それは古びた宝箱
初撃を躱せたのは、ひとえにファーのお陰だった。無様に尻餅をついてしまったけど、そんなのは痛みの内に入らない。
コイツの名前と正体はすぐに判明した、あの有名な擬態モンスター“ミミック”である。つまりは宝箱だと浮かれて近付いた冒険者を、罠にかける凶悪な敵だ。
そいつは、体勢を崩した俺にも全く容赦せず追撃を仕掛けて来た。何本もの蟹のような脚で、一気にこちらとの距離を詰めて来る。
そしてメインの太い脚で、勢い良く突き刺し攻撃をして来た。
反撃の体勢を整える間もなく、俺はその攻撃に体力を削り取られて行く。見える範囲では、古びた宝箱から昆虫の節足が幾つも生えているような敵である。
本体はどうやら、あの宝箱の中に隠れているっぽい……ズルいな、それじゃ手出しが出来ない。魔法でもあれば、直接箱の中へと撃ち込めるかもだけど。
それ以外だと、攻撃の手段が極端に狭まってしまうような……取り敢えず、多様に伸びる節足を攻撃すべき? 今の所は、それ位しか反撃の方法が思い付かない。
盾を取り出して片膝立ちになるまで、2割のHPを持って行かれた。闇魔法の《Dタッチ》をお返しに飛ばしたが、効き目はイマイチで残念。
暗闇状態にもならないようで、元気そのものな箱型モンスターである。腹が立って仕方が無いが、ここは慌てず慎重に考えを巡らせるべし。
コイツ相手に、短槍で突き合戦を挑むのは少々分が悪い。相手の方が手数が多いうえ、箱の部分を突いてもあまりダメージにはならないのだ。
だとしたら、やはり蟹のような節足を纏めて殴りつけようか? それも良いが、こいつの怖い所は長く伸びる節足の連続突き攻撃だ。
これを前にして、盾を仕舞うのはとても勇気がいる……などと思ってたら、酷い多段攻撃がやって来た。その名も《四段突き》と言って、盾越しにも凄い衝撃が!
いやいや、無理ムリ……盾を外して両手武器なんて自殺行為ですよ、ハイ。既に体力半減ってナニ!? こっちはまだ、ろくに攻撃を仕掛けてないってのに。
取り敢えずは短槍に《風属性付与》を掛けて、焦らずじっくり殴り合いだ。敵の攻撃は丁寧にブロックして、こっちの攻撃は箱以外の場所に命中させる。
ところがコイツ、こちらの攻撃に興が乗り始めると箱を閉じてしまう特性が! それって、こちらの立場からすると物凄く腹が立つんですけどっ!
何とか《落とし突き》で節足を掻い潜って、本体に攻撃を命中させられないモノか。もう少しリーチが欲しいな、でも持ってるのは短槍だしなぁ。
それでも付与魔法の恩恵は素晴らしい、敵のHPは段々と減って行っている。無理して、難しい位置の本体を攻める必要も無いかな。
などとと考えていたら、何と敵にも回復技があった様子。しかも《体力吸収》って……ヤバい、さっきからこっちは回復してないってのに!
焦って周囲を確認したら、ファーがブンブンと小さな手を振って、ここにポーション瓶を置たよのアピールを必死でしていた。
さっきの休憩で確認した、俺達の新コンビネーションである。
何度かの試行錯誤の末、俺達は素晴らしい発見に至ったのだ。つまりはファーの鞄にも、ポーション瓶が丸ごと入るのが分かったので。
戦闘で俺がヤバくなったら、目立つ場所に置いてくれとの作戦なのだ。これでこちらの戦闘持続能力は、飛躍的に上昇する見込み。
瓶の蓋も彼女はちゃんと開けられる、少々時間はかかるけどね。ペットボトルのような捻り型の蓋でなく、コルク式なのが微妙に有り難い仕様だったり。
とにかくナイスタイミング、俺はそこまでダッシュして一気にそれを飲み干す。
ってか、妖精が陣取っていたのはもう1つの宝箱の上だった。うん、これ以上目立つ場所は無いな、お手柄だぞとファーをひとしきり褒めそやして。
体力も何とか安全圏まで回復して、さて反撃だと相手に身体ごと向き直る。その視界の先で、ミミックもヤル気満々のファイティングポーズ。
ちなみに、今気付いたけどコイツってばレア種だったみたい……見事に黄色ネームで、やたら手強い仕様なのも頷けると言うモノ。
そこからの攻防は一進一退、とにかく体力の削り合いとお互い回復を挟むサイクル。こちらはSPが溜まる度に《捻り突き》を放つが、向こうも新たな技を披露して来た。
派手に泡が立ち上って視界を奪われる、《バブルシャワー》と言う特殊技の反撃が。うわっ、視界が遮られる上に何か滑る……性質が悪いな、コイツ!
