やんちゃな面々
日曜日のスケジュールだけど、暇な午前中に妹達との語らい&琴音の部屋で、1時間の『ミクブラ』ログイン。それから午後は、喫茶店のバイトを5時間ほど。
夕方に解放されて、そこから恒例会が待っている。
その内容だが、小学校時代からのやんちゃな幼馴染たちと、集まっての夕食会である。中学校までは一緒だったのだが、高校からはそれぞれの道に進み始めて。
こんな定例行事でもないと、滅多に顔を見れなくなってしまった。そんな訳で毎週の日曜日に、こうやって夕食を一緒に食べる会が誕生した訳だ。
特に琴音が束ねる妹連合は、男達以上に仲が良いとの評判である。ちなみに妹連合は東雲家の明日香も、市川家の芽衣も、それから我が家の楓恋と杏月も全員中学生だ。
それに高校生の琴音を加えて、女子連合は何故か結束力が高い。男衆は逆に基本自由だ、高校が別々になってからその傾向も強くなっている。
それを妹連合+琴音が、何かと上手く纏めてくれている感じ。この週1回のご飯会も、まさにそんな思惑から開催されるようになった。
計画の立案は、やはり琴音を中心とする妹連合がメインとなっている。内容はだいたいがご飯会みたいなアバウトな感じで、夕方過ぎに開催が多い。
ゲームをやっている連中からすれば、この集まりはオフ会みたいなモノなのかも知れない。俺と妹たちは、その会話には混じれず残念だけど。
そのせいもあって、以前からゲーム参加を何度も勧められていた訳だ。
今回の賞金付き限定イベントの参加は、ある意味その勧誘に根負けした側面もある。本当は楓恋と杏月だけが除け者になってしまうので、避けたかったパターンではあるんだけど。
琴音の機嫌をあれ以上損ねても、後が怖いとの打算も働いてしまった。ただこんな憂いも、どうやら琴音の祖父の思わぬ助け舟で解消されそうで嬉しい限り。
俺の悩みを聞いた孝明老が、今週中にも家の方に筐体を3台分届けるって言ってくれてたのだ。本当に有り難い申し出だ、さすがお金持ちである。
そう言えば、肝心の妹たちにゲーム参加の意思を訊いて無かったな……俺と一緒にやるのなら、有無を言わさず限定イベントサーバになってしまう。
それだと、若葉マークの初心者にはかなり辛いかも。何しろ初っ端からソロエリアで、それをクリアしても過酷なPK騒ぎの街エリアが待っているとの話。
どうしたもんかね、まぁ本人達の希望を聞くのが先か。
琴音のライン報告によると、今日の恒例会のメインは何故か“ぜんざいパーティ”らしい。理由を問うたら、どうも“市川商店”に売れ残り在庫が大量にあったからとの事。
それを商店の跡取り息子である美樹也が、原価で処分したいと言って来たそうで。要するに冬に売れ残ったお餅やら小豆らを、この春の終わりに処分する手助けっぽい。
俺たちの集まりの食事会では、大体そんな感じが多いんだよね。俺はバイトがあるので、その集会の計画や準備には参加していない。
京悟と美樹也も同じく、美樹也は精々店の大量在庫の報告をする程度。完全に女子チームの主導で、日曜のこの集まりは催されている訳だ。
ただまぁ、男衆も面倒臭いと文句を言うほどでは無い感じでの参加ではある。何しろ女子連合に、胃袋をガシッと掴まれているので。
日曜の夕食会だ、美味しいモノを食べるのに文句など無い。
バイトも恙無く終わり、俺は美樹也の家へと歩いて向かう。昨日は琴音と妹達が迎えに来てくれたが、今日は夕食準備に既に会場入りしているみたい。
会場と言っても、つまりは市川商店の裏庭なんだけどね。美樹也の家はアイツの祖父母の代から、この町の商店街で商店を営んでいるのだ。
いわゆる老舗商店だ、まぁ美樹也は古臭いだけだと言ってるけど。八百屋に近い生鮮食品を扱うお店だけど、スーパーみたいにその他の食品も扱っている。
市川兄妹も、真面目に家の手伝いを子供の頃からこなしている。
俺の家も古くから、食材の購入にお世話になっている。もちろん最近のご時世に漏れず、駅前に大きなスーパーは何件か建っているのだけれど。
商店街だって良いモノだ、顔見知りには値引きやオマケをしてくれるし。買い物に安心感があるし、何より美樹也は幼馴染だからね。
それから妙な使命感も、生まれ育った街の商店街を廃れさせたくは無いと言うね。そんな市川商店のお店の裏側に、美樹也専用の離れプレハブ部屋がある。
