昼食時の固定メンバー
「そっか、やっぱり投擲ってスキルも存在するんだ……便利そうだし、余裕があれば取ってみようかな?」
「恭ちゃんは、メイン武器を選ぶのが先なんじゃない? ってか、普通の感覚だと、武器はみんな1種類しか持たないよ。
もう弓は諦めて、槍か両手棍を伸ばす事に決めたら?」
「むうっ……魔法戦士になりたいから、両手武器はちょっとなぁ。遠距離は絶対に有利だから、出来れば弓も諦めたくは無いんだが……」
「恭輔君、とうとう例のゲーム始めたんだ? うわぁ、それじゃあ時間が合えば限定サーバで会えるかも知れないんだね!
僕は姉ちゃんと先発組でプレーしてるから、早く追い付いて来てよ!」
次の日の学校の昼休み、いつものメンバーで中庭で弁当を広げながらの座談会である。このメンバーは、何と言うか琴音と同じく幼馴染率が非常に高いかな。
その中でも、とりわけ読書が好きで大人しい性格の者が多いだろうか。それもその筈、琴音の強烈な個性はあちこちで反発を招きやすいのだ。
今いるこのメンバーは、比較的に琴音の個性をやんわりと受け止められる術を持っている。その辺が、長く付き合える境目だと俺は睨んでいる。
扱いがとても難しいからな、俺の隣に座ってる幼馴染は。
ちなみに昨日の女王蜂NMとの顛末は、華麗に俺の一方的な勝利だったと皆には話してある。死にそうな目に遭ったなどと、正直に話したら琴音の折檻コースは確実だ。
もっとも、初日の低レベルでNMと戦うのは正気じゃないと怒られたけど。俺も好きであの蜂の集団と戦った訳じゃ無い、不可抗力だったのは否めないのだが。
そんな正論も彼女には通じず、ちゃんとしてとのお怒りは甘んじて受けるのだった。俺としては、死なずに1日目を終えれた時点で万々歳な心境。
これが毎日の日課になるのかと思うと、ややゲンナリしてしまうのは致し方ない。例の『限定イベント』だが、巷の噂では半年程度は続くと予想されている。
ゲームの話は置いといて、この場のメンバーを順に紹介しておこうか。幼稚園からの幼馴染なのは、さっきも話したと思うけど……琴音はともかく、他の3人はいわゆる秀才だ。
その中で、さっきゲームの話に参加していたのは浜中誠也と言う男の幼馴染。誠也も『ミックスブラッド』をプレーしていて、限定サーバにも参加しているとの話。
初日から参加を決め込んでいて、そこそこ順調らしいんだけど。一緒に参加しているお姉さんに、完全に手綱を握られているとも愚痴っていた。
報酬の分け前も7対3と言い渡されているらしく、思わず憐憫をもよおす尻に敷かれ具合である。そんな感じで、兄弟で参加しているチームも誠也調べでは多いそうな。
その点、口煩くはあるが琴音は物凄く良心的で欲がまるでない。自分はサポートに徹するからと、分け前は必要無いとの無欲振り。
まぁ、それに関しては良心的と言うよりも、恐らくは好意的なのだろう。愛情と言うのは、度が過ぎると怖くもあるのはご承知の通り。
「琴音ちゃん、ようやく恭輔君とゲーム始める事が出来たんだ……よかったね、応援してるよ! 賞金はともかくとして、楽しめると良いよねぇ?」
「ありがとう、環ちゃん……肝心の恭ちゃんが破天荒過ぎで、上手く合流出来るかがまるで予測不能だけどね」
「おい、人をトラブルメーカーみたいに言うんじゃないよ、琴音」
人の性格批評はともかく、向かいに座る女生徒がささやかな幸せを祝ってくれた。こちらは島原環と言う名前の、ややぽっちゃり体型の女性の幼馴染である。
読書好きでおっとりとした性格で、珍しく琴音とも衝突せず付き合える良く出来た娘である。小学校の頃から頭が良いのは周囲に知られていて、素行も大人受けもとても秀逸だ。
どこか夢見がちで、普段の行動がちょっと抜けているのは近しいモノのみぞ知る事実。それ位のマイナスが無いと、釣り合いが取れないってのも仲間内での評価である。
まぁ実際に、それ程に環は頭脳明晰で性格も良い娘なのだ。
「勉強とバイトに加えて、ゲームも始めちゃったんだ……時間とか大丈夫、恭輔君?」
「ああ、倍速の世界だからむしろお得感を感じるぞ? 自由に4時間遊べるって、割とストレス解消出来ていいかもな!
