週末の諸事情
ようやく週末だ、今日は土曜日だけどウチは進学校なので授業はもちろんある。半ドンだから、お弁当を用意しなくて良いのがせめてもの救い。
そんな訳で、習慣でいつもの時間に起きたけど割とゆっくりと朝の支度をこなす。ちなみに妹達は土日完全休みで、まだ夢の中らしく静かなモノ。
うるさくして起こさないよう、注意して朝の準備をしないと。そして午後からはバイトが控えている、勤労少年の鏡みたいなスケジュールである。
なかなかに大変だが、幸い勤め先がとっても親切で働き易くて助かっている。
知り合いの中年夫婦の経営する喫茶店なので、こちらの学校行事にも鷹揚に対応してくれる。試験前には休みを取り易いし、長期休暇には連日出勤させて貰える。
物凄く好条件のバイト先なので、かえって恐縮だったり。ただまぁ、時給は平均で月の稼ぎも精々知れてるのはご愛敬と言った所。
着替えを済ませた俺は、もう一度頭の中で今日のスケジュールを反芻する。そしてコーヒーを飲んでまったりしてると、年長の妹の楓恋が起きて来た。
全く眠そうな素振りも見せず、朝の挨拶を交わして同じテーブルに着いて。特に何をするでもなく、テーブルの上のジャムの瓶を眺めている。
何か言いたい事でもあるのかな、こういう時は変に促さないけど。
「……琴音ちゃんがね、今日のお昼から買い物に行こうって。最近ずっとお兄ちゃんを独占してるから、その埋め合わせのつもりなのかもね?
2人でやってるゲームの方は、上手く行ってるの?」
「ああ、琴音らしい行動原理だなぁ……ゲームに関しては、正直良く分からないな。サバイバルを頑張って生き延びても、敵をたくさん倒しても、それって勝利じゃないんだぜ?
賞金獲得の条件がまだ発表されて無いから、今はゲームを楽しんでる感じかな?」
「そっか、それなら良かったね……お兄ちゃんは色々と忙しいから、ひょっとしたら無理してるのかなって思ってたけど。
そう言えば、京悟さんと美樹也さんもそのゲームやってるんだっけ?」
「そうそう、何か速攻メールが来てたな……今日も2人して、喫茶店に遊びに来るってさ。お前達も、時間に都合付けて寄って行くか?」
京悟と美樹也は、まぁ毎度おなじみの俺の幼馴染である。ただし環や誠也が優等生側の友達だとしたら、全く逆サイドの腐れ縁だったり。
とにかく野蛮で喧嘩っぱやくて、小学校の頃から2人共に問題児だった。主に京悟の方だけど、そんな飢えた野良犬みたいな性格の学友である。
実は俺とも、過去には何度か殴り合いの喧嘩をした事があったり。まぁ、腕力と言うか殴り合いで言えば京悟と言う男は途方も無く強い。
スポーツにでも打ち込めば、特待生でも取れたんじゃないかと思う程には運動神経は秀でている。その代わり学力が足りないのは定番と言うか、今は地元の工業高校に通っている。
美樹也に関しては、またちょっと傾向が変わって来る。喧嘩が強いのは京悟と同じなのだが、何と言うかこっちは弱きを助け強きを挫く的な設定が大好きで。
普段は寡黙なキャラなのだが、強い奴がいたら喧嘩を吹っ掛けるみたいな。この2人が中学でつるみ始めて、段々と先生達でも手に負えなくなって来たのだ。
そこでその歯止めとなる役割が、何故か俺の元へと廻って来た感じ。まぁ、奴らとは小学校の頃から、既にお互いに面識があったのは事実ではある。
そして琴音の我が儘な立ち振る舞いから、しばしば「お前生意気だな」的な抗争に発展する事もあったのもまた事実。
気の強い彼女は、相手が上級生でも多人数でも、思った事を口にするのを躊躇わない。遊び場を横取りされたり友人が苛められたりすると、癇癪を起してソイツに食って掛かるなど日常茶飯事なのだ。
その後の喧嘩騒ぎに、俺はこの2人の腕力を借りる事を思い至った次第。
まぁ、昔から小狡い計略を練るのは得意だったからなぁ。京悟の家は片親で、それなりに苦労して子供達を育てていると知ってたし。
