最初の果実ゲット
大熊と飛竜だが、どっちも今の自分より確実にレベルが上みたい。特に飛竜だが、何か大きな獲物を鍵爪に引っかけていたような?
壁際にいた山羊だか何かが、恐らくは犠牲になってしまったのだろう。 そいつの代わりに喰われるのは、俺は御免こうむりたい。
他にも、断崖の崖上にまで続く道を発見した。つづら坂になっていて、俺の場所から右方向から登れそうだ。もっとも、中腹辺りで崖崩れがあったのか道が途切れている。
無理すれば突っ切れそうだが、空中からはその間丸見えな状態が続く訳で。何かしらのイベントはありそう、どちらかと言えば悪い方の襲撃イベントか何かが。
うん、ここは自分のレベル的に無理するべきポイントでは無いな。などと俺は周囲を確認して行くが、気になる点はまだ他にもあった。
崖から落ちて来たのか、完全に壊れた幌馬車の残骸が何台か無残に散らばっている。それから、断崖の左の壁方向にはチラリと洞窟らしき入り口が。
ただの熊の巣穴なのかもだが、何かある確率も捨てきれない。崖を登る道は選択肢から排除したから良いとして、廃馬車の中身の確認はしてみたい。
何か良さ気なアイテムがあるかもだし、木切れだけでも素材に使えそう。
それから左手の洞窟だけど、当然ながら中は真っ暗だろう。クエ報酬に松明を貰ったとは言え、片手を塞いでの探索はちょっと嫌かも。
ましてや、その状態でモンスターとの戦闘などは御免こうむりたい。取り敢えずは、洞窟の正面まで森の端に沿って移動してみようか。
熊に見付からない様に慎重に、他にもアクティブな敵はいるかも知れない。この位置からは、微妙に角度が悪くて幌馬車の中は見る事が出来ない、残念。
移動して新たに判明したのは、洞窟の数が実は結構多かったと言う事実。人が直立して入れそうな大きさの奴は、3つほど確認出来てしまった。
同じく壊れた幌馬車も3台、うろつく敵に知られずに近付けるだろうか?
どちらにせよ、崖際には近付かないといけなくなった。何故なら崖から根を生やしている根性のある広葉樹が1本、そいつが見た事の無い果実を生やしていたのだ。
虹色に輝くその果実は、まず間違いなく5つ集めるとどんな願いでも叶う……いやいや、この最初のエリアからの脱出に必要なアイテムの筈。
樹は地上から3メートル程度から、斜め上に向けて枝を伸ばしている。果実が生っているのは、その更に3メートル上の枝である。
更に慎重に周囲を見回すが、幸い熊の姿は近くには無い様子。アレの大きさは他と較べても明らかにヤバいので、今のレベルで戦うなど論外だ。
もちろんそれ以上に巨大な飛竜は、見付かったら裸足で逃げ出す以外手は無い。アクティブな敵の種類は分からないが、とにかく見渡した範囲にモンスターはいない。
時間はまだ半分残っているし、ポーション類も豊富にある。ここは崖までは慎重に進むべし、何か嫌な仕掛けが無いとも限らないし。
そろりそろりと何とか崖下の樹の元まで移動を果たし、ここからが厄介な山場が待っている。幸い崖には、出っ張りや窪みが割とあって上るのに不自由は無さげ。
樹の枝も渡って進むには不便は無い幅を備えているので、登ってしまえば回収は難しくない気がする。本当に山場などあるのか不明だが、まぁ無くても誰も困らない。
そんな訳で、俺は覚悟を決めて装備を整えてからレッツ木登り。とは言うモノの、散々迷った挙げ句に、安定の木の棍棒を片手に持っての崖上りからスタートだ。
さっき拾った盾を使ってみたいと思ったけど、さすがに木登りに両手塞がりは不味い。樹には葉っぱが茂り放題で、視界が悪い事この上ない。
まぁ、そのお陰で周囲の敵の目を誤魔化せていると思えば悪くないのかも。肩にとまっている妖精も、必要以上にキョロキョロと上の方を警戒している。
確かに、何かに襲われるなら定番は上からかなぁ?
