Misson:11 入隊
「は?…辞めた…?」
数瞬間だれも何も言わなかった。
寺内と加納は固まったままだったし、啓介も面白半分、困惑半分の顔をしていた。
なぜいきなり司が学校を辞めたのか気になっていたからだ。
コーチからの発表があるまで自分は何も知らなかったし、あれから一週間ほど経ったが、司とは音信不通になってしまいその理由を聞くことも出来なかった。
「理由は家庭の事情とか言ってたな。内容までは聞いてないけど……。」
「まじかよ。」
寺内は、複雑な表情で頭をガシガシ掻いた。
いきなり戦線を離脱したライバルに、怒りやら困惑やらが浮かんでいるんだろう。
加納はいつも通りポーカーフェイスで、何事もなかったような顔に戻っていた。
「高燈が学校を辞めたことは今の俺達には関係ないことだろう。早く部屋に行こう。」
いつのまにか周りにいた学生兵は、いなくなっていた。さっき説明してくれた兵士が、部屋で荷物の整理や、同室と顔合わせをして、昼食後一時にここに集合と言っていた。
「それで……?同室のもう一人って誰だ?」
学校では、なんだかんだで仲が良くない啓介達だが、ここは軍で、これからは同じ部屋で生活をするということもあり、一時休戦と言うことになった。
自分達の部屋に行く途中の、寺内の発言で、加納はまた眼鏡をかけて、配られた部屋割りの紙を見た。
「『滝沢』と言う奴らしい。」
「あ〜そいつなら知ってる。ウチの学校だぜ?」
一ヶ月以上生活するにしては、極端に少ない荷物を肩に掛けて、啓介は言った。
「俺らと……?」
「そう。いっこ下の一年。サッカー部のちびレギュラーだ。」
「あ〜、あの…アイドル系のかわいいのか……?」
「そうそう。部活隣だし、あいつ司のファンなんだ。」
最後の発言に、寺内はしかめっ面になったが、何も言わなかった。
自分達に与えられた部屋に着いた時、既に滝沢は中で待っていた。
「三谷先輩!先輩も志願したんですね?高燈先輩は一緒じゃないんですか?」
目をキラキラさせて、啓介を見上げてきたのが、滝沢だ。
その小柄な体で、素早くグラウンドを駆け回り一年にしてすでにレギュラーの座を勝ち取っていた。
見た目も高校生には見えない童顔と、160ほどの身長、コロコロ変わる表情で、学校では女子たちのマスコット的存在だ。
大きな目を見開き、啓介を見る滝沢は、確実に司がいるのを期待している。
「あ〜……。それがさ……………。」
啓介は先程と同じ説明をする。
みるみる沈んでいく滝沢の表情を見て、ただ事実を説明しているだけの啓介もなにやら罪悪感を感じた。
「そう………なんですか………。」
しょんぼりしてしまった滝沢に、啓介達は苦笑するしかなかった。




