ、ここもこんな綺麗にしてもらって、うちの連中も喜んでいる

それに、今日のアイシャはえらい別嬪だし、料理はうちの連中が腕を振るったものだ、なんだかものすごい身分の方が多いみたいで、口にあうか心配だが、ま、楽しんでくれ、まだもう少しだす料理があるから、一度下がるよ」

 親父さんが部屋を出るのを見送ると、ため息を付いて私の周りを見回す

「やりすぎだ……」

そういうと

「何がだ?本来なら、アルドミッドのホールでも貸しきってもいいと思っていたのにお前が嫌がるから」

「当たり前だろう、何処の結婚式だ! たかがクラスアップにそんな恥ずかしいこと出来るか!」

「なんだと? 俺が今のクラスに行ったときはあそこの大ホールだったぞ?」

「シラーとはクラスも招待客もケタが違うだろう」

「まぁ、アルドミッドはねぇ…、でもアイシャったらローズガーデンのガーデンパーティーも却下するし」

「気持ちは嬉しかったローラ…、でも私の招待客があそこでガーデンパーティーなどやったら物笑いの種になるぞ? クロエやシラー達はともかく、そもそもローズガーデンに似合う奴らか?」

「お二人とも、アイシャの気持ちが判っていませんね、けれどアイシャ?スクォーラの集会場を借りて闇の力を充満させた会場のパーティーなら良かったのですはないですか? いくらでも闇の気など提供したのに…」

「…クロエ、確かに私は闇は好きだ、だからお前の部屋も気に入っている しかしな、祝いの会をそういう環境でするのはどうかと思う常識くらいはあるんだぞ?」

「そんな…あなたの居心地が一番でしょう?」

「いや…だから、クロエ…」

気持ちは有難いのだけれど、何だかやたらとあり得ないことを言ってくる友人たちに囲まれて冷や汗を流していると

「…っくっ……ぶは…駄目だ…面白すぎるっ」

「クライス!」

聞き覚えのある声に振り向くとクライスが爆笑をしていて

「なにこれっ…、スクォーラの精鋭が揃いも揃って…くっ…苦しいっ」

一頻りそんなことをいながら笑って、漸く笑いを収めると

「お招きありがとう、家でもささやかながらお菓子を提供させてもらったよ」

というのに

「まさか、見たこともない高級菓子とかいうのはお前のところか? 有難いけど余り高価なものは…」

「何言っているの、内装工事までした奴まで居るのに、それにうちの父も新規ルートだって喜んでた、あ、大丈夫だよ? うちはね貴族向けの高級菓子もやっているけど、無駄な装飾を省いた廉価な美味しいお菓子も手がけているんだ」

