腐れ縁同盟とウエイター
コーヒー配達から戻って来たら、既に京悟と美樹也が遊びに来ていた。いつものお気に入りの席(そこだと比較的、仕事中の俺と歓談がしやすい)に陣取って、注文も通っている様子。
軽く手を挙げて挨拶して、マスターとおかみさんに戻りましたと報告。夕方近くのこの時間は、比較的お店も空いていてのんびりと出来る。
この2人は、それを狙い澄まして来る一応は店の常連である。だからマスターも知った顔で、相手をしてあげなさいとの頷きは心得たモノ。
何しろ俺の知り合いも、週末に限っては結構な数来店してくれるのだ。さすが地元である、俺もお店の売り上げに貢献出来て喜ばしい限り。
実際この喫茶店は、客層も穏やかで働き易いのは事実。そんな中の異分子、まぁ見事なまでに異彩を放っている俺の腐れ縁な2人の幼馴染だったり。
俺が近付くと、京悟は早速スマホをよこせと乱暴な物言い。琴音辺りから聞いたのだろう、そして呆れたアバターになってるみたいな噂が流れて行ったとの推測が。
美樹也はいつもの澄まし顔で、コーヒーを美味しそうに啜っている。
「うおっ、噂に違わず凄いな、お前のアバター……何でレベル10しか無いのに、称号を2つも持ってるんだっ!?」
「ふむっ、聞いてた通り武器スキルも複数取得してるな。ってか、最初に範囲技を取得してるってラッキー過ぎ……」
「本当だ、凄ぇな……うわっ、幸運値がアホみたいに高ぇぞ、このアバター!」
「その代わり、魅力値が壊滅的に低いな。この辺は混血の典型的パターンだな、森を出て街に入ったら苦労するぞ……」
やかましい、他の客もいるんだから少しは自重しろ。アホとか大声で言うな京悟、壊滅的ってのも少しはオブラートに包め、美樹也!
2人は尚も、俺のアバターの解析と言う名の粗探しに夢中。特に従者の存在には突っ込みが殺到、商人から貰ったとの返事に2人の呆れ顔がシンクロする。
そして大物か無知の所業だなとのコメント、放っとけっての!
向こうは1年と少しのゲーマー歴だが、結構な時間『ミクブラ』をやり込んでいるらしい。それぞれの妹達も巻き込んで、琴音と一緒に通常サーバで“ホーム”を作って1年近く活動しているらしい。
完全に身内だけのこの“ホーム”だが、言ってみれば冒険者ギルドとか同盟みたいな感じらしい。今は3年選手の琴音がマスターをしているが、この限定イベントでは俺にその席(或いは責?)を譲ってくれるとの事である。
良く分からないこだわりだが、皆もそれに同意してるそう。つまりは腐れ縁同盟である、それなりに強い絆もあるし、既に定まっている役割分担も存在する。
つまりは俺がリーダー的な役割を、リアルで毎回押し付けられているって感じ。それに付随して、琴音が姐さん的な位置に収まっているのは如何なモノか。
京悟と美樹也もそれを面白がって、バーチャル世界でもそんな感じの遊び方をしてるらしい。まぁコイツ等は、何も考えずに暴れる場所があれば良いだけな気も。
今回の限定イベントは、そんな血の気の多さを最大限に発揮出来る場所なのかも。言ってみれば無礼講でルール無用な世界観、野獣共が解き放たれてしまった的な。
お前らはどうなのと、一応おざなりに質問を飛ばしてみたら。イベント初日から妹達と参加し始めて、それなりに順調に合流まで漕ぎ着けそうって話。
このゲーム、種族が違うと合流するのに苦労するらしい。
「俺達が魔族ベースで、妹達が獣人ベースだからさ……本当は最西の港町じゃないと合流出来ないんだけど、限定イベントの仕様で中間の街が出来ててさ。
まずはそこまで移動して、Uターンして妹達の街に迎えに行くって感じかな」
「詳しく説明すると、始まりの森に5日、スタートの街で街間移動許可を貰うのに5日。それから新しく出来た中間の街に向かって、妹のいる獣人の街にくの字ターンって感じだな」
「そうなのか、元サーバのゲームやった事無いから全く分からないけど……街同士を移動するのに、許可がいるのは初めて聞いたな。
何か大変そうだな、俺達の合流はいつになるやらだな」
大雑把な京悟の説明より、美樹也の方が的確に細かい部分を解説してくれて情報が伝わり易くて助かる。街間の許可は、力の無い冒険者の移動の際の事故を防ぐためらしい。
数々のミッションをこなして、危険な移動に耐えられるだけの強さを示す必要があるそうな。そしてほぼ後衛仕様(獣人なのに)の妹達の為に、わざわざ護衛役を買って出たっぽい。
妹想いと言うか、ここら辺は流石お兄ちゃんズである。ちなみに街の配置関係が良く分からないと文句を言ったら、扇子をイメージしたら分かり易いと教えて貰えた。