でもまぁ、あの極悪な多段スキル技でなくて良かったと言う思いも胸中に。盾の防御に失敗したら、マジで一撃死の可能性すらある怖い技なのだ。
下手に長引かせたくない戦闘には違いなく、やっぱりチマチマ削るのは愚策かな。しかし一気に削るにしても、このミミックは防御技も持っている。
つまりコイツは、形勢が悪くなると宝箱と言う殻に閉じこもる技を持ってるのだ。そうだ……それならば、それを逆に利用出来ないかな?
咄嗟に思い付いたあやふやな作戦だが、上手く行くかは運次第。ギャンブル的な勝負に出るのは、ハッキリ言って不安ではある。
だけど胸中の心配をよそに、身体は自然と動き出していた。その前に、回復し切れなかったHP分を、敵から《Dタッチ》でちょこっと拝借する。
敵は僅かに身じろぎしただけで、嫌がる素振りも見せずの余裕の表情。逆に大技のモーションに入った模様、こちらも盾を前に突進して行く。
そして《四段突き》と《落とし突き》の、派手な突き技が戦闘空間を支配する。
圧倒的に分が悪いのは分かっていた……って言うか、ちょっとでも回復を上乗せ出来ていて良かった! こちらの体力は、今の交錯で残り1割まで激減していた。
だけど作戦通りに、突進の勢いで完全に奴の上部を取る事に成功した。ちょっとした走り高跳びの要領だ、今の俺は槍を手放して、両手でミミックの箱の蓋に貼り付いている所。
相手はこちらの姿を視認出来ないのか、変な節足の動きの末に再び蓋を閉じようとしている。ただし、隙間に放り込んだ短槍が、箱がきっちり閉じるのを防いでくれていた。
今がチャンス、ここぞとばかりに俺はベルトのポーチからありったけの水晶玉を取り出す。それから僅かに開いている隙間へと、贅沢に一気に放り込んでやった。
ついでに大猪の牙の短槍を引き抜くと、ミミックは律儀に箱を完全に閉じてしまった。そして真下から突き上げる衝撃と、くぐもった間抜けな爆発音。
そして哀れなミミックレア種は、そのまま頓死の憂き目に。
ドロップとスキルPの入手の告知が、相手の討伐をこちらに知らせてくれた。やったね、割と格上っぽかったけど、何とか倒せて良かったよ。
スキル4Pの報酬と、しかもレベルアップのオマケ付きは嬉し過ぎる。今夜も無事にレベルアップ2つか、ヤスケの成長は好調って事でいいのかな?
またスキルPが余って来たな、何に使うか考えなきゃ。そしてミミックのドロップ結果を知って、俺はしばらくの間悶絶する破目に。
《四段突き》のスキル技が出たよ……だけど長槍スキルなんだよ!
くっ、悔し過ぎる……どこかで短槍の四段突きと交換出来ないかな? 無理かぁ、くそ~っ! 仕方ない、他の報酬を眺めて心を癒そう……。
ミミックは流石に、宝箱レア種だけはあって色々と落としてくれた。他にも冒険スキル《隠密》に金のメダル×3枚、更にはガチャ券×2枚に水の水晶玉×4個、魔石(小)にポーション(中)×4本。
後は宝石各種に、現金が8500モネーほど。
レア種にしてはやたらと豪華なドロップ、更には隣に本物の宝箱もあると言う。こちらの中身は、普通に開封から波乱なくゲット出来た。
そっちの中身だが、まずは装備では護りの腕輪|《硬化》と庭師のエプロン。武器では枝切り鋏と言う、両手鎌カテゴリーの物が貰えた。
庭師と枝切り鋏、何だか栽培師チックだなと思っていたら。他にも『魔法の腐葉土』や『銀葉樹の苗木』、それから『壊れやすい鉢』や『魔水連の球根』や『淡い水瓶』と言う栽培アイテム一覧が出て来た。
どうやらこの遺跡は、そっち関連の研究所だったらしい。
その中で当たりの報酬は、『皆伝の書:補正』と『魔法の銀葉』の2つだろうか。皆伝の書は、前に武器スキルのスロットが増える奴を貰ったけど。
こちらの方は、どうやら補正スキルのスロットを増やしてくれるらしい。普通に嬉しいけど、初見の魔法の銀葉もなかなかの優れモノ。
こちらはMPの上限アップアイテムらしい、魔法の所有数も増えたし丁度良い感じ。これで俺のアバターも、増々隙が無くなって来たかも。
これでどんな強敵に出遭っても、負けないアバターに近付いたかな?
――いやまぁ、例の巨大キメラには到底敵いそうもないんだけどね。