「そうなのか? それは嬉しい、此処は何故だかいい菓子が手に入りにくいらしくて、若い女性も多いのに可哀想だったんだ」

「だよね~、父も此処での品揃え聞いて怒ってた、若い娘さんにおいしいお菓子を届けてやる! って張り切ってるよ」

 何だか、一度は断りかけたクライスが一番まともなことを言っている気がして

「……断らないでよかった、今日は楽しんでくれ」

 そう言うと

「でしょ?」

 そう言って私に顔を寄せてにこりと笑うから、その近くにある顔に少し驚いて固まると

「そいつにあまり近寄るな」

 そう言ってシラーが私を自分の隣に引き寄せた。


「先輩がた、そろそろエストを開放してあげて下さい」

 部屋の中央、酒瓶が並ぶ一角に集まる一群に近寄り声を掛ける

「お?今日はヤケに美人だな」

「褒めて頂いても要求は変えません、エストを開放して下さい」

「アイシャさん? 僕なら大丈夫ですよ、剣術士の先輩方に色々お話を…」

 今回の私の昇級の殊勲者であるエストは、早々私と師を同じくする方々に囲まれたと聞いて慌ててその一群に向かう。

「ほらほら、苛めてなんて居ないし、酒も飲ませてない、偉く無い?」

「当たり前です、幾つだと思ってるんですか、其れに彼はパートナーが居るんですよ? 余り引き離すのは不粋です」

「ほらほら、きつい顔すると美人が台無し、化けの皮がはがれるぞ?」

 そんなことを言う先輩をぐっとにらみつつ口元だけで笑いながら

「どなたのせいですか?」

 といって、エストに向き直る

「折角招待したのに早々むさ苦しいのに囲ませて悪かったな、マリエルの所に戻って良いぞ」

「いえ、僕もためになるお話を沢山聞けました、でも、パートナー長い間置いてはいけませんね、先輩方、又お話を聞かせて下さい」

 そういってぺこりと頭を下げて踵を返す様子は流石だが、酒瓶片手に

「いつでも来いよ?」

 なんて言って居る先輩に溜息を付く、本当にローズガーデンでやらなくて良かった


「何だかシラーの小さい頃思い出すな」

 笑いながら言うのは、ソルド、酒瓶片手にエストに挨拶をして居た彼は師に師事して居る一団のまとめ役のような役目の人物で、どちらかというと一匹狼の多い私達を大らかに大雑把に世話を焼いてくれて居る。

「余り似てないとアイシャは言いますけどね」

 隣でそう言うシラーは私にワインのグラスを渡しながらそんな事を言って居て

「いや、あの行動の早さと頭の回転、似て居るよ、末恐ろしいな」

「あまり、からかわないで下さい、アイシャ余り食べないうちだと回る、何か見繕って来るから飲みすぎるなよ」

 そう言い置いて食べ物のテーブルへと向かうシラー

「何だ、ヤケに甘やかされてるな」

ソルドに笑われて

「普段は出来ないからとか言って、聞かないんです、なんか落ち着かないんですけどね…」

 そう言うと

「やりたいって言ってるんだ、任せれば良い、しかし、フラウも無茶をしたな、まさかそこまでと驚いた、悪かったな気が付いてやれなくて」

「本人すら知らなかったのに、それは無理ですよ、それに今日はありがとう御座います皆さんで、お酒も沢山頂いたと聞きました」

「そりゃ、俺たちが参加するからには必要だろ? 本当は花とかも考えんだが、何だかそれは受け取れないとか言われちまって…、しかし、お前の友人一同はとんでも無いな」

 部屋を見渡しながら言われて

「厨房の親父さんにも言われました…」

 そう答えると

「ま、愛されてるってこった、いいことじゃねーか」

 ソルドは笑って私の頭をくしゃりと撫でた。


「アイシャ、夜は長いぞ?まだワインにしとけ、主役が早々潰れる訳にはいかないだろ」

 そう言って、口をつけようとしたカスクを取られワインを渡される、けれどそのカスクをシラーが口にするのを見て

「ずるい、お前は良いのか?」

 文句を言うと

「お前よりは強いからな」

 なんて、笑われて、仕方なくワインに口に付けると

「悪く無いだろ?うちで眠ってたのも何本か持って来た、ワインなら幾らでも持って来てやるから」

「そんな頑張らないで良いぞ?」

 クロエにも、そんなことを言ったなと思いながらシラーをみると

「さっきから言ってるだろ、気にするな、それに忙しいからってお前に甘え過ぎだったって…、この前クロエと居たのを見て気がつかされた、お前に夜会のパートナーを頼んでいるのに俺はいつもお前の側にすら居てやれなくて、これじゃいつか断られるんじゃないか…って」

「そんな事考えてたのか? そりゃ、夜会やパーティーとか余り得意では無いが、シラーが私を必要なのは判ってるし、何の為なのかは理解して居るから大丈夫だぞ?」

 すると、シラーは困ったように笑うと

「お前は物分りが良過ぎだ、さっきエストにも言ってたじゃないか、余りパートナーをほったらかすなって」

「あ…れは、まぁ、あれはあれだ」

「なんだ、それ」

 噴出すシラーに私はホッとした、最近のシラーは何となく元気が無いように私には思えていて。


 だから、そうやってシラーが笑うのが嬉しくて

「美味いな、これ、おかわり」

 そう言って空のグラスを渡すと、久しぶりの鮮やかな笑顔で

「持って来てやる」

 そう言って、席を立った。

取りあえず、この速度でのupは此処までにしたいと思います

二日程用事があり、その後も少し忙しくなるので更新が滞るかもしれません。

書きためてある分はもう少しあるのですが、勢いで書いた部分も多いので少し見直しが必要そうなので・・・。


けれど、続きも頑張ってupしていく予定なのでよろしくお願いいたします

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