念願のクエモンスターを発見する
そんなこんなで、初魔法に浮かれながらの近隣探索は続いている。ついでに残りの時間は、クエ消費に充てる事に決定したのは良いとして。
兎の姿は割とそこかしこで見掛けるのだが、退治依頼の戦闘蜂の姿が全く見当たらない。どうやら生息地域が、大きく違っている模様で探す手間も掛かりそう。
そんな訳で、取り敢えずは安全地帯を中心にウロウロしながら、兎モンスターとその次に多い芋虫モンスターを倒して行く事に。芋虫関係の依頼は無かったが、まぁコイツはたまに蚕糸を落としてくれるのだ。
この素材は粘着質を持つ糸なので、何かの罠とか合成に使えるかも知れない。
兎の肉と皮はあっという間に溜まったので、後はマップの補完もついでにこなして行く。数十分で安全地帯周辺の地形とモンスター分布は完了、30分経過で1度戻る事に。
クエ達成の報告で、何が貰えるのかが楽しみだ。ついでに2つ目の木切れも採集に成功して、これで予備の武器の目処もつきそう。
これはバット形の棍棒に加工しようかな、元の形もそんな感じだし。それより、まずは安全地帯に戻って最初にクエ達成の報告をこなす事に。
兎の肉と皮は、別々の着ぐるみタイプに渡すみたいだ。肉はヒツジNPCに渡すと、渡した半分の量の串焼きになって返って来た。
これは地味に嬉しい……正直な所、木の実や果実ではスタミナがちょびっとしか回復しないのだ。腐っても肉(いや、焼いてあるが)なのだし、腹持ちはずっと上だろう。
しかもこのクエ、繰り返しこなせるらしい!
これで、食糧問題に関してはずっと楽になったかな。幸いな事に兎の数は多いし、難敵では無いし。それより兎の皮を渡したイヌNPCの提示には、本気で喜びの声をあげそうに。
待望の装備の報酬だ、これでスカスカの装備欄が埋まってくれる!
――粗末な革の靴 耐久2、防+1
うわぁ、酷い……待望の靴装備だが、耐久値も防御力も無いに等しいな。ほぼ無料で貰ったモノだから、それを言ったら駄目なのか?
裸足よりはマシだけど、粗末シリーズから脱出は不可能なのか? 装備欄は取り敢えず1個埋まったし、これも繰り返し受けれるクエみたい。
塵も積もればナントやらの精神で、地道に集めて行くしか手は無いみたい。まぁ仕方が無い、今から作る武器に期待しよう。
材料はさっき収集した木の棒と、ついでに持ち手の部分に樹の蔦を使用。滑り止めにとの思いだったけど、残念ながら耐久値に劇的な上昇は見られなかった。
それでも手製の槍に次ぐ2つ目の武器は、何より使い勝手が良さ気でグー☆ 子供の頃に野球で慣れ親しんだ感触、これでモンスターを軒並みぶん殴って倒してやる!
いや、実はそんなに強い武器には仕上がらなかったんだけどね?
――粗末な木の棍棒 耐久4、攻+4(両手時+6)
手製の木槍よりは多少はマシ、両手でも振り回せるのがチャームポイントだ。俺が今、所持している武器の中では最高の攻撃力を誇る自慢の一品ではある。
少しずつ整ってきた自分のアバターの現状に気を良くして、俺はもう一度クエの進行状況をチェックする。もう一度ウサギ収集系をクリアするのはもちろん、残り時間でクエ対象の蜂を探そうか。
棍棒製作に手間を割かれて、実はあと45分くらいしか時間が残っていない。琴音の話だと、1日の制限時間を使い切ると酷いペナルティが襲って来るらしい。
毒状態のような治療不可の継続ダメージが、ログアウトするまで続くみたい。まだまだ弱い、こんな序盤でそんなモノを喰らったら恐らく1分持たずにお陀仏だ。
そんな破目に陥らない様に、余裕を持って安全地帯に戻らなければ。でもやっぱり、最初に受けたクエ依頼の報酬は色々と気になる!