お店と倉庫の細い通路を抜けた裏庭の、物置を改築した離れ部屋である。高校入学と共に親に譲って貰って、俺と京悟もこの部屋の改築は手伝った経緯がある。
改装はなかなか面白かったし、その分愛着もあったりして。そんな訳で俺も京悟も、ちょくちょくこのプレハブ小屋には遊びに行っている。
そして皆で集まる時にも、この美樹也の部屋の裏庭スペースは都合が良い。何しろ、大勢でイベントをこなす程度には広々としているのだ。
そこにキャンプ用のコンロやらテントやらを持ち寄って、食事会によく利用している次第。今日もそんな感じで、既にみんなが集まって騒いでいる筈。
琴音に一応、喫茶店を出る前にラインで報告しておいた所。もう始まってるから早く来て! との返信が、ほんの数瞬で帰って来た。
もう始まっているらしい、みんな食いしん坊だから仕方が無いのかな。俺もマスターに差し入れを貰ってるし、このから揚げも皆に確実に喜ばれるに違いない。
特に食い意地の汚い、男衆には絶大なパワーを発揮するのは確実。
一生懸命働いたので、それなりに腹は減っているけど……今日も休憩時間に賄いを出して貰ったので、そこまで性急な空腹感は無い。
日曜のバイト後は、だいたいいつもこんな感じで俺だけ遅れて合流する感じだ。俺は特に急ぐでもなく、商店街方面へと歩みを続ける。
いつも歩いている道なので、考え事をしていても全然平気だ。今日も良く働いたな、明日からは普通に学業に従事する生活が始まる訳だ。
考えてみれば、俺が『ミクブラ』を始めて夕食会に出るのは、今晩が初めてなんだよな。最近の悪友とのライン会話では、何度も触れられる旬のネタではあるけど。
どうも俺の真面目なゲーム結果報告を、2人には勘違いとかネタ認定で再々スルーされてしまうのが癪に障る。琴音もそうだけど、破天荒だとか規定外だとか変な単語で評されてしまうのだ。
それについても、直接文句を言わなきゃ駄目だな。
市川商店の裏庭、つまりは美樹也のプレハブ小屋の前はいつもの賑やかさを保っていた。主に女性陣が楽しげに作業に勤しんでおり、あれやこれやの賑やかな会話振りが俺の耳に届いて来る。
男性陣、つまりは京悟と美樹也はプレハブ小屋の開け放した縁側部分に腰掛けて談話中の様子。夕食の準備は女性陣が仕切っているので、奴らは蚊帳の外っぽい。
向こうもこっちを見付けて、ハイテンションで話し掛けて来た。
「恭ちゃん、やっと来た! ご飯の用意出来てるよ、メインのぜんざいはちょっと待ってね!」
「お兄ちゃん、お疲れ様! お握り持ってって~」
「おうっ、サンキュー、杏月……これ、喫茶店のマスターからの差し入れな」
琴音と杏月の言葉に、俺も差し入れを手渡しながら対応する。俺の持参した袋の中身を気にして、庭の奥から京悟がせっかちにも声を掛けて来ている。
それをまるっと無視して、京悟の妹の明日香が俺から受け取った差し入れをお皿へと盛り付けて行く。しかし夕ご飯のメインがぜんざいって……いや、文句は言うまい。
俺はそそくさと、杏月からお握りと沢庵の乗ったお皿を受け取る。それから空腹を満たしながら、市川家の賑やかな裏庭を見渡してみたり。
中庭はどこかの子供会の集まりのよう、長机が用意されていてそこに夕食が並んでいる。大皿に並べられたお握りは、それぞれ形が違っていて愛嬌がある。
野外用コンロには、大きな鍋が火にかけられていた。その隣では、何故か七輪が用意されていて、白いお餅が並べられて網の上で焼かれていた。
楽しそうにその火の番をしているのは、妹の楓恋である。
「市川商店の余り物を、ほぼ無料で買い取った感じだから……だから文句は言わないでね、お兄ちゃん」
「あら、恭輔さんはそんな狭量な性格じゃないですよね? 私の兄は、今日の夕飯に凄いぶー垂れてましたけど。
その代わり、今日の会費はたった200円ですよっ!」
「そりゃあ安くて助かるな、京悟は甘いの苦手だからな……芽衣もひょっとして、同じくぶー垂れてる口か?」
「なによっ、放っといてよ! 差し入れ持ってきたからって、偉そうにしないでよねっ!?」
丁寧な物言いの明日香に較べて、美樹也の妹の芽衣はいつもこんな感じである。産まれた時から反抗期と言われる所以で、兄と共にとんがった生き方を実践している。
