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misson:10 鈴城基地

いよいよ、啓介たちの入隊の日になった。

鈴城基地には30人ほどの新入隊の若者が集まっている。


昨年より前に入った学生兵は既に訓練に入っているので、今ここにいるのは、今年から兵になる高校生や大学生だ。


正面入り口に集まった若者たちは、みんな大きな荷物を持っていた。

これから夏休みが終わるまでの約一ヶ月間、彼等はこの基地で、兵士として訓練を受けるのだ。


「うわ〜!広い!!ねぇ?啓介。」


「ああ。そうだな。」


門の内側に通されるまでに、厳重な検査を受けて、やっと中に入ったのは、集合から一時間後だった。


啓介たちは、まずこれから生活する施設に案内された。

その時に啓介と未佳は分かれて、啓介ら男子は2-Kへ、未佳たち数少ない女子は6-Dへ向かった。

敷地内はとんでもなく広いので、車を使う。

3.4人で分乗して、およそ8km、15分の道のりを走る。


途中、訓練中の兵士や整備している軍用ヘリなどが見えて、啓介は期待に目を輝かせた。


迷彩の服を着てサクサク働いている人や、自分が乗っているようなジープ、目立たない色の軍用トラック。それらを見てやっとここまで来たと啓介は実感した。

小さい頃、将来の夢という作文で、『兵隊さんになる』と書いた覚えがある。いつからそんなことを思っていたのかはわからないが、あのときから十年近くたった今でも自分の気持ちは変わらなかった。

親は最初から猛反対していた。兵士は危険な仕事で、毎年任務中に命を落とす人もいるようだ。両親は自分のことを心配して言ってくれていることは分かっていたが、どうしても軍に入りたかった。

怪遺伝子生物、いまではビーストと呼ばれているあの化け物から、人間を守りたいと純粋にそう思ったから。


今、自分は軍の基地にいて、そのことで夢に一歩近付けた気がする。


〈でも…………〉


自分が軍に入ったせいで、未佳も巻き込んでしまった。司の言う通り『心配だから』という理由だった。

あいつの性格からそう言うだろうことは予想できたが、敢えて伝えた。未佳にはちゃんと自分のことを分かっていてもらいたかったから。

そのうえで説得しようと思ったが、未佳は以外に頑固で結局折れてはくれなかった。


〈やっぱり言わないで来たほうがよかったか………〉


だが啓介はすぐに首を振った。


〈いや、言わないほうが………ヤバいか〉


未佳は普通の女の子だ。今のギャルみたいな性格ではないし、一般に見たら少し純情で、あまり汚れてないというかなんというか……。

小柄でおとなしい性格の未佳だが、極度の心配症で、司の時がそうであったように、人が変わる。他人に気を配るのはいつものことで、誰か困っている人がいたら真っ先に助ける。


そんなだから普段のおっとりとのギャップで結構男子に人気があった。

今は自分がいるから手を出す馬鹿はいないが。


啓介は内心で微笑んだ。これでも司とは悪友なのだ。

教師や未佳にはばれないところで、よく喧嘩もする。

自分と司の裏の顔を知っている学校の男子達は、未佳を早々に諦めた。


〈今まではなんとかなったけど、これからがなぁ……。〉


学校では同年代ばかりだったから、少し喧嘩が強いだけでなんとでもなった。

だが、ここは訓練を受けた正規の軍人が山ほどいるのだ。

しかも、女子人口が極端に少ないときた。


もし未佳に何かあった時、自分は守りきれるだろうか。


はぁ〜〜〜と重い溜め息を吐いたところで、車が目的地に着いた。五階建ての学校の校舎ぐらいある建物がいくつも隣接している。


ここは、基地内に四つある宿泊施設群の一つで、第2セクターにあった。

鈴城基地は第1から第9のセクターに分かれている。

各セクターにある施設はそれぞれ違うが、偶数番には主に研究棟や訓練棟など屋内施設があり、奇数番には演習場や、飛行機の発着場など屋外施設がある。


寮は第2に一つ、第8に二つあって結構近かった。

唯一離れている第6の寮は、基地内たった一つの女子寮だ。


6-Dと書かれた棟のロビーで、啓介は入寮についての説明を受けていた。

別段覚えなくてはいけない規則などはなかった。

部屋は四人部屋で、バストイレは各部屋に完備されている。食事は、各セクターに一つはある食堂で取る。


啓介は案外快適そうな寮生活に安堵した。


ひとつだけ注意されたのは、上の階に行くにつれて階級の高い人がいるから、行儀に気を付けろ、ということだった。


啓介はそのことをしっかり胸に置き、渡された部屋割りに目を向けた。


〈あれ……。これって…。〉


自分の部屋を確認してルームメイトは誰か見たら、見覚えのある名前があった。




「あれ?三谷じゃん。こんなとこで何してんだ?」


背後から話しかけられて後ろを振り返ると、予想通りの人物が自分を見ていた。


加納と寺内だ。

話しかけてきたやたらとがたいのでかい方が寺内で、少し後ろにいるおとなしそうな青年が加納だ。


「それはこっちのセリフだ。」


啓介は少しうんざりした顔で問い返した。


加納はともかく、K-1選手並の体格をしている寺内はなにかとつっかかってくるのだ。それは主に司にだったが、学校でほぼ頂点に君臨していた自分たちをいつも目の敵にしていた。


加納は寺内の腰巾着ってところだ。

いつも冷静沈着、成績もトップクラスの彼がなぜ寺内とつるんでいるのかは謎だったが、自分も他の生徒もそのいち気にしなくなった。

まあ、司と啓介みたいなものだ。


「俺達は学生兵だが、それは三谷も同じじゃないか?」


加納がフレームレスの眼鏡を外した。何かを読むときには必ず掛ける愛用の眼鏡だ。


「ああ。そうだけど…。まさかお前らもだったなんてな。」


「おい!三谷がいるってことは、もしかしてあいつもいるのか……?」


寺内はどこにいるかと辺りに目を向けた。

そんな様子に啓介は『いない。いない。』と手を振った。


「いない?一緒じゃないのか?」


「司は、違うぜ?あいつにはこないだ言ったばかりだからな。それに………。」


「「?」」


「あいつ。学校辞めたよ。」


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