ランチタイムと血の交わり
誠也の驚くべき告白だけど、さすがに眉唾だなと俺は眉をひそめて友人を見遣る。既に弁当は喰い終わって、俺の手は箸の代わりにパックのジュースを手にしている。
ところがそんな誠也の台詞に、女性陣から思わぬ助け舟が。しかもゲームをしていない環からで、これは幾分か信憑性が芽生えて来そうな雰囲気。
「あぁ、私もちょっと聞いた事があるよ! この学校って、剣道部とか弓道部が割と盛んじゃない? その部活が人気ある理由は、ゲームにも応用出来るからだって。
そんな事を、入部してる友達が言ってた気がするかな」
「へぇ、それが本当だったら凄いね……ってか、そこまでゲームに捧げる熱意は怖いね!」
誠也の話は環によってインターセプトされ、それに対する奈美の感想はストレートだった。それでも、環による裏取りの供述は大まかだが伝わって来た。
現実と架空世界の奇妙な逆転現象は、モノの価値観を考えるのに色々と勉強になる。しかしまさか、そこまでゲームの優位性を勝ち取るために労力を割く学生がいるとは驚きだ。
人間は、空想が可能な動物である。ああなりたいとかこんな風に生きたいとか、現実逃避だったり妄想だったりとかスイッチは様々ではあるのだが。
でも空想のエネルギーって、大抵は空焚きだったりする訳で。
それがVRMMOの場合、現実世界にも影響を波及させているらしい。面白いなぁと思いつつも、やはりその変な意欲とか熱意は俺もちょっと怖いって思う。
ゲーマーの心理は良く分からない……恐らく物事に打ち込む熱意に関しては、他の部活動に励む学生達と遜色はないのだろう。
もはや俺もその一員に名乗り出たのだと思うと、少しソワソワしてしまう。それがどんな類いの感情なのか、自分でも判然としないけど。
誠也は尚も俺にレクチャー、と言うか弓矢は『ミクブラ』では廃れた武器だと主張していた。スキルが高くないと扱い難いうえ、矢弾が消耗品なので維持にお金が掛かるそうな。
初っ端の入りに敷居が高い上、使い続けるのも大変だと言う二重苦に。お陰でゲーム内でも、高スキルの弓矢使いは滅多にお目に掛かれないそうである。
それを聞いても、俺は我が道を行くって決めてるけどな!
半面、やはり魔法戦士は優勢を占めているそうな。ゲーム的には、誰でも割と簡単に魔法を覚えられるシステムなのがその大きな理由らしい。
前衛を担う戦士でも、自己強化魔法程度は自分で覚える傾向がある様で。その程度なら、ガチガチに重い鎧を着込んだ前衛でも詠唱の妨げにはならないみたい。
やはり魔法の使用は金属鎧だと阻害されやすく、大抵は革鎧が魔法戦士の主流なようだ。一番使用者が少ないのは、実はペラペラの布装備との事。
何しろ術者と言えど、多少とも防御力は気にする模様。
「やっぱり防御力が低いのがネックだから、みんな敬遠しちゃうんだよね……でも、合成で一番付加価値を付けやすいのが布装備なんだよ?
まぁその分、売値は割とお高くなるけどね? その次が革装備で、一番流通してるかなぁ……金属装備は、素材も高いし職人も多くないかも?
