歓待の間
こっちの提案に渋い顔の提灯アンコウの着ぐるみNPCだったが、ファーの声無き援護もあってオッケーが出た。わ~い、これは超嬉しい取り決めだな!
何せ鞄2つ持ってても、既に中身がパンパン状態だったし。入って来るばかりで、売れるお店が全く無い始まりの森仕様は色々と大変である。
構造に欠点がありまくりだよな、それはまぁ置いといて。向こうの着ぐるみNPCも、何故か数を増やして買い取り交渉に対応してくれる様子。
負けじと相棒も前面に出て、価格交渉で一歩も譲るつもりは無いアピールを振り撒いている。そんな中、俺のアイテム提示から白熱の価格取り付け合戦が始まった。
それはまさに、ある意味熾烈な戦いだった……こちらも相応な値段が分からないなりに、高値を吹っ掛け過ぎたのも原因だったけど。
俺が最初に取り出したのは、翡翠の指輪と翡翠の飾り。これらはモロに貴金属で、恐らくは綺麗なだけで換金用のアイテムである。
数分に渡る長い交渉(主にファーによる)の結果、2つで62000モネーをゲット出来た。おっと、思ったよりも高値になってくれた、幸先良いな!
続いて、断崖のダンジョンで拾った初心冒険者の服と帽子と、それから杖のセット。俺には全く必要ないし、鞄の容量塞ぎでしかない。
でもこんなのでも、3000モネーになってくれた。
同じダンジョンの出物、庭師のエプロンと枝切り鋏は、何故かフグの着ぐるみNPCが喰い付いた。ひょっとしたら、竜宮城の庭師的な役割なのかも知れない。
こちらの2点は、合計で8500モネーの売り上げに……いいね、こちらも不要なモノを処分出来て大助かり。
先にゲームを始めている京悟と美樹也に、こちらの余っている武器の融通を打診した所。こちらと合流するのはかなり先になるから、売った方が良いぞとのアドバイスを貰った。
合流が先って事は、その間また強い武器を入手する可能性も高いって事だ。それなら確かに、売った方が鞄もスッキリするし上策だ。
ちなみに京悟のアバターは、大鎌使いで育成しているみたい。本当はナックル拳士を目指していたけど、大型モンスターの多いバーチャル世界で妥協した結果らしい。
美樹也はパーティのバランスを見て、素直に盾職とやらを選択したそうだ。使っている武器は片手斧だが、稼いだお金は装備に注ぎ込んでいるとの話。
その辺は美樹也らしい、この面子ではバランス取り役にならざるを得ないし。そんな訳で、余っていた武器も装備も思いっ切り換金して行く事に。
良い出物があっても、確かに連中と出逢えなければ渡す事も不可能だもんね。海辺の洞窟のドロップ品、海賊の大斧とサーベルは意外と高値が付き、セットで5400モネーで売れた。
ダメージ高かったもんね……続けて安全地帯のドロップ品、野蛮なサーベルと野蛮な手斧だけど。こちらも筋力+3付きの逸品だ、ファーの交渉にも熱が入っている模様。
その結果、2つで8000モネーとまずまずの価格に落ち着いた。
なかなか好調ですな、今や相手の海産着ぐるみNPCズもアツくなっている模様。水の神殿の出物の、水切りの剣と水のマントは水属性のせいか妙に人気となった。
色んな着ぐるみ達が欲しがった結果、何と12000モネーで売れてしまった。いつの間に競りになったんだろう、不思議だが儲かったからいいか。
ってか、既に儲けの合計が10万に達しそうなんですけど!?
後はそんな掘り出し物は無い、西の断崖近辺の死体から拾った護衛の盾や刀、それから腕輪が合計で3500モネー。耐魔の指輪と、蟷螂の大鎌が合計で4800モネー。
自作の大猪の牙の短槍と丈夫な木の棍棒、それから研ぎ直した粗末な石斧が合わせて2800モネー。消耗品らしい、蛙の歌笛は結局使わず売って7個で6800モネーと儲けを出してくれた。
ついでに他の不要な装備や収集した果実類、これがまとめて2500モネーになった。いやいや、売れた売れた……合計で、12万近くの儲けになった。
鞄もスッキリしてくれて、本当に良い事だらけだ。ちなみに、旅人のマントは予備に持っておくつもりでキープ、マントは色々便利だからね。
蛙の王笏も棍棒の予備で持っておく事に、他の素材類は何かの役に立つかもなので同じくキープ。呼び鈴や呼び水も、勿体無いので持っておく。
スキルの類いも滅多に出ないので、売り払わずにキープの方針で。そして売り上げのお礼に、蜂蜜ジュースをただで付けてあげたら喜ばれてしまった。
それにしても、相棒のファーの交渉術は凄まじかったな。声は出てないけど、身振り手振りで着ぐるみNPC達を手玉に取っていた感じ。
ファーには本当に感謝、俺の魅力値の低さを大いに補ってくれている。ちなみに豹柄のマスクを売ろうとしたら、タダでもいらないとダメ出しされた。
こればっかりは、流石のファーさんでも換金は無理だった様子。これも着ぐるみのドロップだったのに、この不人気さは不思議でたまらない。
ってか、俺もいらないので捨て値で売ってしまいたかったのに残念。
続いて買い物だ、これは買い物券たった3枚で、全て貰うのはとても不可能……武器装備だけで、それぞれ10種類近くずつ揃っているのだ。
その中で目玉なのは、間違いなく『竜宮の短槍』だろうか。何と攻撃力+15は、今まで見た武器の中でもピカ一の性能だったり。
しかも片手武器でこの威力である、これを貰わない手は無い。そして残念ながら、両手棍は何故か商品の中には入っておらずの不遇振り。
杖っぽいモノならあったんだけどね、それはまぁ欲しくないのでパス。装備では弱い箇所を交換したい、兜とかも普通に性能良いのがあるな。
ってか皆凄い性能で、交換県が3枚じゃ全然足りないんだけど。武器を既に交換してしまったので、実質は残り2枚で大いに悩んでしまう。
現状の装備品と較べると、やっぱりコレかな?
