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「アイシャ! なんだその色は」
廊下を歩いていると、聞き覚えのある声がして、走りだしそうになる足を意思の力で留める。
ゆっくり振り向くと、そこには予想と全く変わらない、キラキラとした金髪に緑色の瞳、何処か作り物めいた端正な顔立ち、けれど、それをぶち壊すかのような不機嫌な顔のシラーが、私の髪を一房取り上げて眉をしかめている。
「またお前はクロエのところに入り浸って……注いでやるから俺の部屋に来い」
「うっ……」
「いいから、来い、お前がそんな髪をしていたら俺の力不足だとか思われるじゃないか!」
ここはスクォーラ、言うなれば術士の学校。
光、闇、火、水、風、土、そして光を主に纏い剣を媒介して力を振るう剣術士……等の術士の素質を持つ人々が、学んでいるところだ。
国にとって術士は貴重かつ有用な存在である為に、素質のあるものは無償で生活と修行の面倒を見てもらえる。
代わりに、全国各地で起こる術士を必要とする案件に問答無用で派遣され、私と、今怒りながら私を連れて廊下を歩いているシラー、そしてクロエは12歳の頃からここで生活している。
ギィ…
イライラしつつも基本的に育ちのいいシラーは、動作に乱雑な所がない。
私ならば、バタンと勢い良く開けてしまう自室のドアを、緩やかなしぐさで開けると、ぽいっと私を部屋に投げ込む。
……前言撤回、モノには優しいけれど、人にはあまり優しくないかもしれない。
「そこに座れ、そんな髪の色をしていたら俺が恥をかくんだ」
そう言って、部屋のソファーに私を座らせると、サイドテーブルからブラシを取り出す。
自分で梳かす、と手を伸ばすけれど、力を注ぐついでだと言って聞く耳を持たずに髪を梳かしだす。
私は、剣術士又は聖剣術士と言われる術士。
主に光の属性である魔を払い場を清める力を纏って、剣を使って魔を消滅させるのが仕事だ。
正確に言えば、術士とは認められており、スクォーラに来る依頼も受けてはいるけれど、未だ師について修行している半人前の身である。
世界には、其処此処に『世界の綻び』と呼ばれる場所があり、魔はそこから染み出るようにこの世界へと影響を及ぼすとされている。
魔に触れてしまうと、植物は急速に枯れて毒素を放ち、動物たちは生態系を無視して目に付く周りの生き物を攻撃しやがて死んでいく。
人は、精神に異常をきたしやはり周囲に対して無差別に攻撃的になる。
この世界はもろい布のようなものと考えられており、少し力がかかるとほころび、そこから魔が忍び寄る。
光はそれを払い、闇はそれを一時的に安定させることが出来る為、魔に直接影響を及ぼす事が出来る力はこの2つのみとされている。
剣術士は、単独では魔に対して役には立たず、光を纏った状態でないと魔に対する効果は殆ど無い。
そこで、剣術士は光の術士に光を補充してもらうことになる。
そうして、魔に対して抵抗力を得ることが出来ることから、いつからか剣術士は聖剣術士と呼ばれることが多くなっていった。
光の補充は、人によって部位は異なるけれど、身体の一部であることは共通している。
私の場合はこの髪の毛、剣を扱うものとしては邪魔な事この上ないくるくるとした癖のある髪の毛を、いつも短く切ってしまいたいと思いつつ、切ることができない理由がここにあった。
ただ、通常光のみを己の属性とするのが聖剣術士と言われているが、私の場合、ちょくちょく他の属性も取り入れることが多く、又、こちらから取り入れるだけでなくそれなりの力を持つ相手のそばに長く居るとその気を取り入れてしまう。
私の本来の髪の毛の色は、最近は余り見ることはないけれど薄い茶色、けれど、シラーの気を貰うようになってからは金髪の状態が基本ではあるのだけれど……。
「お前、どれだけクロエの所に行ってるんだ、一週間前に補充したのに何束かは完全に黒くなってるぞ」
「だから、放って置いて良いって言ってるんだ、普段の時は、地味な私の顔には金髪は微妙だし、仕事と課題の時だけくれれば良いって」
「ふざけるな、俺の力が弱いと思われるだろ? だいたい、こんな斑の頭で良いっていう神経がわからん」
聖剣術士といえど、普段からずっと光を纏っているというわけでは無い。
本来は必要な時に補充を頼みに行くものなのだが、私が聖剣術士になってからずっと光を補充してくれているシラーは、私が常に光を纏っていないととても機嫌が悪い。
「大体、何だ、この頭はこれでも女か? ほつれて丸まって……うわ、葉っぱまで付いているじゃないか」
「そりゃ、座業が基本の光の術士様からは分からないかも知れないが、基本剣術というのは外で体を動かすのが基本で……」
「だったら、せめて纏めるとか出来るだろう、少ないとは言え女の聖剣術士だっていないわけじゃないんだ」
ああ……面倒くさい……。
私に光を注いでくれるこの術士は、ここに入学した時からの付き合いで、一緒にいる時間もかなり長いのだけれど、どうも反りが合わない。
私の一挙手一投足が気にくわないかのように遠慮無く突っ込んでくる。
少しは成長してましになってきたけれど、入学したての頃は言い合いの喧嘩から取っ組み合いになることもあって、シラーにはこんな女見たことがないと、何度言われたことか。
私に言わせれば、貴族の少女と同じような振る舞いを私に求めるのがそもそも無理だと思うんだが……。
平民出身でで大雑把な私と、貴族出身で完璧主義なシラーは、きっと私が剣術士で彼が光の術士でなかったら接することもなかったと思う。
けれど、不思議なもので、多少面倒くさいと思ったり、鬱陶しいと思うことはあるけれど 今は彼を嫌いではない。
完璧主義で融通が利かないけれど、結構高位の貴族出身だと話も聞く割に、同じ境遇の人間にありがちな他を貶めるという所はなく、必要ならばどの相手の意見でもしっかりと聞いて居る、そういう点は私も気に入って入るのだ。
向こうがどう思っているかは分からないが
ここまで読んでいただいた方がいらっしゃいましたら本当にありがとうございます。
文字数の関係でキリの悪い切れ方になってしまいました。
続きは、添削作業後早めにupしようと思っております。
何か、お気づきの点、感想等有りましたらコメントを頂けたら非常に嬉しいです。