ガラの悪さは京悟と張るが、女性陣の間では割と素直らしい。って言うか、ひたすら我を通す琴音や、品の良い明日香には強く憧れているらしい。
それからサポート体質の楓恋には、とにかく頭が上がらないみたい。そんな芽衣は女版京悟みたいな奴で、頭のつくりも残念な部類に入る。
それを女性陣、とくに楓恋が学術面をカバーしているよう。まぁ恐らくは、そんな弱みがストレスとなっていて、常時反抗的な態度なのかも知れない。
男性陣、特に兄の美樹也や俺に対する当たりは凄く強い気が。それなら彼女と似た気質の京悟には、似た者同士で怨念に近い憎悪が向けられているかと思いきや。
何故か一番懐いているみたい、俺は納得いってないけど。
その京悟の妹の明日香は、兄とは大違いの品の良さも持つ可憐な少女である。白い肌にストレートの黒髪、一見したら育ちの良いどこかのお嬢様然とした容貌を持っている。
そんなお淑やかな見た目に反して、子供の頃に兄と通った道場にガッツリ嵌まった経歴を持っていて。実は琴音に誘われて始めた『ミクブラ』に、一番適応しているのも彼女なのだとか。
琴音に言わせれば、明日香は戦術面で頼りになる右腕的な存在なのだそう。琴音に誘われてゲームを始めたのは、東雲兄妹も市川兄妹も同様ではあるモノの。
プレイスタイルには個性が出るようで、まとめ役を務めている琴音も苦労している様子。そんな琴音以外のメンバーは、初日から限定イベントにも参加を決め込んでいてそれなりに順調っぽい。
そんな感じで、現役プレイ組も盛り上がっているようだ。とは言っても、始めたばかりの素人の俺が、そんな集まりに貢献出来るかは甚だ怪しい所。
しかも限定サーバで、期待に添えるような活躍が出来得るとも思えない。その辺も含めて、今夜は話し合いたいと思っている。
「おいっ、お前の妹に噛み付かれたぞ、美樹也! 京悟、ちょっと座る場所開けてくれ」
「……あれでも店じゃ、客受けは良いんだ」
「なははっ、それって思いっ切りネコ被ってんじゃん……まぁ、見た目は可愛いからな、芽衣は」
京悟の隣に座り込んで、他愛ない会話をしながら俺はお握りを頬張る。実際、美樹也の妹の芽衣は、気は強そうだが整った顔立ちで客受けが良いのも頷ける。
市川兄妹は、兄の美樹也の方も涼やかな感じのイケメンである。浅黒い肌にやや彫りの深い顔立ち、長いまつ毛に広い肩幅は確かに女性受けは良さそう。
実際、中学時代はモテていたようだが、本人には全く自覚が無いと言う。勿体ない話ではある、しかも美樹也は高校からは男子校だし。
反対に、京悟の方は見た目からしてヤンチャと言うかヤンキー感が凄い。金髪に染めようとしたのを俺が押しとどめ、何とか茶髪で現在はキープしている。
主に俺の踏ん張りで、今の所それ以上のヤンキー化は防げている。コイツもバイトを掛け持ちしていて、暴れるのはバーチャ世界だけとの約束は守られている様子。
見た目に反して、激情型だけど素直で良い奴だと俺は思っている。
「それよりゲームについて、色々と話し合う必要があるな……賞金の分配方法とか、向こうでの集合方法とかアバターの成長方針とか。
琴音は、ギルマス職を恭輔に譲るつもりだと言ってたな。お前の方が仕切るの上手いからって理由だが、俺や京悟に文句は無いぞ?」
「賞金の分配方法って、気が早いと言うか獲る気満々だな……まぁいいや、ってか俺はこのゲーム初心者だって分かって言ってるのか?
ギルマスどころか、自分の事で手一杯なんだけどな……」
「琴音にキャンキャン言われるより、その方が数倍マシだろ。それより、琴音が進路のことも踏まえてしっかり考えろってさ!
オレら頭悪いじゃん、恭輔が会社立ち上げてオレらを雇うってのが、一番理想的じゃん?」
うわっ、凄い事考えてるな……琴音が悪知恵を吹き込んだにしても、こちらへの丸投げ感が酷い。でもまぁ、俺たちの中での役割分担は、子供の頃からの時間の中で出来上がってしまってもいるのも事実。
つまりは考えるのは成績の良い俺や琴音で、身体を動かすのは京悟や美樹也と言う。バーチャ世界の冒険も、概ねこんな方式で成り立っているらしい。
――うん、丸投げされても仕方ない……その辺も考えるべき?




