ログイン4日目
冒険者として4日目のインともなると、色々と慣れて来……って、ここはどこだっ!? いつもの安全地帯じゃな……おおっと、そうだった。
森の精霊に頼み込んで、簡易結界張って貰ってたんだっけ。昨日は東の森でレア種2連戦の後、海辺の隠された洞窟の澱みの駆除を依頼されたのだった。
それに手古摺ってしまったせいで、イン制限時間ぎりぎりにその洞窟を脱出。お陰で、森の安全地帯に戻る時間が無かったと言う。
とんだ失態で危険区域でログアウトする所だったが、精霊もそれを申し訳なく思ったのだろう。安全な場所を提供してくれて、有り難く昨日はそれに乗っかった訳だ。
お陰でインした瞬間、プチ混乱状態に見舞われてしまった。しかし、いきなり無防備な状態で、モンスターに襲われるような事態は防げたみたいで何より。
素直に感謝、ってかラマウカーンはどこだ?
ファーはいつもの様に、上機嫌で俺の顔に飛びついて来た。それからお互いに挨拶を交わしながら、俺は問題の森の精霊の所在を尋ねてみる。
結界は普通に作動しているっぽいので、どこかにいるとは思うんだけど。そんな俺の質問に、ファーはアッチだよと深い茂みを指差した。
どれどれと覗いてみると、大きな鳥のフォルムの存在を確認……ってか大き過ぎるだろ、とてもあの鴉モドキには見えないんですけど。
それは真っ白な羽根の、人より大きな白フクロウだった。
「おお、戻られたようだな、若き冒険者よ……これは失敬、ワシもお主と同様にしばし微睡んでおったが故……」
「あっ、はい……」
そう言うと白いフクロウは、ポンッと一瞬で鴉モドキの姿へとチェンジ。どうやら彼の本当の姿は、白くて立派なフクロウらしい。
どうして見栄えの悪いその姿になるのかと訊ねてみると、森の精霊はキョトンとした表情に。それから間を置かず、もっともな返事が戻って来た。
「お主らも修行中には、別の動き易い衣類に着替えるだろう……フム、澱みが消えたお蔭で羽根の艶も少しだけ良くなった様だな……」
「それは良かった、お役に立てて何より……それより、昨日の冒険で主要武器が2つも壊れちゃって。少しばかり工作をしたいんだけど、そこら辺に落ちてる木切れを拾って使っても平気かなぁ?」
一応念の為に、森の精霊にその辺の材料を拝借するお伺いを立ててみる。何しろ彼は、この『始まりの森』の主であるらしいので。
別に構わんよと、それが生物の営みの内であるならばとの返答を貰い。なるほど尤もだ……小鳥が木の実を啄ばむのも、狼がウサギを狩るのも生物の営みの内。
それが森から、物を盗った事にはならないとの解釈らしい。鴉モドキへのサイズチェンジも同じ事、人間だって運動する時は体操着に着替えるじゃないか。
精霊の“常識”はこちらと違うようで、実はそんなに差異は無いみたいだ。それより彼ほどの偉大な存在でさえ、更なる高みを目指して修行しているのには驚き。
目指すべき場所がどこかは知らないが、こちらも頑張らねばと身の引き締まる思い。とは言え、まずは装備品の作り直しからなんだけどね。
そんな訳でファーにも協力して貰って、手頃なサイズの木切れをまずは2本回収する。それから精霊が好意で張ってくれている安全地帯で、いそいそと修繕の準備を開始。
おっと、その前に自分がどんな素材を持っているかチェックしなきゃ。そう思って鞄の中を調べると、まぁ見事にパンパンで驚いた。
昨日のモンスターやレア種との連戦の結果も然る事ながら、最後の沈没船で発見した3つの宝箱の中身もビックリする程に多かったのだ。
ってか、一部は鞄に収まり切らなかったので、仕方なく海賊船長の落としたマントに包んで運び出した次第……マントもまさか、自分が風呂敷代わりにされるとは思わなかっただろう。
