Misson:15 訓練開始
次の日の朝、今日から本格的に訓練が始まる啓介たちは、食堂で朝食を取っていた。
啓介、寺内、加納、滝沢だ。
それぞれが思い思いの朝御飯を食べている。
滝沢は色とりどりの野菜が乗ったサラダに、サンドイッチ。
寺内は顔に似合わず甘党らしく、パンケーキセット。
加納はざるそば。
そして啓介は………
「お前またそれかよι少しはバランスを考えろ!」
突然背後から聞こえた声に、啓介はいつもの条件反射で言い返してしまった。
「うっせーなっ!司には関係ないだろ………って……つかさーー!!!」
驚愕して口をパクパクさせている啓介に、何事もないように司は挨拶した。
「よっ!!おはよう。」
「『おはよう』じゃない!お前なんでこんなとこにいるんだ!?」
「なんで……って、見れば分かんだろ?」
言われて見てみれば、上は黒のTシャツだったが、下は自分達と同じ軍服を穿いていた。
「お前もだったのかよ。なんで言わなかったんだ?」
啓介は困惑ぎみに言った。啓介の後ろには同じような顔が二つ並んでいる。
「聞かれなかったから。」
「は?お前………。」
「高燈先輩!!」
啓介の抗議は、途中で掻き消された。
見れば滝沢が満面の笑顔で司を見つめていた。
「よっ!滝沢。久しぶりだな。相変わらずちっさいな〜。」
「言わないで下さいよ!これでも気にしてるんですから。それよりなんで学校辞めたって教えてくれなかったんですか?」
司は、滝沢の頭をくしゃくしゃと撫でながら謝った。
「悪い悪い。急だったからさ…。」
「メールの一言ぐらい出来るじゃないですか〜。」
「だからゴメンって。いろいろ慌ただしかったんだ。」
ぷっくりしょぼくれた滝沢の頭をポンポンと撫で、司は啓介達と同じテーブルに着いた。
今日の朝食は純和風な焼鮭定食だ。
「それより、司。お前昨日講義に居なかったよな?俺たちと同じ学生兵じゃないのか?」
啓介は、司にバランスを考えろ、と言われたオムライスを食べていた。
好物だからと、いつもそればかり食べているので司は言うのだ。『栄養が偏る』と。
本人は分かったと言いながら、事あるごとに食べている。
そして今日も案の定、オムライスだった。
しかも大盛。
それを見て司は少し呆れ顔で曖昧に答えた。
「あぁ。学生兵とは少し違うんだ。だから一緒に訓練することもあんまり無いだろうな。」
その言葉に一同は怪訝な表情をした。
このまえまで同じ高校の学生だったのに何故学生兵ではないのか、そして御年17歳の少年が正式に軍に籍を置くことは出来ない。
結果的に見習い兵士イコール学生兵しか無いはずなのだ。
全員の疑問は代表して啓介が口にした。
「学生兵じゃないって・・・他に何かあるのか?」
「・・・あ〜・・・いろいろあるんだよ。」
不自然に目を泳がせながら、司は曖昧な返事をした。
高燈司。十七歳。
国連本部所属対ビースト特殊部隊隊長。
なんて地位はあまり話せない。
しかもそれを言うと長い説明をしなくてはならなくなる。
そんな面倒は御免だと司は話さなかった。
啓介達は怪訝な目をして司を見ていたが、司は陸上部でのコーチとの会話のように巧く誤魔化した。
ビースト━━━見た目はほぼ化け物だ。
それに対抗するため、神獣使いは軍に所属するよう言い方は悪いが━━強制されていた。
神獣とは、東の朱雀・西の白虎・北の青龍・南の玄武の四聖獣。そして麒麟である。
太古から世界に一匹ずつ存在していた。
そして神獣使いは彼らの力を自在に操れる存在であり、同時期に二人居ることはない。
使いが死んで新たな使いが生まれる。
何千年も繰り返されて来たサイクルだ。
そして使いが死ぬと神獣も一度魂が浄化され、使いが生まれるとまた復活する。
神獣は生まれながらに自分を使役する者が分かって居る。
自分から出向くことはないが運命が二つの存在を結び付ける。
そして司も麒麟━天李に出会ったのだ。
「それより、お前ら時間平気なのか?」
司の言葉で、皆一斉に時計を見た。
8時45分―――
訓練開始時間は9時―――
最初の訓練場所第3セクターまで徒歩10分。
ただ迷わなければの話だが。
「やばっ!!行くぞ!」
啓介達は食器を片付けて走り出した。
「頑張れよ〜。」
司は慌てて出ていく集団にヒラヒラと手を振った。