それが現実世界じゃ、1時間しか経ってないんだからな」
「そうそれっ、私が恭ちゃんに言いたかったのはそう言う事なのよっ! なのに恭ちゃんってば、ずっと無視してんだもん」
最後にこちらの心配をしてくれたのは、白井奈美と言う同級生の幼馴染。ただし奈美だけは、小学校の3年生からの付き合いだったりする。
彼女は遠方からこの街に転校してきた娘で、そこらか何と言うか交流が始まった感じ。元々少しマセた娘で、頭の良いのを鼻にかけていた所もあったのだが。
環によって見事に上には上がいると知らされ、態度が軟化して今に至る。彼女も相当な読書家で、元から勤勉家でもあった訳なのだが。
この進学校に一緒に入学してから、更に親しくなった感じだろうか。少なくとも、俺たち5人でお弁当を食べる程度には関係性は増した感じ。
ちなみに琴音の成績だが、実はそんなには良く無かったりする。俺と一緒の学校に進学するために、受験勉強は物凄く頑張っていたのは知っているけど。
今はその無理矢理な貯金も、底を尽きそうな感じで大変ではある。
こちらも普段から勉強を見たりしてるし、ここにいるメンバーも試験の時には協力を惜しまないのだが。ゲーム程には熱中出来ない様子で、困ったモノだ。
だが琴音に言わせると、それがきっかけで俺の将来の一発逆転を狙える情報の獲得に辿り着けたそうで。つまりは、例の『ミックスブラッドオンライン』の懸賞金騒ぎである。
本人は鼻高々なのだが、そんなに上手く行くとはここにいる誰も思っていない。そんな思いはおくびにも出さず、和やかに会話は進んで行く。
誰も琴音の機嫌を損ねたくないのは明らか、何しろ感情の起伏の激しい娘だから。話題はもっぱら、初心冒険者の俺への2人からのアドバイスだった。
スキルとか魔法とかの、最初に戸惑う事柄についての講釈をベテラン勢から結構貰った。それなりに為にはなったかな、ゲームをしない環と奈美には悪いけど。
実際、2人も楽しそうに聞いていたし変に気を遣う必要も無いのかも。小説好きの人と言うのは、他の人の素っ頓狂な話題すら楽しんで聞けてしまう特性がある。
俺だけじゃないと思いたいけど、変な性癖だと自身でも思う。
「それにしても、ゲームの筐体が凄い勢いで売れてるみたいだね。今の所一部でしかプレミアとか付いてないみたいけど、品薄になったらあり得そうで怖いよね?」
「確かに、世間は大騒ぎみたいだな……誠也は会社を乗っ取って限定イベントに賞金を懸けた、新社長の素性とか何か知らないのか?」
「う~ん、何かIT関係と株取引なんかで、たった数年で成り上がった人らしいけど……その位しか知らないなぁ、やり手な人物なのは確かだよね。
社長自身も、相当なゲーマーだって噂もあるね」
「あのくらいの賞金じゃ、ちっとも資産減らないんだってねぇ……世の中には、凄いお金持ちさんもいるんだねぇ?」
おっとりした環の感想はともかく、その新社長は割と変人寄りな性格な人物らしい。何しろ、賞金を懸ける為にゲーム会社を乗っ取ったって噂もある位なのだ。
傍から見れば意味不明だが、この世間の注目具合自体が目的なのかも?
実際、コマーシャル性も抜群だったし、ゲーム筐体の売れ行きも跳ね上がったらしい。4倍速と言う訳の分からない筐体性能も、社会的に容認の方向へと進んでいるとの噂。
それが全て計算されたシナリオだとしたら、相当なやり手社長なのだろう。時間があれば、そこら辺をネットとかで調べてみても良いかも知れない。
『ミクブラ』専用の掲示板とかもあるらしいし、ゲーム知識はもう少しくらいは欲しい所。ネタバレは勘弁だが、基本的な知識が無くて苦労するのは馬鹿げている。
例えば最初の武器に、弓矢を選択してからの顛末なんてまさにそうだ。その事を口にすると、誠也が変な話を切り出した。
「そうそう、ネットと現代の逆転現象って聞いた事ある、恭輔君? さっき言ってた弓矢の話もそうなんだけど、バーチャ系の戦闘ゲームってリアル武術も応用出来るじゃない……ってか、運動神経なんかもそうだし、合成の手際とかも言うに及ばずなんだけど。
それを得るために、武芸を習う人が増えてるんだって、今」
――なんじゃそりゃ、今はゲームの為にそこまで努力する時代なのかっ!?




