クライフ師匠の拠点
取り敢えずその日は、ログアウトまでに2時間程度は余裕があったので。1時間は弓矢の練習に、残りを師匠の畑の面倒を見る時間に費やした。
それから薪割りとか、ちょっとした家の中の改修とか。幸いクエで貰ったのと拾った工具で、ダブっているのが幾つかあったので有効利用する事に。
家の修繕に使ったら、師匠の拠点に置いて行く事にしようかな。調味料も同じく、師匠の台所はとにかく揃いが凄くお粗末なのだ。
それにも理由がちゃんと存在して、つまりは盗賊が半分以上悪いのだとの事。後の半分は、どうも自然災害&モンスター災害らしい。
それによって、本来あった南と西の断崖沿いの街道が遮断されてしまったのだ。その惨劇については、自分は確かに以前目撃していた。
西の断崖のつづら坂は、確かにワイバーンや巨大キメラによって断絶されていた。
あの坂を進むのは確かに怖い、護衛付きの馬車も軒並み落下して破壊されていたし。超大型捕食者の狩り場だしなぁ、騎士団でもアレは無理なんじゃないの?
彼らは枯れ谷を塞ぐ野党の群れを、駆逐するためにはるばる軍艦でやって来たらしい。ただし、キャンプ拠点に指定した場所が悪かった。
そこはどうも、ゴブリン大部族の縄張り内だったみたい。それで毎夜、嫌がらせの襲撃を受ける破目になって、野盗退治どころでは無くなっているのだとか。
阿呆の集団だな、移動するかさっさと用件を片付ければいいのに。それとも大部隊だと、そんな簡単な事も侭ならないのか?
とにかくそんな感じで、西方面の道は塞がれている始末。南の海沿いの道も、崖崩れとハーピーの群れが棲みついたお陰で通行不可能となったらしい。
そんな訳で、陸の孤島と化したこの『始まりの森』……ゲーム的に、ここを通り抜けるのは虹色の果実を5個集める以外に手段は無いそうな。
それに巻き込まれた師匠は、完全に被害者じゃないか。何とかしてあげたいけど、依然と野党と騎士団とゴブリン大部族の3竦みの状態は継続中らしい。
野盗かゴブリン部族、どちらかを滅ぼせは解決する問題なのかな。良く分からないが、この妙な状況だけは頭に留めておこうと思う。
さて、それでは……後語ってないのは、弓矢の訓練と師匠の畑の害獣退治の依頼の顛末かな。ちなみに工具と調味料の差し入れには、師匠に物凄く感謝された。
そのお礼にと、何とこの森に生っている虹色の果実の場所を全部教えて貰った。それによると、例の騎士団のキャンプ拠点の広場にまず1つ目。
それから、その向こうの湖の浮島に1つ、更に南海岸の断崖の道沿いに1つあるらしい。他は全部収集済み、まぁ4つ集まってるからあと1個で充分なんだけど。
とにかく良い情報を貰えた、知ったからには全部集めたいモノだ。ちなみにこれはネタバレでは決して無い、何故ならゲーム内で自力で獲得した情報だから。
だから断じて違う、ネタバレちゃうねんて!
おっと失礼、普段は口にしない変な方言が出てしまった。この助言への流れだが、俺がこの森にやって来た本来の目的を師匠に話したためだ。
そこで偶然、妖精を助けたり精霊の頼みを聞いたりと、色々と思惑外のイベントに遭遇した訳だ。本当に、1週間に満たない滞在で色々とあったなぁ……。
それはともかくとして、琴音は既にこの森での作業を全部終わらせた模様。それを考えると、こちらもあと何日間ここに滞在出来る事か。
せめて弓矢を使いこなせるまで、踏ん張りたいとは思っているんだけど。この森の滞在に時間制限は無いみたいだし、琴音さえ説得すれば何とかなるのかな?