そんな訳で、三度エリアに出てマップとにらめっこ。順当ならば『東のマップを埋める』クエの消化なのだろうが、東は海に出るとの琴音からの情報だった気がする。
海岸の近くに蜂の巣は無いだろうと予測して、自然と足は北から西の方向へ。こちらは確か、断崖絶壁の50メートルの崖地帯で、この『始まりの森』を隔離しているらしい。
俺の勝手なイメージとして、こっち側に蜂は巣を作ってそうな。
そんな思いでの探索は、まずは新しい武器に慣れる事からスタート。ノンアクティブな兎や芋虫を倒しつつ、たまに向こうから襲ってくる狼の襲撃に備えつつ。
狼も、不意打ちさえ気を付ければそんなに手強い敵ではない。体力や攻撃力は確かに高いが、そんなに変な動きはしないので仕留めるのは割と短い時間で済む。
むしろ近付いた時の兎のジャンプや、芋虫の糸放出攻撃の方が慣れるまでは厄介? それでもまぁ、自分のHPがレッドゾーンに突入した経験は未だに無い。
初日から無茶をすると、流石に琴音に本気で叱られてしまう。いやまぁ、既に叱られた後なのでどうでも良いって考え方もあるけど。
無茶はしない様にとの思いはあったが、標的の姿が見付からない焦りが俺を突き動かす。結果として、蜂を探して随分と西の方向へと移動を果たしてしまったようだ。
気が付いたら、高くそびえる断崖が森の樹木越しに窺えるように。
そして念願の羽音を耳がキャッチ、ただし敵はどうやら数匹で連帯飛行している様子。俺は咄嗟に、襲われないように思わず腰を屈めて茂みを壁に周囲を窺う。
ついでに、目視でも目的の敵の姿を拝む事に成功した。やっと見つけた戦闘蜂だが、しかしその群れの数は3匹とちょっと多い。
さて困った……コイツ等がアクティブでリンクしたら、困ったじゃ済まされない事態になってしまう。3方向からボコ殴りにされて、こっちが狩られる立場になるのは明らか。
新しい武器を作って持って来たのは、コイツに対しては運が良かったかも。槍みたいな突く武器だと、飛んでる大きくも無い的に上手に当てる自信は無い。
だからと言って、3匹まとめてはさすがに俺でも自信はない。とにかく手数が違うのだ、こちらが一撃を放り込む間に向こうは3回も攻撃して来る計算である。
新しいと言えば、そう言えば俺のアバターって闇魔法も覚えていたっけ。ただしあの魔法、射程が短くて3歩以上離れるともう届かないと言う短所が
かと言って、弓での攻撃は論外だしマジでどうしようか? 諦めて他の単独で飛んでる蜂を探すかなぁ、さすがに両手攻撃でも一撃で倒されてはくれないだろうし。
虫系の敵はHPは低い設定みたいだけど、芋虫でも倒すのに3~4撃は必要だった。いやいや諦めたらダメだ、工夫次第でイケるでしょ!
このゲーム、回復系のポーションはボタン1つですぐ使用可能……って、親切設計では決してない。ドロップ品の回収は自動なのに、変な所だけ厭らしく凝っているのだ。
つまり戦闘中に使おうと思ったら、鞄から瓶を取り出してその蓋を開け、それを飲むか傷口に振り掛けるしかないのだ。どっちでも可なのは、せめてもの優しさなのかも知れないけど。
それでもソロで多数を相手にするには、やはり回復を挟むしか手は無いような。2分ほど悩みながら観察を続けたが、どうも相手はばらけて行動してくれる気配はない。
仕方なく俺は、先程思い付いた作戦を講じる事に。
戦闘中に鞄からポーションを出して使うのは、どう考えても時間が掛かりすぎて自殺行為だ。それならどこかその辺に、蓋の空いたポーションを潜ませておけば良いんじゃないか?
ゲーム素人の浅はかな考えだが、策も無く突っ込むよりはマシだろう。幸いにも、地形を覚えるのは実はちょっとした自信がある。
下準備は入念に、ポーションを設置した場所を忘れてしまったら元も子もない。それから戦闘中は、パニックにならずに冷静に行動すべし。
当然だが、最初の一手は是非ともこちらが取りたい。数の不利は、これでどうにか解消出来る……と思う。自棄っぱちなどでは無い、正解の手順は心の中で出来上がっている。
――そんな訳で、蜂の群れ退治の作戦スタート。