性能は素晴らしいけど、しばらくはこのまま風呂敷代わりに甘んじて貰って。
まぁ、それ程に昨日の最終戦と宝箱の中身からの報償が多かったって見方もある。量もそうだけど、質も恐らく凄いんだろう……時間に追われたせいで、確かめる術も無かったけど。
うん、良く分からないモノも幾つか混ざってるなぁ。琴音やベテラン勢にその性能は訊き出せたけど、その使い心地や自分との相性は依然として不明なまま。
取り敢えず、昨日の冒険の主要な取得アイテム及び装備品はこんな感じ。
大蛾と大猪レア種――大猪の牙と皮、雷の術書
海辺の洞窟(未踏破ボーナス)――水魔法《水中呼吸》、冒険スキル《地図形成》
海賊船長レア種――革の幅広ベルト、海賊のマント、闇の術書、闇の水晶玉×4
土地と手下――虹色の果実、海賊の大斧、海賊の長槍、海賊のサーベル
最後の宝箱――各種インゴット、各種薬品、各種宝石、お金、闇の眼帯
――緋色の頭巾、海月の呼び水、海豚の呼び鈴、宝珠《清き水》
――皆伝の書:武器、金のメダル×3、初級職『初級海賊』魔石(中)
この中ですぐに使えそうなのは、やはり海賊ゾンビの落としたサーベルと、両手武器の大斧と長槍かな。武器スキルは皆無なので、スキル無しで使う前提だけど。
攻撃力はどれも10前後と高いので、普通に使っても問題の無いレベルではある。耐久値も高いし、片手剣や大斧がメイン武器の人は貰って嬉しいには違いなさげ。
ただし、生憎とこちらは短槍と両手棍が主力武器な訳で。まぁ、あちらもコッチの都合で、ドロップや宝箱の中身を変えてくれる訳も無い。
致し方の無い事ではある、武器が全て壊れたのが計算外だっただけ。その点、装備品のドロップは有り難くてすぐに使う事に。
と言っても、マントは風呂敷にしているので現時点では使用不能の状態。必然的に、装着可能な新装備はベルトのみとなってしまった。
それでも心はウッキウキ、何故ならポーチ数が増大したからだ。
これでパウダーも水晶玉も、仕分けて収納出来て使い放題である。戦闘中での鞄からの使用は、前にも言った通り自殺行為なので基本誰もやらないそうだ。
その点、このポーチ付きベルトは、防御値の上昇以上にアイテム使用が楽になって有り難い。付加価値の付いた装備類は、普通に考えて良装備である。
ただし、以下の装備品は付属の魔法の使用に色々と制限があると聞いている。ってか、防御値も無い便利装備なので、普段使うメリットは余り無い。
精々が、お洒落装備扱いである……まぁ、見せびらかす人は近くにいないんだけどね。それでもいざと言う時にすぐ使えるように、鞄に仕舞っておく事にした次第。
そんな訳で、実は装備に大まかな変更は無いと言う。
――闇の眼帯 耐久-、防-、闇魔法《Dビジョン》使用可能
――緋色の頭巾 耐久-、防-、炎魔法《炎テンション》使用可能
魔法の防具は、こんな感じで耐久値が無い代わりに防御力も存在しない。その代わりに付加されている魔法が使えるのだが、これにも使用条件が。
例えば『闇の眼帯』なら、装備した人が闇魔法を1つでも覚えていないと発動しないらしい。そんな訳で、俺は闇の眼帯は使えるけど緋色の頭巾は使用不可。
ちなみに《Dビジョン》は暗視魔法で、《炎テンション》は攻撃アップの強化魔法らしい。局地的には、両方とも便利そうな魔法装備ではある。
それから換金性の高い宝物類や素材系は、これも取り敢えずは放置の格好で。鞄の中に放り込んで、無くさない様にはしておく予定。
逆にすぐ食べる保存食や簡単に取れる素材系は、風呂敷マントの中へ。すぐ使えるモノ……そう、依頼の達成で魔法が使える様になったんだ!