畑仕事に関しては、水遣りや雑草抜きが主な仕事だと思っていたのだが。実は何ともゲーム仕様の形式で、つまりは近寄って来る害獣の駆除がメインだった。
しかも結構な種類がいて、地中からはモグラが、空からはカラスの群れが。更に樹の上からは、サルが実った野菜を横取りにやって来る。
それを全部、武器を振るって退治して行くと言うミニゲーム形式なのだ。そんな攻撃の波は割と熾烈だったが、レベルの高い敵は紛れてなかったみたい。
それほど苦労するでも無く、どうやら畑は守り切る事が出来た。
モグラは神出鬼没で、やたらとあちこちに穴を開けて野菜を盗もうとして来る。カラスはもちろん、群れを成しての空からの突然の襲撃が厄介。
サルに限っては、害獣の中で一番強くてとにかく武闘派だった。まずこちらの息の根を止めて、全部を分捕ろうと言う怖い魂胆が見え隠れしている。
しかも普通に、モグラやカラスと同じくらいの数、森の中から襲撃して来ると言うね。武器に棍棒を持ってる奴もいるし、石を投げて来る輩もいる。
こちらは新しい闇魔法の《バグB》の試運転的に、遠距離攻撃に慣れて行く構え。近寄る奴らは、海賊の短槍で串刺しにして行く。
新武器スキルの《二段突き》も、当然ながら積極的に使って行く。ちなみに《キャノンB》は封印だ、こんな畑の中では使えないっての!
この離れ大地の畑には、ちゃんと妖精のファーも同行してくれている。出発までは、大事に愛おしげに卵の温めに尽力を注いでいたファーママだったけど。
こちらが出掛ける気配を見せると、名残惜しげに卵から離れる仕草。そして律儀にも、俺の方へとついて来てくれた……何とも忠義心の高い相棒である。
今回は役に立ってなかったけど、まぁそんな時もあるよね。
それにしても、想像以上に騒がしい畑作業ではあったなぁ。間違っても、あれが通常の業務なんて事は無い筈なんだけど。
今度暇を見付けて、害獣避けの案山子でも作ってみようかな? 何しろこちらは、押し掛け弟子の身なので師匠には喜んで貰わないとね。
隠れ家も好きに使わせて貰う予定だし、積極的に周囲の細々とした仕事は片づけて行かなきゃ。これから数日お世話になるのだ、それ位は当然の事。
後はこっそり音を立てない様に、薪割りなどをこなしつつ。ちなみに畑仕事の作業のお礼にと、師匠からは生の野菜を数種類頂いてしまった。
このゲームをやってて、生野菜は初めて入手したなぁ。野生の果物は何度も食べたけど、あんまりお腹は膨らまなかった記憶がある。
それにしても、明日以降のインしてからの行動はどうしようかな。少なくとも、最初か最後の1時間は弓矢の練習をするって決めてるんだけど。
隙を見て、森の中央の安全地帯に戻ってみるのも良いかも。あそこにもクエ依頼書が湧くからね、そのチェックの意味も兼ねて寄る時間も取ろうかな。
後は……そうそう、師匠に教わった虹色の果実の回収も忘れずに。
そんな感じで、これが6日目の行動の全てだった。その後に時間制限が来たので、俺は師匠とファーに別れを告げてログアウトの運びに。
ちなみにファーは、当然のように卵の温め作業に戻って行った。
そんな感じで、探索は全く進まなかったのに割と波乱に富んだ1日だった。だと言うのに、何故か昨日の夜ほどのインパクトは無かった。
まぁ、あのレア種ラッシュを標準だと思うのは、実に危険な思い込みなのは分かっている。分かっちゃいるけど、何と言うかやっぱりねぇ?
とにかく何とか無事に6日目を終え、ログアウトをしての現実へと引き戻されて。そこから恒例の、琴音との軽いミーティングが始まった。
琴音の方は、割と簡潔に報告は終わった。つまりゴブリンの群れや、西の断崖のクマや山羊や大トカゲを相手に、レベル上げと装備集めに勤しんだ模様。
こちらの報告の番だけど、さてどう話を持って行こうか。取り敢えずやんわりと、騎士団とのいざこざの果てに、師匠と巡り合った経緯の報告を行なう。
それから師匠に弓矢を教えて貰えそうなので、もうしばらく森に籠るとも追加で口にした。それを聞いた琴音は、呆れ返った様子で思わずジト目に。
「……もうこれ以上、恭ちゃんを待ってても無駄な気がするから! 私は先に街に出て、そこで待ってるって事で良いっ!?」
「……はい……」
何だか盛大に呆れられた気がするけど、まぁ仕方ないか。明日は月曜日、再び学業とバイトと束の間の冒険稼業を頑張ってこなす1週間が始まる訳だ。
最近は毎日、琴音と『ミクブラ』をやっているから、冒険者の割合も普通に日常に食い込んでいる。それもまぁ悪くは無い、日々のスパイス的な役割をこのゲームは果たしてくれている。
琴音も最近機嫌が良いし、それが一番の効果かもね。
――例え俺の冒険内容に、彼女が呆れ返ろうともだ。