――竜宮の短槍 耐久12、攻+15、精神+3
――竜宮の兜 耐久10、防+10、精神+3
さて、残りの買い物券は1枚のみ……他にも水と氷の術書とか、水の矢束とか呼び鈴や呼び水などなど。便利で欲しいアイテムは、交換品の中にいっぱいある。
ファーの熱心な交渉の末、お金+甘味での交換に+5点余計に応じてくれるそうな。それじゃあ……買い物券との交換は、この『水と氷の香木』で決定かな。
あって嬉しい香木シリーズ、それが商品の中に紛れ込んでたのだ。これの効能は、香炉にくべで20分その香りを浴びると、水と氷のスキルPが1つずつ増えると言う優れモノ。
超貴重品では無かろうか、これがセットで2本ついて来る。つまりスキル4Pの価値である、20分については休憩なりクラフトに充てれば良い話。
普通に凄いね、何故氷まで付いて来るかは謎だけど。とにかく後の5点を決めなくちゃ……そうだな、置いてある術書は水と氷が1冊ずつ、呼び鈴と呼び水も同じく1個ずつ。
それを買い取るとして、あと1点は素材が良いかな?
とは言っても『水中珊瑚』は、素材を生み出してくれる鉢植えみたいなモノらしいけど。主に骨素材の珊瑚の欠片とか、貝殻とかを1日何個か収穫出来るみたい。
継続的な金策には良いかも知れない、この先もお金は必ず必要になって来る筈だし。矢弾を自作するにしても、その素材は自分で採れた方が断然お得には違いない。
そんな訳で、これで買い物は終了かな。
結果として、その5点を2万モネーと潤いの蜂蜜で賄って購入に成功。でもまぁ、金は掛かったけど良い買い物だったと思いたい。
特に武器と防具で、1点ずつだが良いモノが揃えられたし。その後は交渉用のテーブルが片付けられて、何故かお座敷遊びが始まってしまった。
着ぐるみNPCが持って来た輪投げをやったり、何故か『叩いて被って』で白熱したり。そして一番白熱したのは、何故かハンカチ落としだったと言う。
とにかくそんなお遊びを一通りこなした結果、景品的なモノを幾つか貰えてしまった。特に輪投げでは高得点を叩き出して、経験値まで入って来る始末。
ってか、俺は投擲スキルを持っているし、ファーに限っては飛翔出来ちゃうし狡い感もあった。それでも銀のメダルやポーション類、水の矢束や保存食の追加は有り難かった。
特に目薬が貰えたのは良かったな、戦闘中の暗闇は本当に厄介だし。
そうこうして遊んでいる内に、着ぐるみNPCの楽団が『蛍の光』を奏で始めた。恐らくは、この宴会の終了を告げているのだろう。
物寂しいそのメロディの中、俺と相棒を名残惜しそうに送り出す海産着ぐるみズの皆さん。こちらとしては、お土産に折詰まで持たされてしまって、何も文句は言えない立場である。
しかしあの白熱したお座敷遊びの後だけに、ちょっぴり寂しい想いなのは一緒かも。見送る着ぐるみNPC達も、心なし物寂しそうな表情。
そんな感じで、再び最初のホールへと戻って来た俺とファーである。スタミナに関しては、ご馳走を振る舞って貰って満タンで申し分無し。
そしてガッツリ増えたお金と、綺麗サッパリと処分出来た鞄の中身。新しい武器と装備も購入出来たし、物凄く充実した歓待の席だったと思う。
いやいや、連れて来てくれた鯨モドキには本当に感謝しなきゃね。それで、竜宮城からのお帰りはどちらかな?
えっ、まだ扉……じゃなくて襖を選べると? 後のはもう、変なのしか残ってないんですけど。はあっ、どうしても選んでくれないと帰れないと。
それは困ったな、微妙な選択を迫られちゃってるよ
――さてどうしようかね、ファーさん?