再び魔法戦士を目指せる嬉しさの根源は、ラマウカーンから貰った報酬の『契約の指輪』である。これによって、妖精が装備欄の主から従者へと格上げになってくれた。
良く分からないが、精霊の説明によるとファーのスキルに《幸運付与》と《魔法阻害》ってのがあった模様。そして晴れて従者になる事で、悪い方の性質が表に出なくなったらしい。
それから良い性質の《幸運付与》の方は、残してくれるとの事でラッキー!
嬉しい計らいのせいで、俺の運値は相変わらず余裕の20超えをキープしている。ちなみにファーも、どさまぎで精霊から何やらアイテムを貰っていた。
他にも特別に、『魔除けの香炉』と言うアイテムを譲って貰えた。これはフィールドで使用すると、モンスターが入って来れない結界を作り出してくれるらしい。
危険なエリアでちょっと休憩するのに、とても重宝しそうなアイテムある。俺は丁寧にお礼を言って、もう少しこの安全地帯に居座る許可を得る。
それから新しく魔法を覚えたり、昨日再び貯め込んだスキルPの振り分け……をしたい思いは、もちろんあるけどそれは取り敢えず後回しの方向に。
まずは失ってしまった武器の製作が先、それを失敗したら最悪サーベルか斧デビューするしか手が無い。取り敢えずアイテム整理を終え、新しい武器のレシピを脳内で紡ぎ上げる。
それからいつもの、なんちゃって合成で作り上げる流れに。
この中で、短槍の作成に使えそうなのは……やっぱり、尖っていると言えば『大猪の牙』かな? 以前の女王蜂の針に比べるとかなり太いが、まぁ何とかなるだろう。
棍棒はどうしよう、取り敢えずは前の形状で1本作っておこうか。先端に重い石を括り付けるとか、変えようと思えば色々と手は加えられるとは思うけど。
下手に弄って、操作性が失われると慣れるまで大変そうなので今はパスだな。そんな訳で製作開始、そんな俺の手元を鴉モドキが興味深げに覗いて来る。
どうやら人間の器用な手先に感心している様子、そりゃあ彼は元の型からして鳥類タイプだしねぇ。妖精のファーも、彼女にしては大人しく見学を決め込んでいる。
ちょっと緊張するが、幸い素材は全て揃っているので問題は無い。まずは手軽な棍棒かな、木材を黙々と削って行けば自然と完成してくれる。
このナイフも意外と便利、まぁ戦闘には全く使ってないけど。
「人間とは器用なモノだな、その器用さを見込んで少々頼みがあるのだが……。実は我らは、信仰される事でより多大な力を得る事が可能なのだ。
つまりそのぅ……我の為に、祠を作って貰えないだろうか……? 小さいモノで良いのだ、勿論しっかりと報酬は支払う。
どうだろう、この条件で頼まれてはくれまいか?」
「へえっ、それは……別に良いケド、期限とか最低限の大きさとかもう少し詳しく教えてよ。こっちも色々とお世話になってるし、そんな大きな物でなければ。
その辺を確認出来たら、依頼を受けるのは吝かではないよ?」
「おおっ、頼まれてくれるか、若き冒険者よ! 別にこの依頼は急ぐでも無いのだよ、材料もそちらで集めて貰わないといけないからな。
長く掛かりそうなら、途中経過の報告にこの東の森に寄ってくれればいい。我は大抵、この近くにおるから」
何と、クラフト系の依頼をひょんな事から受けてしまった。さて、どうしたモノか……材料の当てと言えば、あの落下した馬車くらいしか今の所思い付かない。
今からそちらに向かうなら、途中で安全地帯に寄ってみるのが良いだろう。今日の分のクエ依頼書をチェックしたり、薬品や修繕交換券も新しく貰える気がする。
ただし、前もっての計画だと今日は北の森でポーション集めの予定だった。
――そんな訳で、この後の時間の過ごし方をどうするべきかな?