と思っていたら案の定、何か重そうな物体が降って来た感触にビックリ仰天する俺。妖精のサポートが無ければ、思い切り不意を討たれていたかも知れない。
こんな足場の悪い場所で、間違っても戦闘などしたくは無いのだけれど。敵も心得たモノ、みすみす懐に入り込んだ獲物を取り逃がさない構え。
いきなり接近戦の構えのその動き、どうにもトリッキーだと思ったら。何と大蛇と言う名前の、初見のヘビ型のモンスターだった。
体長はゆうに5メートルを超す大きさ、大蛇の名に恥じぬビックサイズ。こちらはようやく樹の根元に足を引っ掛けた所、飛び降りるには3メートルはやや高い気が。
必死に棍棒を振り回して抵抗するが、どうも敵の方がレベルが上の様子。一撃のダメージは、昨日遣り合った女王蜂とどっこいな感触。
名前の色から、レア種では無くて普通の動物系モンスターらしい。こちらが動き辛いのを見越してか、その長い胴体で巻きつこうとして来る嫌らしさ。
いや、それが彼らの獲物の仕留め方なんだろうけどね。そんな思いを味わいたくなど無い俺は、必死にそれに抵抗して樹上で暴れ回る。
可愛娘ちゃんならともかく、大蛇に抱き付かれて昇天などしたく無いっ! この不利な状況を、何とか打開しないと不味いんだけど。
いざとなったら、落下ダメージを覚悟で樹の上から飛び降りるのもアリか、しかしそうすると、地上を徘徊する敵にも見つかる恐れが。
今の所姿は見掛けないが、リンクの怖さは昨日身を以て体験済みだ。へっぴり腰のせいか、思ったようなダメージは出せていないこちらに対して。向こうも習性なのか、性急な攻撃は仕掛けて来ない大蛇である。
じっくりと捕らえた得物を蛇の生殺し、なるほど言い得て妙である。される方からしたら、堪ったモノでは無いんだけどね。
噛み付き技を何度か喰らいながらも、こちらも反撃の棍棒が幾度かヒット。ダメージ具合はどっこいどっこいか、それなら回復技を持つこちらが有利。
逆転されないためにも、太い胴体での締め付け技は何としても防がなければ。ってか、昨日の蜂モンスターに続き、コイツも《毒撃》って特殊技を持っていた。
毒でのスリップダメージに泣きそうになりながら、俺は狭い枝の道をへっぴり腰で移動して行く。
それからHPが半減したのを見越して、安全策にと奥の手の《Dタッチ》をお見舞いする。暗闇状態になりやがれと、少々小狡い顔での呪文詠唱だった……のだけれど。
何故だか呪文が発動しない、呆気にとられている隙に何と大蛇の締め付けの餌食になる俺。これは一大事、ってか詰んでるんじゃありませんか、ちょっとねぇ待って!
喚きながらの再度の闇魔法も、やっぱり発動しない有り様。これは不味いと、取り敢えず自由になる片手で鞄からポーションを取り出して一気に煽る。
もう片方の手は、胴体と一緒に巻きつかれていて動かせない。とんだ失態だが、魔法が発動しないまさかの事態に気が動転していたのは事実。
原因究明は後回し、今はこの絶体絶命のピンチを何とかして脱出しないと。ってか、巻き付き技のダメージはスリップ扱いなのかっ!?
なるほど、身動き不可とスリップダメージを同時に喰らう感じ……毒のダメージと一緒になって、かなりHPの減りが不味いですぜ、旦那!
旦那って誰だと1人突っ込み、とにかく反撃しないと! 抜け出すのは諦めた、こっちが死ぬより先に相手の息の根止めちゃるわいっ!
幸い今は超接近戦、腕は動かし難いが攻撃は絶対当たる距離。
これは武器を替えた方がいいかな、棍棒よりは短槍の方がダメージが入りそう。何しろ短距離で突き刺せるからね、そんな訳で武器チェンジして反撃開始。
不格好な姿勢での片手での攻撃だが、何とかダメージは入っているみたい。大蛇の頭が牽制に入るけど、妖精が目の前を飛び抜けて上手く気を逸らしてくれている。
命懸けの支援に、こちらも頑張って応えなければ……女王蜂の短槍を逆手に持って、己に巻き付いている蛇の胴体に何度も突きを見舞ってやる。
こちらの体力もヤバい領域に入った頃に、ようやく締め付けが緩くなった。最後の悪足掻きのアクションで、何故か俺たちは仲良く枝から落下の憂き目に。
それが仇となってご臨終の大蛇、脅かし役は見事務め切った感じ。
いやいや、それ以上の役目は果たしてくれたと言うか……昨日に続いてHPが一桁台で、しかも毒ダメージは現在も継続中と言う。
慌てて鞄の中を漁るけど、何と毒消し薬が品切れ状態! 死を覚悟した途端、何だポーションで体力を回復する手があるじゃんと気付いた。
隣で同じく慌てていた妖精も、一息ついた俺を見てようやく安心した様子。何にしろ良かった、後は『虹色の果実』を回収するだけだ。
いや、もう1つ重大な確認事項があった。どうして俺は、突然魔法が使えなくなったんだ? 思い当たる節は無……いや、1個だけあるような無い様な。
コボルト達との戦闘では、問題無く呪文は発動していた。その後何があったかと言えば、滅茶苦茶怪しい商人に出遭った事くらいだ。
そして擦り付けられた、籠に入った妖精が1匹。
「……お前かっ!!」




