Misson:18 新入隊員恒例
研究所を出た司は、またバイクに跨り颯爽と走り出した。南北を走る比較的大きな道を北上していく。
日中の基地はとてもにぎやかだ。道路の左右では訓練や、機材の整備、物資の運搬が慌しく行われている。 午後から行われる総合演習の準備だ。
戦線が激化しつつあるということで、この基地からも何隊か戦場へ派遣されているが、今夜新たに増援部隊が出向になる。その隊の最終調整を行うのだ。
司も、増援部隊に組み込まれているが、現地入りしてすぐに別行動になるので演習には参加しない。
(忙しそうだな・・・)
司は左右の慌しさをを横目にバイクを走られて行く。
しばらく行くと東の方にランニングをする団体を発見した。
司は何かを思いついたように一瞬含みのある笑みをして進路を北東に変更した。
「マジきつくねえ?」
「俺ら何時間走ってるんだ?」
啓介達は体育と言う名の地獄の体力強化訓練を受けていた。
初の訓練ということで期待と不安を抱えて集合場所に到着した啓介達は、訓練内容の説明を受けることもなく、走らされている。
・・・かれこれ一時間・・・
「いつまで続くんですかねえ・・・。」
滝沢はさして苦しそうもなく隣を走っている加納に話しかけた。 かくゆう加納もまだまだ余裕そうだ。
「さあね。兵士は体力勝負だから、基礎体力強化兼測定の意味でやってるんだと思うけど・・・。」
「測定?」
「そう。誰がどの程度の体力かテストしてるんだ。」
「マジかよ。」
すぐ傍を走っている啓介が呟いた。
その横にいる寺内も含めて、こちらもまだ余裕がある。
啓介は陸上部全国大会出場、滝沢はサッカー部エースだし、寺内はボクシング、加納は家が道場だ。
この4人の体力は一般人の比ではない。
「こりゃ、そろそろ脱落者も出るな・・・。」
「何言ってるんですか、寺内先輩、もうだいぶ前から出てますよ、脱落者。」
「・・・?」
そう言われて振り返ってみれば、自分達の走ってきた道にポツポツ人がしゃがみ込んでいるのが見える。
「・・・軟弱・・・。」
「てーか、ホントいつまで走るんだ?」
「多分、敷地を一周するまでだろうな。」
前方から誰かの声がかかった。
「・・・司?またお前は神出鬼没だな・・・。」
4人の前にはいつの間にか司がいた。
「ハロー!お前らまだまだ余裕そうだな~。」
「俺らのことよく知ってんだろ。こんなところでへばるたまじゃねーよ。」
司と並んだ啓介が額の汗を拭いながら言った。
すぐ後ろを付いて来ていた滝沢もまだ余力がありそうだ。
「先輩、一周ってどのくらいあるんですか。」
「そうだな。50㎞弱ってとこかな。」
「まじか。フルマラソンかよ。」
寺内が嫌そうに呟いた。いつも敵視していた司とは一時休戦らしい。突っかかることもなく話している。
「軍人は体力勝負だからな。損所そこらのスポーツマンじゃ付いて行けねーよ。」
「まあそうだろうな。ところで司。お前こんなところで何してるんだ?」
「何って・・・新入隊員恒例『地獄の体力測定』で、まだまだ余裕そうな君たちにプレゼントをと思いましてね・・・。フフフ・・・」
「って何キャラだよ。」
啓介はそう言って、お上品に手を口に当て不気味な微笑を浮かべている司に飽きれたような嘆息をついた。
「高燈先輩。・・・プレゼントって・・・?」
滝沢の疑問に、司は意味ありげに目線を向け、そのままスピードを上げて前のほうに行ってしまった。
「・・・・・・?」
スピードを上げて先頭までやってきた司は、一番前で集団を誘導している教官に話しかけた。
「三沢。ペース上げろ。ひよっこ兵士はまだまだ余裕そうだ。終了までに全員リタイヤさせる気
で走れ。」
「高燈大佐?なんでこんなところに・・・?」
「・・・・暇つぶし。」
「また・・・あなたらしいですね。」
そう言って三沢は苦笑した。軍服をきっちり着ている三沢は、一見すると平均かそれ以下の体格をしている。身長もそれほど高くはないし、ガタイがいいわけでもない。しかし、体力は常人以上で仲間内でもどこにそんな体力があるのか不思議に思われるほどの男だ。
「いいんですか?そんなことして。ホントに最後は誰もいなくなりますよ?」
「構わない。そんな軟弱ならいても意味はない。それに去年はもっとペース速かっただろう。」
「今年はリタイヤが出始めるのが速かったので、ペースを少し落としたんです。」
「今年は何人いなくなるのやら・・・。じゃ頼んだぞ。」
「分かりました。今夜の任務お気をつけて!」
「あれ?なんかスピード上がった?」
「確かに・・・。」
そんなことを話していると前方から司がのんびりと歩いて来ていた。不思議に思い見ていると、ふと司と目があった。司はニヤリと笑い、すれ違いざまに一言・・・頑張れよと・・・。
「ふざけんなー!!!」
啓介たちの叫びは見事にハモっていた。