もっとも、限定サーバでは、合成職人自体がほとんどいないみたいだけどね?」
「そうそう、今の限定サーバはみんなが経験値稼ぎに冒険に出ちゃってるから。だから装備なんか、割とみんな貧弱で似たり寄ったりなんだよねぇ。
作るとしても、自分の使う奴だけとかで、バザーには出回ってない感じかな?」
琴音の言葉を誠也が引き継いで、限定サーバの現状を報告してくれる。そんな2人は、元サーバでは革装備がメインで冒険をしていたそうな。
その流れで、限定サーバでもそちらをチョイスしているのだとか。俺もそう……ってか、あの『始まりの森』では装備の選択の自由なんて無いもんね。
このゲームはバーチャルだけあって、装備の重さもスタミナの減り方に影響するそうだ。そうなると、自分も金属鎧は避けて革鎧一択だなぁ。
自作合成の話は驚いた、みんな限定サーバでは手を染めて無いらしい。自分は珍しさもあって、幾つかやってみたいと思ってるんだけど。
なるほど、話を聞くと1日の1時間制限がネックな模様。まぁ、ゲーム内の活動時間は4時間だけど、優先順位はよりシビアになって来るって訳だ。
その中で他人より秀でようと思ったら、まずは己のレベルを上げる事になっちゃうのかな。PKって厄介な連中もいるらしいし、仕方ないのかも。
ロストで1週間の出禁だし、それは誰だって嫌だもんねぇ……。
他にも色々と冒険の豆知識を得ながらも、皆がお弁当を食べ終わった頃を見計らって。俺はゲーム未経験者の環と奈美が退屈しない様に、ゲームの中からキーワードを選んで話を振る。
少し前に話したけど、この手のゲームへの参加者は世界各国に存在する。ネットが通じればインが可能なので、それはまぁ当然だったりするのだけれど。
だから当然、そこら辺のサポートはどのゲーム会社も充実させている様子。俺がやっているこのタイトルも、その辺のアピールの意味合いがあるのかも知れない。
『ミックスブラッドオンライン』……混血を題材にしたゲームって事か。
日本人は血筋とか混血とか、そこら辺に対する認識は曖昧だと思われる。国境を陸地続きの他の国々と違って、日本は人種の坩堝とは掛け離れているし。
日本ではあまり馴染みが無いのは、そんな訳で当然なのかも。ただし、血縁関係がどうとかなんてのは、ドラマとかではよく持ち上げられている気も。
そんな感じで、小説マニアの2人の反応を窺ってみようと話を振る俺である。
「どうだろう……確かに異邦人との恋愛とか交流とかを題材にした小説って、日本の文化には無いってか少ないような気がするかなぁ。
奈美ちゃんは、何か思いつく?」
「ん~、昔の推理小説の設定でいいなら、ドロッとした血縁関係のがあったかな? ほら、映画とかにもなった良くある感じの奴とかさ。
田舎の豪族って人達は、莫大な財産が外部に流れるのを嫌って、近縁の親戚同士で結婚するみたいな?」
なるほど、そう言うしきたり設定はどこかで耳にした事があるような。外部の人間を嫁や婿に取ると、新たな血縁が拡がって遺産相続がややこしくなるって嫌な計算で。
その嫌なしきたりのせいで血が濃くなり過ぎて、奇形児が産まれやすいとか。そんな感じで悲劇が生まれての、物語の進行だったような。
異なった血と血の交わりって、自然界からしたら意義深い事なんだなと、その時感じた覚えが。自分にはない可能性を取り入れて、将来へと希望を紡いでいくみたいな。
自然淘汰の生存競争に負けない遺伝子を、そうやって組み立てて行く昔ながらのシステムに。血縁同士の枠内で抗うのは、とても馬鹿げた取り組みには違いなく。
テーマとしては面白いと思う、実際にそんな田舎の豪族がいるかどうかは別として。そしてこの『ミクブラ』と言うゲームの、職業では無く血筋を選ぶアバター製作の妙。
純血でも混血でももちろん遊べるが、その違いや癖を見極めるのも1つの楽しみ方なのかも。昔の映画で、自分の先祖がどこから来たのかルーツを辿って行くってのがあったけど。
自分と言う血統を確信するには、得心の行く手段だと思う。
俺がそう振ると、確かにその考え方は面白いねと環と奈美に賛同を貰えた。こんな文学的な話し合いは、俺達の間では結構頻繁に行なわれている。
別に互いの知識をひけらかし合っている訳ではない、楽しいから議論しているのだ。その後も血筋とか血縁とか、どこがどんな風にファンタジーっぽいのか議論がなされ。
勇者の血筋とかね、さすがに琴音はゲーム脳である。
『ミクブラ』こと『ミックスブラッドオンライン』は、スキル制を主軸にしたVRMMOである。全世界に配信されており、そのユーザーは現在4千万とも5千万とも言われている。
それなのに、今回の賞金付き限定サーバの定員が5万人程度で収まっているのは、その限定サーバが日本サーバに限られているかららしい。
それにしたって、この10倍は人数が増えても良い筈なのに。
そこら辺は、どこかで規制が為されているのかも知れない。とにかく、このゲーム内のアバターを個性的に彩るスキル制と豊富な職種。
それから、優秀で人間味溢れる人工知能を持つNPC。更には言うに及ばずな四倍速の世界は、他のゲーム会社より確実に数歩先を進んでいる。
そんな本来は一番重要な技術部門より、新社長がこのゲームにより興味を抱いた理由は。
ステータス欄に運値を含んでいたからだと、どこかの裏掲示板に紹介されていたとかいなかったとか――