美樹也も鍵っ子と言うか家が商店で、家に帰っても夕食すら親と一緒に食べられない家庭だった。そんな感じで、俺達の接点はそれなりにあった訳だ。
そんな彼らを言葉巧みに取り込んで、まぁ俺も多少はヤンチャをしていたってのが中学時代の事である。その辺のイタい昔話は、また今度と言う事で。
しかしそんな内申書で、よく進学校に受かったな俺……。
とにかくそっち系の幼馴染2人も、琴音と同じく高校進学から例の『ミクブラ』を始めたらしい。そして琴音とギルドを作って、バーチャル世界で割と無双をしているのだとか。
そのせいで、俺も当時は何度も誘いを受けたモノだ。京悟と美樹也の妹達も、兄貴に誘われてゲームを始めてしまったと言う経緯もあって。
この3家庭の兄妹はとても仲が良いのに、今はウチの妹達だけそのゲームに参加してない現状が。う~ん、その辺りの環境は何とかしてあげたいなぁ。
ちなみに幼馴染の2人の妹達は、楓恋と同い年で中学も一緒だ。学校でも仲良しらしく、恐らくゲームの話題も度々上がっているのだろう。
ウチの家計的には、3人分の筐体を購入なんてのはまず無理。それを妹達も分かってるので、変におねだりとかはして来ないけど。
そこに俺だけ琴音の家で、『ミクブラ』をプレイし始めたと言う微妙な立ち位置。
まぁ俺としても、今回の限定イベントだけの参加予定なんだけどね。賞金イベントが終わったら、ゲームからは綺麗に身を引くつもりではある。
琴音には文句を言われそうだが、それは仕方ない。楓恋も文句を言うつもりは全く無い様子、本気で俺の身体の心配をしているだけなのだろう。
勉強にバイトに友達付き合いに、まぁ色々と忙しいのは確かだし。だから妹達に心配かけまいと、俺は高校を卒業したら就職って決めていたのだ。
琴音によって、その予定も何だか変な方向に捻じ曲げられそうな予感がヒシヒシ。そんな行ないは慣れているし、今回は我が儘を聞いてしまった俺にも非がある。
う~ん、本当にどうしようか? 楓恋はともかく、杏月は不公平だと拗ねているかも知れない。丁度明日がみんなで集まる日だしな、なるべくゲームの話はしない様に京悟と美樹也にも釘を刺しておかないと。
本当にね、ゲーム1つで色々と悩み事は尽きないよ。
土曜日の学校の授業ってのは、それはもう雰囲気からしてとても気怠い。他の中学や高校が休みとか知っていると、特にその濃度が増す。
それでも何とか全科目が終了して、ようやくの事皆が待ち望んだ放課後だ。
もっとも俺は、ここからバイトに出向しての勤労時間が待っている。授業から解放された同級生達が、騒がしく部活動やら遊びの予定を話している中。
独り帰り支度をして、真っ直ぐに学校からバイト先に向かうと言うね。いやその前に、速攻で琴音と誠也に捕まってしまったけど。
「恭輔君、もうそろそろ始まりの森を突破じゃない? 攻略具合はどんなかな……何なら姉ちゃんに逆らってでも、僕だけスタートの街に戻って護衛でも案内でもするよ?」
「恭ちゃん、いっぺん家に帰ってから、楓恋ちゃんと杏月ちゃん連れて遊びに出るね? 夕方ごろに喫茶店に寄るかも、京悟がゲームの話をしたいって煩いから!」
「あぁ、何か始まりの森で色々と追加のクエを受けちゃってさ。それが終わるまで、もう少しそっちにいる感じだから。
誠也はこっちに、そんなに気を遣わなくていいぞ。姉ちゃんに、でっかい雷落とされる危険は回避しろ?
それから楓恋から出掛け際に聞いたよ、琴音に誘われて遊びに行くって」
ゲームを始めてから、同じ趣味を持つメンバーの纏わり付きが酷くなってる気もする。それを適当にあしらいながら、騒がしい一行は校門を目指す。
大半がゲームの話題だけどね、京悟と美樹也も恐らく同じ症状なのだろう。高校生になってつるむ時間も少なくなったから、そう言う意味では待望のシチュエーションなのかも?
今はソロエリアだけど、俺も合流は待ち遠しい気が。
――記憶の中で、あの荒ぶるトリオの再結成かと警鐘が鳴り響くのだった。