扇子の持ち手を左側にして、その要の部分に最西の港町がある。この港町トーハンが“試練の島”の最大の街であり、ここから船を使って冒険者達は本大陸を目指す訳だ。
元サーバではそんな感じらしく、それまでに大抵の冒険者は中級職にチェンジし終えているそうな。恐らくこの限定サーバでも、流れは同じじゃないかとの2人の予測である。
それで扇子の扇面、一番広い地紙の部分に4つの種族のスタートの街が等間隔に並んでいる。そんなイメージで、上から妖精族、人間族、獣人族、魔族と言う並び。
ちなみに、スタートの街同士の往来は全くの皆無だとの事。まぁ実際は、険しい地形なので行き来が大変と言う設定となっている模様。
それが簡単だと、ゲーム的にスタートの街を種族別に分けた意味が薄らぐのだろう。とにかく冒険者は、西へと進むしか無い仕様らしい。
ただそれだと、後衛仕様の殴り合いが苦手な冒険者は、移動にとても苦労する。仲良く助け合う元サーバの風潮なら良いが、限定サーバは賞金の分捕り合いである。
そこで他人の好意は当てにならないと、世話焼きお兄ちゃんたちが一肌脱ぐ予定らしい。スタートが1週間遅れたこちらは、琴音と人間族のスタートの街で合流予定。
そんな訳で、京悟と美樹也みたいな面倒な事にならずに済みそう。その点は良かったが、出遅れている分を取り戻せるかは全くの未定。
まぁ、向こうも合流に手間取って足踏み状態みたいだしね。その隙に合流も、恐らく可能になって来るんじゃないだろうかと軽く考える俺であった。
「明日香はともかく、芽衣も後衛なのか、美樹也? ってか、運動神経的には明日香の方が前衛やってそうだけどな……」
「芽衣は元サーバの時から後衛だ、ただし魔法ぶっ放すタイプの攻撃魔法使いだけどな。だから装備は、殴られたら終わりの布装備がメインだな。
そんな訳で、どうしても盾役か前衛がいないと不味いんだ……」
「明日香の方も、本職は弓矢使いだな……薙刀系も勧めたけど、本人は後衛の方が体に馴染んでやり易いみたいだから。
ただ最初のソロエリアでは、さすがに長槍も使ってたみたいだぞ?」
そうらしい、ちなみに京悟は大鎌使いのバリバリの前衛職、美樹也は盾と片手斧の盾職を担っているそう。ちゃんと覚えておかないとな、バーチャ世界でもつるむの確定だし。
まぁそんな4人と琴音を合わせて、5人パーティで元サーバでは遊んでいたらしい。6人目の俺は、自動的に空いてる前衛に組み込まれる予定との事。
なのでしっかりと鍛錬するようにと、釘を差されてしまった。
そんな感じのゲーム話のみの会話って、珍しい現象を残して奴らは去っていった。余り長居をしないのは、明日も会える事を知っているから。
高校が別になって、何故か自然に出来上がった毎週日曜の集会と言う名の夕食会である。それぞれが妹達も連れて来るので、結構な大人数の賑やか食事パーティだ。
琴音も含めて総勢8名、内5名が女性と言う姦し過ぎる集会である。そりゃあもう、毎回賑やかで騒がしい夕食会になっている。
ただその恒例行事、余程の事が無い限り毎週欠かさず続いている。つまり何だかんだと、男衆や妹達を含めて評判は良いみたいだ。
別に俺の発案じゃないし、自然発生的な流れだった筈なんだけどね。野郎同士は仲は良いけど、女性達もそれに輪を掛けて仲が良いのが原因なのかもね?
女性陣の最年長、琴音が妹たちを上手く纏めているっぽい。
しばらくして、その当人の琴音が楓恋と杏月を従えて来店して来た。もうすぐ俺のバイト時間も終了を迎える、それが分かっている時間帯での訪問だ。
しっかり者の楓恋はともかく、甘えん坊の杏月はとっても楽しそう。色々と奢って貰ったのかも、手には買い物袋が幾つか窺える。
いつも甘やかし過ぎないよう、琴音には言ってあるんだけどな。甘え上手な杏月に掛かっては、それも虚しい忠告なのかも知れない。
琴音ばかりを責めるのは酷かも、ってか楓恋はバツが悪そうにこちらと目を合わそうとしない。うん、結構な額を奢って貰ったっぽい……後でキツく叱っておこう。
それはともかく、この3人の来店で何だか一気に店内が華やかになった気がする。俺の気のせいか、はたまた身内贔屓が過ぎるせいかな?
琴音は早速、親戚筋の嘉村夫婦に挨拶を交わしている。妹達はいつもの席を確保、ってかそこはさっきまで京悟と美樹也が居座っていた席だ。
ご機嫌な杏月は、早速今日の遊び倒した内容を俺に報告し始めている。そこまでお気楽になれない楓恋は、メニューで悩んでいる素振り。
まぁここは俺の奢りだ、ゆっくり悩め?
――総じていつもの日常、いつもの週末事情だったり?




