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すり替わり

掲載日:2026/08/21

登場人物


加江田かえだ――主人公。

▲ 老人――加江田が帰り道で出会った謎の老人。

『すり替わり』



 その日、俺――加江田は家に帰ろうとしていた。


 いつもと変わらない帰り道だった。


 しばらく歩いていると、前から一人の老人がやってきた。


 老人は車椅子に乗り、自分の手でゆっくりと車輪を回していた。


 俺の横を通り過ぎ、そのまま道の向こうへ進んでいく。


●「…………」


 特に気にすることもなく、俺は家へ帰った。


     *


 家に着き、部屋へ入った。


 そのときだった。


●「いっ……!」


 突然、右足に激痛が走った。


●「なんだ……これ……?」


 何かにぶつけたわけでもない。


 転んだわけでもない。


 それなのに、右足がひどく痛む。


 立ち上がろうとしたが――


●「痛っ!」


 まともに歩くことさえできなかった。


 さすがにおかしい。


 俺は救急車を呼んだ。


     *


 数分後。


 救急隊員が到着し、俺はストレッチャーで救急車へ運ばれた。


 そのまま病院へ向かい、右足の診察を受けた。


 しかし――


■「特に異常はありませんね」


●「え?」


 思わず聞き返した。


●「いや、めちゃくちゃ痛いんですよ。歩けないくらいなんです」


■「ですが、調べた限りでは異常は見つかりません」


●「そんな……」


 確かに痛い。


 なのに、原因が見つからない。


 何度説明しても、検査の結果は変わらなかった。


 仕方なく、俺は病院から松葉杖を借りることになった。


 痛みはあったが、松葉杖を使えば何とか歩くことができた。


     *


 松葉杖を使いながら病院を出ようとした、そのときだった。


●「……あれ?」


 見覚えのある老人がいた。


 さっき帰り道ですれ違った老人だ。


 老人は俺の横を通り過ぎ、病院の中へ入っていく。


 俺はその後ろ姿を見て、妙な違和感を覚えた。


●「…………?」


 何かがおかしい。


 数秒考えて、気づいた。


●「あの人……」


 歩いている。


 さっきまで車椅子に乗っていたはずなのに。


 今は――


 松葉杖を使って歩いていた。


●「……まあ、少しなら歩ける人なのか」


 俺はそう考えることにした。


     *


 ようやく家に着いた。


●「疲れた……」


 松葉杖で歩くのは大変だった。


 右足の痛みは、まだ消えていない。


 その日はそのまま休むことにした。


     *


 翌朝。


 俺はベッドから降りようとした。


 その瞬間――


●「うっ……!」


 今度は左足に激痛が走った。


●「嘘だろ……?」


 俺はベッドの上で左足を押さえた。


 昨日までは右足だけだった。


 それなのに、今度は左足まで――。


 右足の痛みも消えていない。


 これで両足だ。


●「何なんだよ、これ……」


 俺は再び病院へ向かった。


 そして両足を詳しく診てもらった。


 だが――


■「やはり異常はありません」


●「そんなわけないだろ!」


 思わず声を上げた。


●「両足ともこんなに痛いんですよ!」


■「痛みがあることは分かります。ただ、今の検査では原因が確認できません」


●「じゃあ、この痛みは何なんですか?」


■「…………」


 医者にも答えられなかった。


 俺自身、何が起きているのか分からなかった。


 両足は確かに痛い。


 それでも、検査では何も見つからなかった。


 原因を調べるため、俺はしばらく入院して詳しい検査を受けることになった。


     *


 一か月後。


 いくつもの検査を受けたが、結局、痛みの原因は分からなかった。


 そして俺は、ようやく退院の日を迎えた。


 しかし――


 俺はもう、松葉杖を使っていなかった。


 車椅子に乗っていた。


 入院している間も両足の痛みは続き、まともに歩くことができなかったからだ。


●「結局、何だったんだよ……」


 俺は車椅子を動かし、家へ帰ろうとした。


 そのとき。


 向こうから、一人の老人が歩いてきた。


●「……あ」


 あの老人だった。


 最初に会ったときは、車椅子だった。


 次に会ったときは、松葉杖だった。


 そして今は――


 何も使わず、普通に歩いていた。


●「…………」


 俺は自分の車椅子に目を落とした。


 なぜか、嫌な感じがした。


 老人は俺の横を通り過ぎようとする。


 理由は分からない。


 でも俺は、その老人が気になった。


 いや――


 疑っていた。


●「あの!」


 俺は車椅子の向きを変えた。


 老人が立ち止まり、振り返る。


▲「何ですか?」


●「…………」


 聞きたいことはあった。


 でも、何を根拠にこの老人を疑うんだ?


 俺は何も言えなくなった。


 それに――


 最初に会ったとき、老人は車椅子に乗っていた。


 次に会ったときは、松葉杖を使っていた。


 俺だって今、その苦労を知っている。


 何も悪くない老人を疑うなんて失礼だ。


●「……何でもありません」


▲「そうですか」


 老人はそれだけ言うと、再び歩き始めた。


 俺も車椅子の向きを戻す。


●「帰るか……」


 俺は車輪を回し、家へ向かった。


 キィ……キィ……。


 ゆっくりと車椅子が進んでいく。


 俺は気づかなかった。


 後ろで――


 あの老人が立ち止まっていたことに。


 老人は、車椅子で遠ざかっていく俺の背中をじっと見つめていた。


 そして、小さく何かをつぶやいた。


 だが、その言葉が俺に届くことはなかった。


 老人は何事もなかったかのように前を向く。


 そして――


 自分の足で歩いていった。


『すり替わり』


――終わり――

最後まで見てくれてありがとうございました。

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